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【三章完結】永和怪異始末録〜時々巨大もふもふ〜  作者: 横山
3人組成長譚(逆行)

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社会人一年目 上

 22歳


 流行病


「こちらで消毒をお願いします~」


 マスクでこもった声。目元をニコリと緩ませて、お店の入り口でお姉さんが消毒液の入ったプッシュボトルを示していた。


「えぇっと、自分で持ってきたやつでも大丈夫ですか?」


 申し訳なさそうに、修平はカバンの中から細いプッシュ式のスプレーボトルを取り出した。

 消毒用のエタノールを詰めたものだ。


「えっと、あの……すみません、こちらの消毒液でお願いしたいんですが……」


 申し訳なさそうに示されたのは市販のボトル。


『消毒用アルコール、手に優しい成分配合。聖水配合なので冠婚葬祭全てにご利用いただけます!』


「……あ、じゃぁいいです」


 修平はトボトボとラーメン屋を後にした。



---



 給湯室にて


「みんなで大容量の消毒液買って分けようって、マイボトル持ってたから親切で声かけたのに、『結構です、自分で用意します』って酷くない?」


「うわぁ、潔癖症ってやつ?ちょっと気分悪いかも」


気心の知れた相手しか存在しない空間のせいか、声は抑えられることはなかった。


「あ、会社の玄関の消毒液も絶対使わないのよ、受付の子が言ってた」


「えぇ、徹底してる~」


人数が揃えば始まる、誰が言ったかも覚えてられないような噂話。

特に今年度は一風変わった新人のおかげで話題には事欠かなかった。


「いつもスーツの上から一枚羽織ってるじゃない?」


「目立つよね~、暑いなら脱げばいいのに、スーツの上だけ脱いで上着は絶対脱がないのよ」


「変な宗教だったりして~」


「あはは、なにそれ~」


流しの反対側では、聞き流しながらポットのお湯を注ぐ人。

耳を傾けながら冷蔵庫からペットボトルを取り出す人。


 ぽん、と肩を叩かれ振り向くと、同期の篠山さん。


「どうしたの?何かあった?」


 修平が尋ねると、ゆっくりと首を振り、


「御愁傷様」


 可哀想な子を見るような目で見つめられて、首をかしげる修平をそのままに、自身の机へと向かうのだった。



---



お願いしますと差し出された封筒に書かれた宛先を見て、庶務の中年社員は困ったように眉を下げた。


「この書類、ここじゃ無いんだけど」


新入社員の修平は慌てて宛名と廊下のプレートに書かれた名称を見比べる。


「へ?え、あ、すみません!もう一回確認します」


「はぁ、気をつけてね、最近ミスが多いらしいよ?」


今年はちょっと変わった奴が入ったらしい、どこからか聞こえていた噂を思い出す。

本当にスーツの上に上着着てるんだなぁ、などと考えながら、最近増え始めた使えないという話に対しての苦言を少し。


「すみません、ほんと、気をつけます……」


肩を落として去って行く姿に心の中でエールを贈り、社員は部屋へと戻った。


「あの、飯田さん、この書類ってどこに持っていくんでしたっけ?」


宛先の第三営業部と書かれているのは確認済みだが、ひょっとしたら持って行く先は違う可能性も考えて、教育役をしてくれている女性社員へと尋ねたのだが。


「え、第三だけど、また聞いてなかったの?」


「う……でも、三階の庶務って……」


修平に頼んできた時には確かにそう言われた記憶があった。

宛先違うけど、庶務って名前だから書類のお届け物とかもするのかな?

などと考えながら向かって先ほど門前払いをくらったのだ。


「そんな、私が嘘ついたと思ってるの?……ひどい……」


わずかに大きくなった声、目元を擦る仕草。


「え、ぁ……すみません、聞き間違えたみたいで……」



---



「……ふぇ……ひっく……」


「あ~、泣くな泣くな、そんな会社クビにされた方が良かったんだよ。ほら、仕事なら俺が回してやるから」


 春明が脱ぎかけたフードを被せ、頭を撫でながら慰める。


「ふ、ふつーの、社会人したい……ぐす……」


「いや、符術師の国家資格持ってんだから、退魔師の方が明らかに稼げるだろ?」


 竜一はわずかに呆れたように正論を吐く。一応は慰めているつもりらしい。


「うっさい!そんなしんどいの、や!!」


 初ボーナス兼退職金でいつも世話になってたからと二人を誘った初居酒屋で、修平は見事に酔い潰れたのだった。



---



「んで、働く先無くなったんだからうちに帰ってくるんだろ?」


 春明にとっては当然の帰結だったが、修平は首を振る。


「いや、バイトでもなんでもいいから仕事探す。上森の家にこれ以上迷惑かけらんないし」


「迷惑って……はぁ、いつでも帰ってこい」


「ん……とりあえずハローワーク?行ってみる」


「……退魔師」


「竜はしつこい!俺はふつーの社会人して!自立して!みんなに美味しいものお土産にするの!」


「あ、これあれだ、明日は記憶ないやつだ」


 春明がニヤニヤと瞳をぐるぐるさせてる修平の頬をつつくが、本人は何をされているかさえわかっていない様子。


「んで!竜と、春明と、上森の兄ちゃんと、おじちゃんと、おばちゃんと……河上の、おじさん、と……」


 ついにはテーブルへと突っ伏し、動かなくなった。


「なぁ竜」


「ん?」


「こいつ、俺たちに何してくれようとしてたんだろうな?」


「さあな」


 とりあえず、修平の家で3人が一泊するのは確定のようだった。

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