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神祇 ─じんぎ─  作者: 高石童話本舗
あらかじめ
15/1823

あの頃の15


「うふふ…………」


地上に降り立った後、いよいよ勝ちを確信して、右腕をするどく振るう。


身体の側面をひた走った一刀が、薄明の弧円を、ひゅるりと描いた。


直刃(すぐは)を基調に、(のた)れごころ。


戦慄の刃味を薫らせる豪壮な刃は、(かさね)厚く、身幅も広い。


(ふち)(かしら)など、各所の金具には、象嵌(ぞうがん)で描かれた地獄絵・百鬼夜行の図柄が蔓延している。


中でも、とくに目を引く(つば)の意匠にいたっては、古桜の(もと)で自刃を遂げる姫君の図があしらわれており、ひどく破滅的な印象を受けた。


そんな、愛用の庖丁刀。 “鬼の庖丁”を引っさげて、ようよう(とど)めを敢行(かんこう)する。


「ほら、念仏でも唱えなさいよ? あぁ、喋れませんかぁ? じゃあいいや」


凍てつく文言(もんごん)を手向けとし、右腕を頭上に(かか)げる。


さながら、夏陰の細流か。 清らかな(うる)みを流す側頭部に、不意にパシリと、細かい放電が生じた。


それが、徐々に実体を持ち始め───


ついには、一対(いっつい)の白銀が、畏怖の尖塔をかたち作る頃。


「ガシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!」


「へ?」


今まさに、まな板の上にある食材が、全力で暴れるように。


このザリガメもまた、最期の力を振り絞った。


びっしりと(うろこ)に固められた長大な尾が、大気を横殴る。


「うか…………ッ!!?」


それが、あらん限りの勢いで、少女の体躯に衝突した。


(いかずち)のような火花が()ぜて、硬質の小薄片が飛散した。


雄大な力に(もてあそ)ばれた矮躯が、明後日の方向へ出奔し、公園と田畑を区切るスチール製のフェンスを突き破った。


「くお…………ッ!!!!」


園内に転がり込むや、すぐさま“庖丁”の切先を地面に突き立て、ブレーキとする。


一尺三寸六分(約40cm)の刃長が、一気に土中に食われ、沈み込んだ。


それでも、身体に作用する慣性は、簡単に打ち消せるものではない。


(おびただ)しい粉塵が直線に疾走し、刀身が悲鳴を上げて、各種の金具がガチガチと弛緩(しかん)を始めた。


持ち主の体躯も同じく。 上下左右の感覚が、まったく混然とする恐慌の中、骨格が(きし)みを上げ、筋肉が痙攣を(きた)した。


そうして、大した制動も見込めないまま。 一定の飛走を終えた身体は、公園の中心付近にある休憩所を直撃。


屋台骨がへし折れ、それを支えとする正方形の屋根が、音を立てて崩れ落ちた。

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