なんか変、かも?
わぁ 初お気に入りだ!
ありがとうございます〜
しのが積極的に引き出しを抜いて手を突っ込み、結局すべての引き出しの奥に一つずつ、頭、手、足、胴のうちいずれかが納まっていた。
俺はその横で、包まれていた黄ばんだ和紙、そこに書かれている掠れた文字を睨んでいる。
「今日はどうしましたか~?はい、先生、頭が取れちゃったんです……」
どうやらしのは、頭を一つ手に取りお医者さんごっこをし始めたらしい。
紙にも、人形の部品にも妙なものは一切感じられない。
僅かに読み取れる文字がちょっと見覚えがある並びなのも、きっと気のせいだろう。
一体当り六つに分割された人形の部品が十六個、これを元通りつなぎ合わせたとしても、余りが出るんだろうなぁ。
お医者さんらしいセリフであれやこれやと人形を元通りにしようとくっつけているが、なかなか正しいものが見つからないようだ。
「手伝おうか?」
手近な胴体を持って尋ねる。
「うん!」
しばらく二人で試していたが、どうにもくっつかない。ひとつもくっつかない。
「う~ん、なんでかなぁ?」
全部の通りを試してみたのに諦め切れないのか、しのは未だに繋ぎ合わせようと悪あがき中。
「なんでだろね」
もう、外は夕焼けで、しのも、人形も赤く染まっていた。
これらの部品がそれぞれ別の人形から外された物だとしたら……ふと、体の一部がもがれた人形が何体も飾られている光景を思い浮かべてしまってあわてて打ち消した。こわいこわい。
「それにしても、お母さんたちの帰りが遅いね」
今日の昼過ぎには帰ってくるはずだったが、何か予定が長引いているのだろうか。
「お母さんじゃないよ、おばちゃんとおじちゃんだよ」
僅かに平坦になったしのの声。
メールの文面を思い浮かべる。
「え、じゃぁお母さんとお父さんは?」
確かにうちの子とかそんなニュアンスじゃなかったな。
しのの性別や年齢と、一日子守を頼みたい旨と時給が簡単に書いてあった。
「うんとね、しんじゃった」
こんな小さな子に、なんてこと言わせてんの俺!?
人形の頭を手の中で転がしながら、しのは続ける。
「だからこれからはここがしののお家なんだって」
「そっか……」
相槌を打ちながらも無責任すぎやしないかと少し腹が立った。引き取った小さな子供を家に置きっぱなしか?俺が来るまでこの家にはしのしかいなかった。
それに、自分で言うのもなんだが、俺みたいなバイトに任せるなんて……。
「今日、おじちゃんたちが帰ってきたら、しのが家に来たおいわいするんだって」
しのがこの家に来てからもう大分経っているだろうに、今更お祝いか。
今日も中々帰ってこないし、よっぽど仕事が忙しいのか。
依頼主だし、なるべくなら好意的に見たいところだが、ちょっと悪条件が重なりすぎてるな。依頼を受けたのが一週間前、今日だけどうしても家を空けなければならなくてしょうがなく、なのかも知れないが。
でも普通、両親が死んで引き取った場合お祝いなんてするか?
「いつもしのは一人でお留守番してたのか?」
慣れたように家の中を案内してくれたから、よっぽどここに来て経ってるんだと思ってた。
「え?ううん、いつもはお母さんがいたよ?」
「あ……ごめんな、えっと、この家に来てからは、いつもおじさんたちの帰りを待ってるの?」
「違うよ、今日はじめてきたんだよ」
初めて、次第に大きくなる違和感。
「……しの、言いたくないなら言わなくていいけど。お母さんは、いつ死んじゃったんだ?」
聞かないとけないような気がした。
「んと、昨日」
「お父さんは?」
「お父さんも」
沈みかけた夕日のせいで、部屋の中は赤黒く染まっていた。
なんか、うっすらと犯罪臭がただよってきたんだけど。あれか、遺産相続とかそういった金持ちのどろどろした争いか何かなのか?俺、このバイト受けないほうが良かった!?
「お兄ちゃん?」
不思議そうに俺を見上げるしの。
保護者!早急に幼気な女の子の保護を求めます!!
いえ、あの世からは戻ってこないでください!
「ちょっと、帰るのが遅いからおじさん達に電話して見ようか?」
アホな事を考えてる心を他所に、頭は現実的にできる事を弾き出してくれた。
『……留守番電話サービスに接続いたします』
プツ
三回かけてみて諦めた、十数回ほどコールするが、留守電へとつながってしまい結局誰も出ない。
この家はおかしい。
人形の一部が隠してあったたんす。しのの親が亡くなる一週間前に、俺に子守の依頼をしていたおじ・おば夫婦。引き取ったばかりの姪っ子を家に残したまま帰って来ない。連絡を取ろうとしても電話に出ない。
……あれ?
となると、この家でおかしいのは初めのたんすだけであって、変なのはしののおじ・おば夫婦になるな。一体どういう人たちなんだろう。そういえば、この仕事はメールで引き受けたものだから夫婦の顔も知らないや。
今更ながら再び嫌な予感がしてきて、俺はもう一度、しのと家の中をめぐることにした。
ざっと見渡しつつ一周したが成果なし。さすがに引出しとかを漁るのは失礼だと思ったから本当に見渡しただけだ。居間に戻ろうとしてドアを開けた時、しのと俺は同時に気づいた。
窓の下に何か落ちている。
「あっ!」
止めるまもなくしのが駆け寄り、歓声を上げた。
「お人形だ」
「どれ、ちょっと見せてみて」
取り上げるように受け取ったそれは確かに人形だ、先ほど家を探したときには見つからなかった物がここに落ちていた。
さっきまで何も無かったはずのところに。




