あの頃の10
「誰? あの人……」
「誰かの知り合い??」
「んーん。 知らない」
女の人がいた。
当時の私たちから見ると、充分な大人ではあったけど、年頃は16~17歳。
林道の暗がりを背景に、そっと畦道に佇んでいる。
髪色は黒く、伸びやかな潤みがある。
それが、足元から立ちのぼる陽炎も手伝って、ひどく底光りをしている様は、ひたすら眩しいものだった。
装いのほうも淑やかで、体の凹凸を、無闇に表すものではない。
その純朴な模様は、ただただ清楚であり、どことなく虚ろであり。
ひと夏の1ページに食い込んだ、可憐な少女のそれだった。
後に、私たちは親友同士の間柄になるのだけど、この時が初対面。
いまだ、互いに注意ぶかく牽制し合ってる段階だ。
「あなた達……、その池に何がいるか、知ってるんです?」
「え? ザリガメ?」
「え? 知ってるんです? 知ってて来た?」
「ん。 うん…………」
「えー…………?」
せっかくなので、彼女のことを紹介しておきたく思う。
名前は天野穂葉。
気立てが良く、料理がうまい。
ともあれ、そんな内面を知るのは、もうすこし先のこと。
「うあ? なんか、ヤバいの持ってる…………」
友達の声をきいて、その人の右手を見る。
ほっそりとした腕の先に、悍い見た目の庖丁刀が、ゆるりと吊り下げられていた。
刃長は、だいた40センチほど。
重厚く、身幅も広い。
その持ち方も独特で、非常にうす気味悪く感じた。
ちょうど、二本の指先を使って、汚いものなど摘まみ持つ格好か。
本来なら、なるべく触れたくないものではあるのだけど、どうしてもその必要がある。
なので、こういう持ち方を選ばざるを得なかった。
彼女が実践する所作は、まさしくそれに近いものだった。
「なに固まってるんです? 怖い?」
頼りのない指先で、ゆるく保持された凶器。
その切先が、彼女の口調に合わせ、所在なく“ふらふら”と揺れ動く。
まるで、枯れ枝から別れ落ちる間際の一葉。 死に急ぐ病葉を彷彿とさせる。 ひどく気味が悪い。
「そんな所にいると、日射病になっちゃう。 はやく、こっちに来なさいな?」
空いた左手を柔らかく撓ませて、スイスイと手招きをする。




