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神祇 ─じんぎ─  作者: 高石童話本舗
あらかじめ
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11/1823

あの頃の11


不意に(まど)いきた夏焼けの黄葉(おうよう)が、美髪のうえを音もなく滑り落ち、福寄せの繊手(せんしゅ)にやんわりと触れて、地面に落ちた。


「なんか……、いい人みたい?」


いち早く肩の力を抜いたのは、幼なじみの男子である。


先のセリフから、こちらの身を気遣(きづか)ってくれていると、そんな風に錯覚したのだと思う。


早計だ。


彼女が(いざな)う先は、単に木陰じゃないように思えて仕方がなかった。


「ほら、ボサッとしてないで。 早くこっちぃ来なさいって言ってるんでしょーよ?」


警戒心をむき出しにする私たちの様子に、やはり苛立(いらだ)ちが(つの)ったのだろう。


手招きの姿勢にも、より一層の熱がこもる。


「ほらほら! 早くしないと、危ない! 危ないですよッ!?」


「え…………?」


そうして、彼女が一際(ひときわ)つよい語気で放った警告は、まったく不可解なものだった。


「うわわっ!?」


唐突に、すぐ横合いで激しい水音がした。


それに続き、頬に点々と、生ぬるい水しぶきが触れた。


「あぁ…………」


“言わんこっちゃない”とばかりに、盛大に息をついてみせる彼女の様子。


そこから勢いよく転じた注目を、音の発信源──、近場の貯水池に向ける。


「はぁ……っ!!?」


まったく、肝を冷やした。


というより、事態があまりに異常すぎた。


そのため、改まって驚き怖れることを、完全に忘れ果てていたようにも思う。



真っ赤なハサミは、不要な家屋を解体する際に用いる重機のような異様で、ひたすら大きかった。


頭頂に突き出た二つの目玉は、無研磨の玉石よろしく、一分(いちぶ)の輝きもない。


背中に負った皺寄(しぼよ)りの甲羅には、経年の(こけ)が茫々と()しており、濁った水滴が無数に垂れていた。



「うわ…………」


それは、私たちが想像した通り。 ただただ、恐ろしい姿だった。


この貯水池に()む未確認生物。 あるいは、魔物。


安易に“ザリガメ”と呼ぶのも(はばか)られるような、圧巻の異容だった。

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