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【一章完結】永和怪異始末録  作者: 横山
子守のバイト

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11/11

アウト〜!!

「しーのーのー」


「あ、ごめん。はいどうぞ」


 おもちゃ屋で売っている女の子用の人形ではない。

 日本人形、よりも少し細い感じで?どこかで見たか?

 うれしそうにいい子、いい子、と人形をいじくり回していたしのだが妙な顔をした。


「あれ?」


「どうしたんだ?」


「このお人形おなかが無いよ」


 触ってみると確かに、着物の胴体部分は妙にへこんでいる。

抱き上げてもくたっと二つ折りになりそうだ。


「落としちゃったのかな?」


 冗談のつもりで言ったのだが、不意に思い当たった。

 あのたんす……

 しのも思いついたのだろう、人形のパーツが転がっているところへ向かい、胴体を拾い上げた。

 小さな手が器用に四肢と頭をついでいく。


「上手だね」


「うん、だってしのお人形好きだもん」


 やはり、この人形の胴体はあのたんすの奥にあったうちのひとつだったらしい。五体(六体?)のそろった人形に服を着せ、しのは満足げだ。


「前のうちにも……人形があったのか?」


 尋ねかけて口ごもったが、そのまま止めるのも変かと思い最後まで尋ねてしまった。しかし、あまり気にしないでくれたようで。


「んーん、買ってくれなかった。お母さんお人形嫌いだったの」


少しだけ寂しげな横顔。

 でもね、と、すぐに何か思い出したのか顔が輝く。


「しのの幼稚園にはお人形もぬいぐるみもいっぱいあるよ。

 お正月におじちゃんとおばちゃんにお人形が好きだって言ったら、お家だとお母さんが嫌がるからって幼稚園にいーっぱい持ってきてくれたの。

 だから幼稚園ではいっつもみんなでおままごとするんだ!」


いーっぱいと両手を広げる姿が可愛らしい。

じゃけんにはされてなかったみたいだな。


「そっか、よかったね」


「うん。ね、お兄ちゃん、おままごとしよう」


 お父さんは会社に出かけるものだと部屋の外に追いやられ、そろそろいいかな、とドアを開けた。


「ただいま~」


「おかえりなさ~い。ご飯をどうぞ」


 しのの前に腰を下ろしてぎょっとした。人形が増えてる?

一体目とよく似た人形。

散らばったパーツに目をやると、右足が一つ消えていた。


「お父さん、二人目がうまれましたよ~」


増えた方を抱き上げて俺によく見えるように差し出してくる。


「え、あ、うん。おめでとう。その人形、どこにあったの?」


 そう言うと、しのは口を尖らせた。


「もお、お父さん!人形じゃなくてあやちゃん!みやこちゃんの妹なの!!」


いや、そんなこと言われても、廊下にいた俺に何を察しろと?

 理不尽に怒られてふい、と外を見ると真っ暗だった。そういえば、十時にここに来てから何も食べてないよな?


「しの、お腹減ってない?」


「減ってないよ?お兄ちゃんお腹減ったの?」


「いや、減ってないけど……」


 今日、昼食とおやつと夕食が付いているからって朝飯を抜いてきたんだけど、全く空腹を覚えない。

 ちょっとこれ、まずいんじゃないか?



---



 困ったときの竜頼み、ということでそういったことに詳しい幼馴染の竜一(りゅういち)に電話をかけるもつながらない。仕方が無いのでもう一人の幼馴染、というか幼い頃の兄代わり?に電話をかけてみる。


『はい、もしもし、春明(はるあき)です』


「あ、春。ちょっと助けてほしいんだけど……」


癪だけど、声を聞いた途端にホッとした。

ほんと癪だけどな!


『ただいま電話に出る気がありません、御用の方はピーという発信音の後に…』


 くっそ、本当に春が出たと思って話した俺がバカみたいじゃないか!

 何で留守電が本人の声なんだよ、あれか、ハイテクって奴か!?しかも電話に出る気がないって、じゃあ携帯すんなよ!むしろ俺によこせ!!俺も留守電のやつ使ってみたい!!!


「はぁ」


 ため息をついてしのの元へと戻ると、なぜかさらに増えた二体の人形を直しているところだった。


「あ、お父さん。今度は双子ちゃんが生まれましたよ~」


 合わせて四体、いつの間にか増える人形って、怖いな。どこのホラー映画だよ。

諦めて認めよう。この状態はおかしい。しかもあんまり係わりたくなかった方面におかしい。


 まず、全く空腹を覚えないことから俺やしのの身体が何らかの影響を受けている。

供給を受けているのか隔絶されているのか。外は暗くなってるが、実は全く時間が経過していない、なんて事もあるかもしれないな。

そうしたら今日の時給どうなるんだろ、いやいや、そんなことより無事この状況から抜け出すことを考えよう。


 今のところ、ここには妖気も霊気も神気も無い。俺は霊的抵抗性が極端に低いため、そういうものには敏感なんだ。

ぺろりと人形の一部が包んであった紙を摘み上げた。


「これ、そういうことだよなぁ」


僅かに残った筆で書かれた文字。

俺が拙いながらも教わった、符呪によく使われる並びだった。


「お父さん、みやこちゃんをお風呂に入れてね?」


差し出されたのは一体目。みやこちゃんっていうらしい。


「あ、はいはい」


「ハイは一回」


「はーい」


 しのから渡された人形を改めて眺めてみる。精巧に作られた可愛い人形だよな。特に何も感じられないし、動くこともないし、これで中に何か入ってるとしたらよっぽどの存在だろう。

 少し髪が乱れていたので整えてやる。


「よっし、可愛くなった」


 心なしかみやこちゃんも嬉しそうだ。

 別に人形は嫌いじゃない。昔、竜一の妹の(りょう)ちゃんにひたすら付き合わされたことを思い出すな。

 人形のみやこちゃんをソファに座らせて窓へと向かう。


「すっかり暗くなっちゃったな?」


 しのは人形を直すのに夢中で返事は無かった。独り言みたいで少し恥ずかしい。ごまかすために窓を開けようか。

 古い閂を外して開き戸を押すが、開かない。さび付いてるのか?


「くぬぅ!」


 先ほどよりも力を入れてみるも、だめ。


「ふんっ!」


 ……びくともしない?

 ベルトにつけてある小さなかばんからメモ帳とペンを取り出して簡略化した『開』の呪文字を描く。少しいたずら心で発呪をいじって完成。

文字が破れないように点線にそって切り取り窓に押し付ける。

ま、これで開くならただ単に力が足りなかっただけだな……むしろそうでありますように。


『オープンセサミ』


 発呪を唱えたとたん、ばちぃ!と青白い火花が飛んで、呪符が窓からはじかれた。やっぱむりかぁ。

 妙な力が働いてない限り何でも開けられる呪符(販売、譲渡、悪用は退魔法違反)がはじかれたことで確定した。これ、超常現象(やっかいごと)だ。


「しの、おじさん達遅いからちょっと迎えに行こうか」


 人形を直し終わったしのに声をかけてから気付いた、このセリフは誘拐犯っぽいな。

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