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【一章完結】永和怪異始末録  作者: 横山
子守のバイト

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悪化しとる!ああもう、しゃーない

 あやちゃん人形を胸元に抱いたしのと一緒に玄関まで向かったのだが、ここもやっぱり開かなかった。

 戻りがてら緊急霊障窓口に電話を掛けようとしたら、耳に当てた受話器からは何の音もしない。

 そのうえ、居間に戻るとしのが直した人形と、人形のパーツがすべてなくなっていた。

 壁時計を見上げると、すでに夜の一時を回っている。


「しの、眠くない?」


「うん」


 部屋中を探して人形がどこにも隠れていないことを確認したしのは、落ち込んだ声をかえす。


「ちょっと、あやちゃん貸してくれる?」



「えぇ~」



「ありがと」


 渋りながらも渡してくれて、あやちゃんを受け取りしのの頭を撫でてやった。


「う~ん」


 抱き上げたり、顔をのぞき込んでみたり、着物の作りがしっかりしてることに感心したり。

 こうやって持っても吐き気や頭痛といった症状は出ないんだよなぁ。

 でも他の人形が姿を消したっていう明らかにおかしなことが起こっている。ていうことは中に何かいるんだろう。全く力を漏らさずに中に納まっていられる何かが。


 黒く長い髪、半分閉じたような黒い瞳、顔立ちは人形なだけあって整っている。

 しのに少し似てるな。顔立ちが少し、口元はとても。


「あのさ、俺もしのも別に君たちをどうこうするつもりはないんだ。だからこの家から出してくれないかな?」


 話しかけてみるも返事はなかった。人形だしな。


「はい、ありがとう」


 あきらめてしのに返すとぎゅぅと大切そうに抱きしめた。嬉しそうな顔、本当に人形が好きなんだなぁ。



 ---



 それからしばらく、しのがあやちゃんとお医者さんごっこをしているのを確認しながらスマホをぽちぽちいじっていた。

 開いているのは妖魔辞典。幼馴染の竜一が人を食べないタイプのめずらしい妖魔を対象にまとめた図鑑だ。

 う~ん、やっぱないか。人形の姿をしてるだけならすぐわかるけど、あの子たちは明らかに本物の人形だしなぁ。憑依系はまたジャンルが違うんよなぁ。


「おだいじにしてください!」


 ちゃちゃっと着付けて診察が終了した模様。小さな着物を脱がすのも着せるのも手慣れた様子。やっぱりいいところのお嬢ちゃんなんだな。


 こつこつ


 居間のドアが叩かれてぎょっとしたが、ようやくおじさんおばさんが帰ってきたのかと、


「お帰りなさい、すいません、しのはまだ起きてます」


 なんて言いながら近づいた。


 こつこつ


 もう一度音がして気付く。

 ずいぶん下の方が叩かれている。


「あの、誰ですか?」


 こつこつこつごつっ!ごつっ!


 それからぱたりと音が止み、凝視する俺の前でゆっくりとドアノブが回りだした。

 とっさにカバンから封の呪符(フダ)を取り出してドアに押し当てる。


『発』


 向こうでパシンと弾かれた音、とさっと軽いものが落ちる音。それから少しの間静かになって、


 ドンッ!


 部屋が揺れた。



 ---



 どんっ


 しのがきゅぅ、とあやちゃんと俺の服の裾を握りしめた。


 がつ、がつ、ごと


 一度目ほどではないが、時折思い出したようにぶつかる音がし、ドアが揺れる。

 あ~、人生どこで間違えたんだろ、今日の仕事は単なる留守番兼子守のはずだったのに……。


「子供を守ってるんだからコレも子守か、一応」


 ため息をつきつつ無理にでも納得してみた俺を、しのが不思議そうに見上げた。

 とにかく、今のところは部屋のドアと壁、天井と床に一枚ずつ封符を貼ったので、入っては来れない様子。

 このまま朝になったら無理やりにでも窓を開けて逃げよう。

 いつの間にか音がしなくなっていた。力尽きたのか、それともあきらめたのか。


「小休止……だったらイヤだなぁ」


 その場合、今まで以上の力で襲ってくるのだろうから。


「しゃーなし、じゃ、せめて今のうちに作っておこうかな」


「お兄ちゃん?」


 こちらを見上げるしのの顔。抱えられたあやちゃんの頭がはずみでかわずかに傾いた。


「ん~、こっから出るために用意しようかなってね。しの、ちょっとテーブル行くよ」


 裾をつかんだままついてくるのがかわいい。カバンから丸めた紙を取り出して伸ばす。ちょうど四辺が手のひらを広げたくらいの大きさだ。

 半分に折って、折り畳みの豆ナイフでぴーと切り離す。


「折り紙するの?」


 あ、しのが興味津々だ。あまり見て楽しいものじゃないんだけどな。


「うーん、折り紙じゃなくて……お絵描き?いや、それもなんか違うなぁ」


 どう説明したものかと迷いながら細い、これまた折り畳みの文鎮を取り出して丸まらないように紙を押さえる。


「えぇっと、向こうで遊んでおいで?見てても面白くないよ?」


「や」


「そか~」


 ぴ


「いたいっ!」


 ナイフを右の親指に走らせると同時に、しのが俺の服から手を離して小さな声を上げた。分かる、見てるだけで痛いってあるよなぁ。

 が、そちらに気を配ることはせずにゆっくりと指を紙の上に滑らせる。


 この部屋に貼った呪符は、とある神社の井戸水で磨った墨で書いた代物だ。その井戸には神社の神様の加護がかかった物がいくつも投げ込まれてる。

 加護がかかった物品が触れた水、なんて間接的なものでも効力があるのだから、直接の加護を受けた俺の血で札を作ればそりゃもう効果は絶大だ。

 普段から使わないのは痛いから。それと、体がもたないから、だ。


 生まれつきに加えて後天的に霊的抵抗性が低く、その辺りにいる退魔師と比べたらもちろん、一般平均をもはるかに下回るというんだから、こんなことは体質的に向いていないのだ。

 霊障、妖魔はもちろん、加護を与えてくれてるはずの神様の力にさえ耐えられない。俺の健康のためにも早くまともな就職先探して、こっち系の世界からはおさらばしたいんだけどな。


 簡略化してない開の呪符を作ってふぅっと一息。よし、神気漏れはしてないな、後は朝になるまで籠城か?

 気を抜いたところで向こうは活動を再開したらしい。


 どんっ!どんっ!どんっ!!


 けたたましく叩かれるドアに振り返ると、力を使い切った封符がはらりとはがれる所だった。

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