表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神祇 ─じんぎ─  作者: 高石童話本舗
あらかじめ
PR
12/1823

あの頃の12


「逃げ……っ! 逃げよう!!!」


「はやく! ほらっ!!!」


今でもなお、たった一つだけ、胸を張って誇れることがある。


私たちのうち、誰ひとりとして、友達を置き去りにしようとはしなかったことだ。


もちろん、それが当たり前のことと言えば、その通りである。


だけども、“自分だけは何としてでも逃げ延びよう”だとか。


そういった、人間らしい意地の汚さは、誰も発揮しなかった。


とにかく、みんなで逃げる。


それしかなかった。


無我夢中だった。


恐らく、そうした気概が、この異常な事態に際し、かすかな正気と、勇気をくれたのだと思う。


一致団結した私たちは、手に手を取り合って、必死に林道のほうへ引き返した。



「………………」


そこには、いまだに気味の悪い女性がいた訳だけど、仕方がない。


この場合、後門の狼のほうが、まだ危険は少ないように感じたのだ。


「姉ちゃんも早く逃げろ!!!」


誰かが、声を荒げて言った。


女性は応じない。


仕方なく、林道の入り口で一旦(いったん)足を止めて、彼女の視線を追う。


その双眸(そうぼう)が、まっすぐに見つめる先──、貯水池のほうを確認する。


岸辺を形作るやわい土塊(つちくれ)を押しつぶして、今まさに、ザリガメが全容を現すところだった。


とは言え、節足が無数に(うごめ)く胴体の後ろ半分は、いまだ水中にあるため、正確な体長を知ることはできない。


それでも、すでに出現している部位の重量感というか、質量・威圧感は、(はなは)だ凄まじいものだった。


動物園で初めて象をみた折りの、とてつもない圧巻ぶりによく似ている。



「………………」


そこで、“おや?”と不信を覚えた。


恐ろしいザリガメと、(おそ)ろしい女性とを、交互に見比べる。


細い肩口が、小刻みに戦慄(わなな)いていた。


すぐに、恐怖によるものだろうと感づいた。


けれども、そうじゃなかった。


彼女は、ひどく楽しそうだった。


“くつくつ”と、喉の奥を小刻みに顫動(せんどう)させて、おかしそうに腹を(よじ)っていたのだ。


なにが面白いのかは解らない。


一体なにが、こうまで彼女の琴線(きんせん)に触れたのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ