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【三章完結】永和怪異始末録〜時々巨大もふもふ〜  作者: 横山
断章

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温泉旅行 下

「ちょ、何が、大丈夫か!?」


 春明に背負われた修平を見て、慌てて車から降りようとするおっちゃんを竜一が手で制した。


「ごめん、おっちゃん、近くの温泉病院てとこまでお願い」


 春明の言葉に完全に運転手モードに切り替わり、頭の中で最短距離をはじき出す。


「わかった、救急のほうがいいか?」


 三人が乗り込むと同時にドアが閉じられ、じゃりじゃりとタイヤが小石をかみながら、ハンドルを切って国道へと向かう。


「あ~、いや、救急行くほどじゃない、か?」


 すでに出血は止まっているらしく、神気の増加は感じられない。


「そうか、じゃあ、普通に病院玄関だな。あ、シートベルトはちゃんと着けてくれよ」


 わずかに緩んだ車内の空気。病院へは十分もせずに到着した。

 この辺りで唯一の心霊科がある中規模の病院で、待合室でおしゃべりをしているご年配の方々の視線を浴びながら待つこと十数分、いまだに意識の戻らない修平の名が呼ばれ、看護師さんが持ってきた車椅子へと乗せられると、付き添いの春明と共に診察室へと消えていった。

 竜一はそれを見送って病院の玄関を潜ると、今回の依頼の失敗と、状況を伝えるためにスマホの電話帳を開く。


『は?……え?』


 電話の相手、この辺りで1番大きな神社の神主は、竜一の言葉が飲み込めなかったのか、呆けたような声を漏らした。


「だから、禁足地の調査は……」


『待って待って待って!あそこの調査!?入ったって!?……ああ“っ!?』


 最後の悲鳴のような声、竜一は慌ててスマホを耳から遠ざける。


『ごめん!うちの神様に確認するから、後でかけなおします!』


 ぷつりと切れた通話。

 神社から受けたと聞いていたから、この辺りの総代をしているところへとかけたのだがこの反応


「……春のやつ、どっから受けた依頼だったんだ?」


 竜一は訝しげに呟いた。

 そこへかかってきた電話。

 出るとタクシーのおっちゃんからの、停車している駐車場位置の連絡だった。



 ---



「あぁ!!待って待って!逆!!」


 医者が手当に使おうとした洗浄液のラベルを見て、春明の悲鳴が上がる。


「え、でも、妖魔とやり合って怪我したんでしょ?聖水使ったほうがいいんじゃ無いの?」


「切ったの俺です。それと、こいつ、霊的抵抗性ほぼ無いんで、むしろ逆効果です。精製水でお願いします。消毒も、一般向けのやつでお願いします」


「……なんで心霊科来たの?」


 呆れたような先生の声に、春明もため息を吐きながら説明をした。


「血液に加護宿ってるんですけど、今意識ないんで神気散らせないんです。だから治療に使った廃棄物は中和剤使ってください」


「あぁ、そういう……中和剤、在庫あったっけな?」


 そんなやり取りの裏、看護師さんは内線を耳へとあてていた。


「薬剤部さんですか?こっち第6診察室だけど、中和剤の在庫確認してくれないかな?……そう、中和剤、なんか必要みたいで、あ、ある?よかった、どうしようかな……こっち持ってきてもらえる?うん、ありがとう」



 ---



 病院に着いた時にはすでに止血も済んでおり、念のためにと病院で一泊となった修平を置いて宿に戻った2人。


「さっき、1番近くの神社に電話したら、禁足地の調査依頼とかしてないって言われたんだが?」


 じろりと、胡散臭いものを見るような冷たい視線で睨まれ、春明は頰をかいた。


「ここの神社じゃなくて、向こうの山のとこにある神社、そこの祭神からの依頼で……なんか、次にアレを引き受ける順番だから様子見してこいって、可能なら滅ぼしても良いって言われたもんで、弱ってるのかな~って……」


 次第に弱くなる語尾、たまにある、神様からの無茶振りだったことは、アレを見た後では明白だった。


「何十年かに一度、封じてる物の危険性を思い出させるために、わざと中をのぞかせるらしい」


 伝えられてなかった裏話を聞かされて、さすがに春明も慌てた声を出す。


「まじか!?くっそ、あの神社、来年から補助金削ってやる!」


 そんな恨めし気な様子に、竜一がとどめの一撃を放った。


「今まで中に入った半数以上が未帰還で、それをもって忠告としてたらしい」


「…………は?」


 間の抜けた声、そしてすぐに変わった空気に竜一は今回の撤退戦の原因となった祭神への意趣返しを確信した。



 ---



 無事に帰宅し、各自ゆっくり休んでからの翌日。

 平日の昼間、縁結びと健康長寿で少しだけ知られている神社の社務所内。

 垣延命(かきえんのみこと)のおじいちゃん神様は、頭を下げた三人と向かい合っていた。


「すみませーん、この恋みくじください、二つ」


「はい、四百円ですよ」


 その背後では神社の神主が売店でお守りやおみくじを販売している。


「じいちゃん、今回は手順も踏まずに呼び出して、ごめんな」


 修平が申し訳なさそうに頭を下げる。


「いやいや、吾子は悪ぅ無いぞ、なーんも悪ぅない。悪いのは安易に請け負うた守り(もり)のはぐれと、河上の餌じゃからな」


「はぐれって言うなし」


 春明の憮然とした声と、


「餌って呼ぶな」


 竜一の苛立ち混じりの声が重なった。


「でも、ほんと助かったみたいで、ありがとう!」


 話を聞いただけの修平だが、今回の禁足地への立ち入りが命にかかわることだったと理解はしていた。

 そんな姿にますます目を細め、一瞬、垣延命は修平の頭を撫でようとして、その手を止めるとお供えとして持ってこられた炭酸せんべいへと手を伸ばした。


「えーよ、えーよ、いつでも呼び?」


 可愛い子からのお土産に、しばらく後、この神社での縁結び効率がやけに高いとうわさが広まった。



 ---



「あ~、傷、残ったな」


 決まり悪げに春明が包帯の取れた修平の腕を見た。


「なんかちょっとかっこいいよな!中学生だったらやばかったかも」


 そんな春明の様子には気づかず、わずかにひきつれたそこをなぞって嬉しそうな修平。

 その姿を見て、春明は呆れたように吹き出した。



 ---



 河上家の竜一の部屋、クーラーの効いたそこで修平は腕を机の上へと伸ばし、竜一の読書の邪魔をしていた。

 パソコン机の椅子の上を占拠していた春明が何かに気づく。


「あれ、修、傷は?」


 つい最近まで確かに残っていた、一本に引かれた薄紅の跡、それが綺麗さっぱり消えていた。


「ん?あぁ、なんか花舞のとこに遊びに行ったらよく効く軟膏があるからって塗られて、そしたら三日くらいで消えた」


「……秘伝の薬とかだったんだろうなぁ」


 複雑な思いを押し殺し、春明はだれにともなく呟いた。

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