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神祇 ─じんぎ─  作者: 高石童話本舗
風は吹けども
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安らかな

初めて人間を傷つけた時、どう感じたの?


初めて血を見た時、どう思ったの?


泣いたよね? アタシは。


なんで泣いたの?


どうして悲しかったの?


ねぇ、なんで?


ねぇ? ねぇ? ねぇねぇねぇ???


アタシは、人間が好きだった?


アタシは、自分が嫌いだった?


好きなものを傷つけちゃうんだ?


嫌いなものを守っちゃうの?


結局、アタシは何がしたいのさ?


“女帝”になりたいの?


なりたくないの?


現世(うつせ)を地獄に()えたいの?


地獄を現世に()えたいの?


アタシは、本当に鬼なの?


アタシは、何者なの?


「あぁ……?」


いつしか、顔色を悪くする曉の周囲には、人集(ひとだか)りが出来ていた。


身辺を囲むようにして、彼女と同じ顔をした群集が、万斛(ばんこく)にも(あふ)れていた。


「やめて……。 やめてよ?」


それぞれの口から、ひどく(さも)しい文言が、波風のように寄せられる。


「や……っ!!」


(たま)らず、耳をふさぐ。


それでも、奔放(ほんぽう)に響く声音(こわね)の渦は、少女の耳殻(じかく)を介することなく、その脳内へ略略(りゃくりゃく)と侵攻し、心中をじっくりと(むしば)んでゆく。


「アタシは鬼です」


「アタシも鬼です」


「アタシも」


「アタシも」


「アタシも」


「アタシは、アタシの大嫌いな鬼なんだね?」


もう、ダメだった。


「あぁ……」


もはや、耳を閉ざす作業にも、()したる意味は見出(みい)だせず。


立っていることさえ、限界を感じ始める状況だった。


「アタシ……」


何もかもが、どうでもよくなった。


自分には、未来なんて無いんだ。


たぶん、明日も来ない。


考えてもみれば、そんな自分が、ここでどうなろうと……


ここで壊れたとしても、別に構わないような気がしたのだ。


それ以前に、自分には、心なんて無いのかも知れなかった。


鬼であるアタシに、心なんてものは、本当に邪魔なだけ。


“無用の長物(ちょうぶつ)なら、早く壊してよ”と思う自分がいた。


心なんて早く壊して、とにかく楽にして欲しかった。


もう、イヤなのだ。


悩むのはイヤだ。 苦しいのはイヤだ。 怖いのは、もうイヤだ。


「アタシは……ッ!」


「妹でしょ? 私の」


出し抜けに、柔らかな匂いを()いだ。


それに掛かる声は、どこまでも安らかで、ひどく(たの)もしかった。


「いつまでそうしてるつもり?」


「………………」


(なか)ば、呆然(ぼうぜん)としていたのだと思う。


ようやく我に(かえ)った曉は、すぐ(そば)に、実姉の姿があることに気づいた。

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