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【三章完結】永和怪異始末録〜時々巨大もふもふ〜  作者: 横山
子守のバイト

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交渉術(どやぁ)

 字がほとんど読めない程に薄れて剥がれ落ちる紙。


「ちょ、まじで!?」


 再びフダを取り出してドアに貼ろうとしたのだが、触れるか触れないかのところで弾かれてしまう。

 もう対処してきた!?

 憑依か妖魔かは分からないけどかなり知性が高いらしい。開きかけたドアのノブをつかんで引っ張った。


 くそう、せめて部屋側に開くドアだったらバリケードとかできたのに!

 いざとなったらすぐにでも窓を壊そうとテーブルの、乾かしていた呪符を見ると、人形が立っていた。


「あれ?」


 しのが目を真ん丸にしてそれを見ている。

 あやちゃん人形は先ほど作ったばかりの呪符を拾い上げ、小さな手でまだ乾ききっていない紙面を掴み、


「待って、それ、まず……」


 俺の制止を気にもせず、あっさりと破り捨てた。

 フダにこめられた神気が行き場を無くしてあふれ出し、封符が貼られてあるがゆえに部屋を濃密にただよう。

 慌てて上着のフードを被るが、ぐらりと視界がゆれる。それでも、人形がしのに近づくところは見えた。


 よたよたとしのに駆け寄り後ろにかばう。あやちゃんはこてん、と首をかしげた。


『どうして、隠すの?』


 子供の様な、老人の様な、不思議な声が響く。俺はカバンから出した酔い止め薬を口に放り込み噛み砕いた。この声だけで頭が痛い。


『しのちゃんと遊びたいのに』


 ドアの音は止んでいた。


「残念ながらよい子はとっくに寝る時間なんだよ。こんな妙な家に閉じ込めやがって、体内時計が狂って幼稚園に起きれなくなったらどう責任とってくれんだ?」


 明らかに意思を宿す瞳を睨みつけるが、目は合わない。


『しのちゃん、遊ぼう?』


「無視かい、とにかく子供同士で遊ぶときは保護者の許可が要るんだよ。んで、今の保護者の俺はお前らがしのと遊ぶことは許可しません」


 一瞬、生贄という言葉が脳裏を走った。ひょっとして、しのはこの人形達に捧げられた遊び相手なんじゃないか?前に座敷童子を留めておくために長子を捧げていたって言う家を聞いたことがある。

 後ろを見ると、しのが少し困り顔。少し釘をさしておこう。


「遊びたいなんて言ったらもう帰れなくなるかもしれないぞ?」


 そのまま、困った顔でしのはうなずいた。

 そしてついにドアが開き、他の人形もなだれ込むようにご入場。対峙する為に一枚の呪符を取り出すと人形たちはいっせいに息を呑んだ。ま、息なんてしていないだろうからそれっぽい動きをした。


 さすがに人形なだけあって火は苦手と見える。発火符を人差し指と中指ではさんで突き出すとおろおろと数歩下がった。

 火事になるとまずいけど、いざとなったらためらわないつもりだ。


「お前たちに危害を加えるつもりは無い、ただ、この家から出して欲しいんだ」


『嫌。せっかくしのちゃんに会えたんだもの』


 あやちゃん人形がつぶやいた。


『遊ぼう』


『遊ぼうよ』


 他の人形達もしのに呼びかける。

 ゆっくりと人形達が近づいてくる。


 呪符を構えるとおびえた顔になり、その中に悲しそうな顔をしたみやこちゃんを見つけてしまった。

 こちらを睨みつけるもの、困ったように眉を下げるもの、かたかたと震えて他の人形に抱きしめられているもの。


「……っ」


 よく、幼馴染たちには甘すぎると怒られるが、こんな状況でさえこうとか、ほんっとこの業界向いて無いな、俺。

 危害を加えようと思えばいつでもできた、本当にただ遊んで欲しいだけかもしれない。でも、その『遊び』がどの程度なのか、開放される時が来るのか……。

 揺らぐ考えを神気酔いのせいだと押し付けて、空いてる手で追加の酔い止めを探ろうとしたとき、


「いいよ」


 後ろで声がした。


『本当!?』


『あそぼっ!』


 嬉しそうな人形たち。


「うん、遊ぼう」


 今度の声はすぐ横で。

 人形の元へ向かうしのを止める。


「ちょっと、今の無し!しの、帰れなくなったらどうするんだ!?」


 しゃがんで、目を合わせるとやっぱり困った顔をしていた。目をそらしたしのは人形のほうを向き、尋ねた。


「ねえ、お兄ちゃんはお家から出してくれる?」


『うん、いいよ』


『しのちゃんが遊んでくれるなら、いい』


『遊ぼう!』


 口々に騒ぐ人形達はこの際放って置く。


「しの、あのな、朝会った時に言ったけど、俺は今日一日お前のお兄ちゃんなんだから、妹置いてくことなんてしないからな。絶対お前もつれて帰る、わかった?」


「……でも」


 少しして口を開いたしのはやっぱり困った声で、


「しの、今日が終わったらどこに帰るの?お兄ちゃんがお兄ちゃんじゃなくなって、おじちゃんもおばちゃんも帰ってこなかったら、しの、帰るところなくなっちゃう……」


 えぐえぐと泣き出したしのに、昨日両親を亡くしたばかりだということを思い出す。きっと何が起こったかもわからずにここに連れて来られて、さらに一人で放置されて、そりゃ平気でいられる訳が無いんだ。


 よく考えたらお通夜や葬式にも出て無いんじゃないか?

 何か他にも色々おかしい所だらけな気がする。何で俺、今まで気付かなかった?

 頭が多少働いたせいか方針が決まった。全員に聞こえるように手を打ち鳴らす。


「ハイ、ちょっとちゅうも~く」


 人形達も、びっくりして泣き止んだしのもこちらを見た。


「まずしの、一人くらいなら何とかするから帰る場所が無くなったらうちおいで。狭いけど、まぁ何とかする。明日からもずっと俺がしののお兄ちゃんな、決定。面倒なことは竜……あ~、知り合いに頼めばたいてい何とかしてくれるから大丈夫。


 んで、人形達。俺としのは人間なんでずっとここにはいられません。遊ぶのは一回だけな。それが終わったらちゃんと俺達をここから帰すこと。じゃ、それでいいならみんなで何するか決めるぞ~」


『鬼ごっこ!』


『かくれんぼ!』


 はいはいと人形達が手を挙げてやりたい遊びを主張する。

 遊びに考えを向かせて条件を飲んだことになるってのを気付かせない。どうよ、この高等テクニック。


『鞠つき!』


「おままごと!!」


『あ、おままごと!』


『飯事!』


 わぁ、圧倒的。女の子ってどうしてこうもおままごと好きなんだろうな。

 やっぱり俺の役目はお父さん。しのはお母さん役をじゃんけんで見事勝ち取った。


 あやちゃんとみやこちゃんはそのまま、残りの十四人にすらすらと、まるで知っていたかのように名前をつけていく。


「はなちゃん、いちちゃん、いよちゃん、たえちゃん……」


 俺はというと、何とも言えない表情で白々と明け始めた空を、窓から眺めていた。

 貫徹なのに全く眠くない。これが徹夜ハイと言うやつか。

 あやちゃんとみやこちゃん以外、見分けがつく気がしない。すこーしだけ、しのも普通じゃないんじゃ?なんて頭によぎる。


「……ももちゃん、さわちゃん、つるちゃん!お兄ちゃん、おままごと始めるよ?」


「はいは~い」


「もうっ、ハイは一回!」


「ハーイ」

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