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神祇 ─じんぎ─  作者: 高石童話本舗
あらかじめ
10/1823

あの頃の10


「誰? あの人……」


「誰かの知り合い??」


「んーん。 知らない」


女の人がいた。


当時の私たちから見ると、充分な大人ではあったけど、年頃は16~17歳。


林道の暗がりを背景に、そっと畦道(あぜみち)(たたず)んでいる。


髪色は黒く、伸びやかな(うる)みがある。


それが、足元から立ちのぼる陽炎も手伝って、ひどく底光りをしている様は、ひたすら(まぶ)しいものだった。


装いのほうも(しと)やかで、体の凹凸(おうとつ)を、無闇に表すものではない。


その純朴な模様は、ただただ清楚であり、どことなく(うつ)ろであり。


ひと夏の1ページに食い込んだ、可憐な少女のそれだった。


後に、私たちは親友同士の間柄になるのだけど、この時が初対面。


いまだ、互いに注意ぶかく牽制し合ってる段階だ。


「あなた達……、その池に何がいるか、知ってるんです?」


「え? ザリガメ?」


「え? 知ってるんです? 知ってて来た?」


「ん。 うん…………」


「えー…………?」


せっかくなので、彼女のことを紹介しておきたく思う。


名前は天野穂葉(あまの ほのは)。 


気立てが良く、料理がうまい。


ともあれ、そんな内面を知るのは、もうすこし先のこと。


「うあ? なんか、ヤバいの持ってる…………」


友達の声をきいて、その人の右手を見る。


ほっそりとした腕の先に、(おぞ)い見た目の庖丁刀が、ゆるりと吊り下げられていた。


刃長は、だいた40センチほど。


(かさね)厚く、身幅も広い。


その持ち方も独特で、非常にうす気味悪く感じた。


ちょうど、二本の指先を使って、汚いものなど()まみ持つ格好か。


本来なら、なるべく触れたくないものではあるのだけど、どうしてもその必要がある。


なので、こういう持ち方を選ばざるを得なかった。


彼女が実践する所作(しょさ)は、まさしくそれに近いものだった。


「なに固まってるんです? 怖い?」


頼りのない指先で、ゆるく保持された凶器。


その切先が、彼女の口調に合わせ、所在なく“ふらふら”と揺れ動く。


まるで、枯れ枝から別れ落ちる間際の一葉。 死に急ぐ病葉(わくらば)を彷彿とさせる。 ひどく気味が悪い。


「そんな所にいると、日射病になっちゃう。 はやく、こっちに来なさいな?」


空いた左手を柔らかく(たわ)ませて、スイスイと手招きをする。

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