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【一章完結】永和怪異始末録  作者: 横山
子守のバイト

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9/11

おとなしい子だし、今回は楽そうだな

「さて、何するの?」


 部屋にあるのはソファとテーブル、テレビと小さな古いタンス。それだけ。


「おままごと!」


 即座にしのが答えた。


「しのがお母さんで、お兄ちゃんがお父さんで、あと赤ちゃん!」


「赤ちゃんか……」


 一週間前にメールからの依頼を受けた子守のアルバイト。最寄りの駅から迎えの車に乗せてもらってこの家に来たのだが、いたのはしの一人。

 今日だけではあるものの、久しぶりのまともな仕事だと喜んで受けたのだけど、こんな小さな子を一人家に残したままなんて、まともな親ではないのかもしれない。


「う~ん、無いねぇ」


 一応どの部屋に立ち入っても問題ないとメールには書いてあったけど、玄関と廊下、トイレと一応台所。

 しのの手を引いて家の中を歩いてみたが、人形やぬいぐるみなんてどこにも無い。


「こうなったらさ、二人でままごとする?」


「赤ちゃんがいないとヤ」


 もう、頑固なんだから。

 幼児らしく頬を膨らませ、ぷいとそっぽを向いたしのと一緒に暗い、長い廊下を歩く。

 普通の一軒家を想像してたのに、こちらですって下ろされたのが結構大きめの洋館でびっくりしたよなぁ。

 これが本格的なつくりなのか、なんちゃっての趣味で作ったのかはわからないけど、玄関からまっすぐに伸びた廊下と両側に並ぶドア。

 しのがトイレに行くために居間から出てきてくれてなかったら、片っ端からドアを開ける羽目になってたかもしれない。

 ……あれ、居間のドアってどれだったっけ?


「あの、しの?どこのお部屋だったかわかるかな?」


 しのはまだ横を向いたまま。

 黙ったまま俺の手を離して、二つ先のドアを引いてこちらを見る。それは一番初めにいた居間だった。


「ありがとう、同じドアなのによくわかるなぁ」

 何か、慣れたら分かる違いでもあるんだろうか?……木目とか?

 しのは部屋の隅に走っていった。あの、小さい引き出しがいくつもついたたんすの元へ。

 そして、引き出しを開け閉めして遊びだす。

 俺がこの部屋に入ってきたときもこのたんすの引き出しがいくつか開いてたっけ。

 縦4、横4の16に別れた小さな引き出しの並ぶタンス、小物入れ?コレがこれくらいの子には遊びになるんだなぁと、苦笑しながらしのの元へ行き、後ろからたずねた。


「楽しい?」


「うんっ!えっとね、これ押すとね」


 真ん中辺りの引き出しをめいいっぱい開けて、それをすばやく閉めると、両隣のがぱくっと出てきた。


「ほら、ね」


 それを同時に押すと、また別の引き出しが出っ張る。それが面白いらしい。

 この様子なら大丈夫だろうと、その後俺はソファに座ろうとしてしのに背を向けていたので気づかなかった。

 引き出しをひとつ押し込んだとたん、他のすべての引き出しが勢いよく開いた事なんて……ただ、大喜びするしのの声だけが聞こえていた。


 さわ、さわ……


 ああ、窓の外で葉ずれの音が聞こえる。少し風が出てきたんだなぁ。


 ざわ…ざわ……


 いや、これは、声?

 何を話しているんだろう。誰に話しているんだ?


 ……ね、たのしみ


「お兄ちゃんっ!」


「ぅわっと、え、寝てた?」


 揺さぶり起こされ、うとうとしていた事に気づく。


「呼んでも起きないんだもん」


 ぷくり、と怒り顔のしの。

 訂正、うとうとではなく熟睡していたようだ。


「ごめんごめん、どうしたの?」


 日が少し黄味がかって窓から差し込み、時間の経過を教えている。

 二時、いや三時前くらいかな。


「箱取れちゃった……」


 しのが指差したのは、例のたんす、引き抜かれた引き出しが二個、転がっていた。

 取れちゃった=壊れちゃった、らしい、くすりと笑って、安心させるようにしのの頭をなでてやった。


「取れちゃったか、大丈夫、壊れたわけじゃないからすぐ元に戻るよ」

 かがみこみ、引き出しを一つ手に取ったときにちょっとした違和感があった。たんすと見比べ気づく、奥行きに比べ、ずいぶん引き出しが浅い。


「奥に何かあるのかなっと」


 抱えられるほどの大きさの小さなタンス。引き出し側を部屋の明かりに向けて傾ける。

 のぞきこんでみても暗くてよく分からない、取り出そうにも手が入らない。ちょうど小さな子供の手が入るくらいの大きさだ。


「しの、ちょっと来てくれる?」


「はーい。どうしたの?」


「この奥に何かないか見てくれないかな?」


「うん、いいよ……うーん、紙が入ってる」


 しのが取り出してくれたそれは、紙に包まれた人形の足だった。包んでいた紙は、広げておいてある。ティッシュペーパーほどの大きさで、墨で書かれた文字はよく読めない。ずいぶん古いものらしく、端から黄ばみ、ところどころ破れている。

 何かの書き損じで包んだのかな?人形の足を?

 しのは嬉しそうにそれを持ってはしゃいでいた。


「ねえお兄ちゃん、他のところも出していい?」


 キラキラと瞳を輝かせて許可を求めるしの。

 こう言うところ、お行儀がいいな。大事に可愛がられた子って感じだ。

 俺みたいなバイトに預けるって、よっぽど急ぎの用事だったんだろうか。


 いや、でもメール来たの1週間前だしな?

 友人からのお古のスマホ(sim無し)で、外のフリーWi-Fi頼りで求人サイトを見てたら突然届いた依頼の連絡。その時を思い出そうとしてた俺の服の裾を、しのがくいっと引っ張った。


「あ、じゃあお願いします」


「はい、分かりました!」

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