あの頃の13
「あはは…………」
その末に、口内で渾々(こんこん)と甘噛みを続けていた愉楽の気が、とうとう堰をぶち破った。
「あははッ!? おっきなハサミ! 天ぷらがいいです? それとも、バター焼きですかオラァ!!!」
言葉の真意こそ、私たちには到底理解しかねるものだったけど、状況は解る。
この女性は、あの怪物に立ち向かうつもりなのだ。
右腕をするどく操作して、庖丁刀をぐるぐると、勢いよく宙に躍らせる。
それを乱暴にキャッチして、特徴的な菱形がならぶ柄糸を、手のひらに密着させる。
この“ぞんざい”な取り扱いを経ても、一刀が金属音を喚くことはなかった。 時代劇とは違う。
刀身はもちろんのこと、各種の金具にも、一寸の緩みはない。
それはまさしく、持ち主が掲げる迫真の用途に、徹底して追従する戦場刀そのものだった。
「──────────────ッッッ!!!!!!」
そうして、気合いを掛ける目的か。 彼女が咆哮した。
人が放つ気迫というか、霊威のようなものを、初めて見た。
大気がパチパチと弾けて、肌身を静電気のように刺激する。
そこを、いやな汗が伝ってゆく。
全身におよんだ感度の波が、背筋を凍りつかせ、身体の自由を奪う。
大きく響動んだ銀杏の林から、変色した葉々の群れが、吹雪のように舞い散った。
「ショアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」
これに応じたザリガメが、甲高い声で啼いた。
ああいう生物に、果たして発声器官が備わっているのか疑問だった。
けれども、互いに真っ向から対峙して、蛮声を浴びせかける両雄。
なんというか、すこぶる絵になるなと。 そういった印象を受けた。
ちょうど、怪獣映画を彷彿とさせる。
そう。 見た目を差し引いて考えた場合、彼女の化け物ぶりは、このザリガメに匹敵するものだった。
あるいは、優に凌駕するものだった。




