社会人一年目 下
元職場、食堂にて。
点きっぱなしの薄型テレビを見ながらのお昼時。
「へ~、妖気アレルギーなんてあるのね~」
「ねぇ、学校でやったパッチテスト、あれって意味あったんだね~」
そんなことを話しながら、食器の中身は片付いて行く。
『我々は、妖気にアレルギーがあるという小学生二年生の飛鳥くんへとインタビューを開始』
『お医者さんも看護師さんも、すごく良くしてくれて。
なんか僕より年上にも妖気アレルギーの人がいるみたいで、どんなふうになるのかよく知ってて、それで、色々教えてくれたから訓練もしてて』
『訓練はどういうことをするの?』
『えっと、妖気がある物?僕はブレスレット使ってるんだけど、それを離れたところに置いてもらって、近づけるギリギリのところで我慢してじっとしてるとか』
「妖気があるなら霊気とか神気とかのアレルギーもあったりして~」
誰かがふと思いついたというように漏らした言葉。
「え~、ないない、そうだったらどうやって生活するのよ……」
そっかー、と笑い合う女子社員たち。
そこに偶然通りかかった部長が不思議そうな顔をした。
「なに言ってんだ?こないだ辞めちゃった大川君、あの子がそれだっただろ?
入社の際に配られた社報に新人の紹介欄で書いてあったじゃないか。
霊気とか神気もダメだけど、上着に仕掛けしてあるから普通に生活できますって、私が面談した時には真面目ないい子だと思ったんだが、一年持たなかったとはな~」
最後は呟くように言葉を収め、そのまま空いている席へとお盆を運んで去っていった。
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元職場 営業部にて
送られてきたFAXをパソコンで確認していた担当者が、頭を抱えていた。
「またか……これで3社目だ」
「どうしたんですか?」
隣から、後輩の声。
「うちの商品を掲載してくれてたカタログ作ってるとこが、次回からは断るって……結構注文数も多かったし、苦情だってほとんどなかったのに、理由を聞いても決まったことだから、とだけ……」
「うわぁ……あれですかね?プライベートブランド増やしたかった、とか?」
画面を見て、カタログの名称を確認して、後輩も苦々しい顔になる。
「それがな、今月入って3社目なんだ、カタログから外すって連絡。うちのと類似の商品扱ってるとこと新しく契約したとかいう話も聞かないし、理由も全く同じ、もう決まったことです、の一点張りだ」
理由がわかればまだ対処もできるだろうに、そのきっかけさえ与えられず、全国区のカタログからの掲載拒否に、売上の影響を思って担当者はため息を吐いた。
「ちょっと失礼……」
後輩がマウスへと手を伸ばし、チャカチャカと3社の名称を確認する。
「あ、ちょっと共通点見つけたかも、この三つ、全部神社仏閣関連に特化したカタログ発行してますよね」
「あぁ、そういえば、でもそれと何が関係が?」
「さぁ、そこまでは?」
上森家
全国の神主の血筋を辿るとほとんどが上森家出身またはその遠縁だと言われている
春明の実家
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年末
「なんか、例のカタログ抜きにしても、今年の売り上げ低調でしたね」
営業部の必至の売り込みで、新規の取引をいくつか開拓して、多少は取り戻したはずだった売り上げ、数字を見てみると確かに低い。
全体的にうっすらと落ちている。
「ひょっとしたら何かで炎上して不買運動?とか確認してみたんですけど、そう言うこともないみたいで」
「君、結構色々やってくれてたんだね」
担当者は後輩の意外な有能さを知って、もうちょっと回す仕事増やしてみるかと考え始めた。
河上家
日本全国に傍流がいる、問題児を輩出すると本家が尻拭いと謝罪行脚とブートキャンプを実施
全国的なうっすらとした売り上げ減の原因
竜一の実家
「ま、こんな時こそ地道に回っていこう。商品自体は自慢できるんだから!」
吹っ切れたように売り上げ金額のグラフを閉じて、次にするべき仕事へと向き直る。
後輩はそれでも未練がましく商品ごとの売上数のグラフを引っ張り出していた。
「そうですね、そういえば、人事部に聞いたんですけど、入社希望の子たちって半分以上がうちの製品が好きだからって答えるらしいですよ?」
「へぇ、それは光栄だね」
「で、詳しく聞こうとすると、みんな同じようなこと言うんですけど、三分の一くらいは一つか二つの製品について熱心に語ってくれるとか」
その言葉に、面接用ではなく本物の熱量の気配を感じて、後輩へと尋ねた。
「……入社試験の面談内容って読めるっけ?」
「え?さあ……あぁ、本音の商品レビューみたいなもんですもんね、ちょっと確認してきます」
「ありがとう」
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「あれ、それってあの会社のペンだろ?」
就職活動中の修平がスケジュール帳へと予定を書き込んでいるのをみて春明が声をかけた。
「そだよ、新作」
あっさりと答える修平。
「へ~、俺だったら見るのも嫌になりそうだけど」
「いや、元々あの会社の文房具が好きだからって入社したんだし、製品自体は今でも好きだよ。特に今回のは使い心地いいから長く売って欲しいな」
「ふぅん」
春明は頭の片隅に、潰れない程度に、と注意書きを書き込んだ。
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上森家へと呼び出され、好物ばかりが並んだ夕食の後、修平は上森家当主、春明の父と向かい合っていた。
「少し痩せたか?ちゃんと食べてるのかな?」
修平の顔をまじまじと眺めてわずかに眉が下がる。
「食べてるよ、相変わらずおじさんは心配性だな~。今日もごちそうさまでした!美味しかった、実家の味って感じ!」
「そうか、今日の食事当番に伝えておくよ。さて、最近山梨に行く用事があってね、ちょうど目についたからお土産にって買ってきたんだよ。使ってくれると嬉しいな」
渡されたのは木製の箱、赤い紐がかかっている。
「使う?開けていい?」
「どうぞ」
紐を引っ張り、蓋をずらすと一面の硯。
「これ……え、あれ?……明月!?雨畑の!?」
本当に硯屋に入って、ただ目についたものを買った当主は、見ただけで産地と名称を言い当てる修平に苦笑した。
「良かった、良い品だったみたいだね」
「うん!雨畑はいつかお給料ためて買おうと思ってたんだ。あ、でも、これ、めっちゃ高いよ、ね?」
「いや、今回の怪異を解決したお礼ってことで、かなり割り引いてくれたらしい」
「そっか、ありがとう、大事に使う」
修平は木箱を胸へと抱えて部屋を出ていった。
「な~親父、俺には~?」
「自分で買ってこい、この放蕩息子」




