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植物博士モチオののんびり遺跡フィールドワーク ~歌姫カリーナと二人の木の精霊に囲まれて、伝説の果実を育てることになりました~  作者: ゆうぎり
第3話:夜に瞬く新芽と、過保護な守護精霊たち

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15/30

名付けへの予感

 影弦の刻が、ゆっくりと夜へ溶けていきました。

 萌芽の月の星々が、観察小屋の天窓から静かに覗き込んでいます。


 小屋の中には、湯気の立つハーブティーの香りと、新芽が放つ淡い黄金色の光が漂っていました。

 まるで四人を包み込む小さな繭のように、やさしく、あたたかな静けさが満ちています。


 モチオくん、カリーナちゃん、アイベリー、そしてカリンベリー。

 四人は新芽の鉢を囲んで車座になり、一日の終わりのお茶の時間を過ごしていました。


「……ふう。今日はなんだか、一節一節が、とっても長くて濃い時間だったね」


 モチオくんは、少し土で汚れた手を布で拭きながら、しみじみと言いました。


 隣でカリーナちゃんが、くすっと笑います。


「それはモチオが胞子で何度も眠らされたからでしょ?」


 そう言って、いたずらっぽく肩をつつきました。


「うっ……それは、まあ……否定できないけど」


 モチオくんは苦笑してから、そっと新芽を見つめました。


「でも、おかげで気づけたんだ。

 この子は、ぼくが調べ上げるべき『謎』じゃなくて……」


 少しだけ言葉を探してから、続けます。


「……一緒に、この萌芽の月を歩んでいく『仲間』なんだってね」


 その言葉に、カリンベリーがモチオくんの膝の上で得意げに胸を張りました。


「えへへ。やっとわかった?」


 小さな鼻を「ふんす」と鳴らします。


 アイベリーは柏の葉の兜を外し、そっと横に置きました。

 柔らかな緑色の髪が揺れ、新芽をやさしく見守っています。


 そのときでした。


 新芽が、ふるふると震え始めたのです。


 まるで一日の終わりを惜しむように。

 静かに、けれど確かに。


 窓から差し込んだ一ドロップの月光が、新芽に触れた瞬間――


 ぱあっと、今日一番の輝きが生まれました。


 強く。

 清らかに。

 そして、ほんの一瞬だけ。


 それはまるで、夜空の星がひとつ、地上へ降りてきて。

 モチオくんの手のひらの上で、ほんのひととき羽を休めたかのようでした。


「わあ……きれい……」


 カリンベリーが、うっとりと呟きます。


「この子、一瞬だけ……

 お空の星が『きらっ』てしたみたいに光るね」


 その言葉が――

 モチオくんの胸の奥に、小さな扉を開きました。


 今日の出来事。

 笑い声。

 眠ってしまった時間。

 みんなで守った、この新芽。


 そのすべてが、ひとつのイメージへと静かにつながっていきます。


(……星が、瞬く)


(……ほんの一節のあいだだけ輝いて)


(……また、静かな夜へ戻る)


 モチオくんの心の中に、

 一グレインの迷いもない確信が芽吹きました。


 まるで、この子自身が名を教えてくれたかのように。


「……決まったよ」


 モチオくんが、静かに言いました。


「この子の名前。

 ぼくが責任を持って、一番似合う言葉を日誌に書き留めておくよ」


「えっ、本当!?」


 カリンベリーがぴょこんと身を乗り出します。


「どんな名前!?

 かっこいいやつ!?

 それともキラキラ系!?」


 カリーナちゃんも期待に目を輝かせています。

 アイベリーも、静かに耳を傾けました。


 モチオくんは、少しだけ笑います。


「……ふふ。

 数日のあいだ、この子の瞬きをもう少し観察するよ」


「えー?」


 カリンベリーが頬を膨らませました。


「そのあと、一番ふさわしい形で発表する。

 今は……この子がゆっくり眠れるように、ぼくの心の中で名前を温めておきたいんだ」


 一瞬の沈黙。


 そして――


「ケチーッ!」


 カリンベリーが、ぽかぽかとモチオくんの背中を叩きました。


「モチオのケチーッ!」


 小屋の中に、ぱっと明るい笑い声が広がります。


 やがて夜がさらに深まると、

 精霊たちは満足そうに新芽のそばで丸くなって眠りました。


 カリーナちゃんも立ち上がり、伸びをします。


「明日は早起きなんだからね」


 そう言い残して、自分の部屋へ戻っていきました。


 小屋には、静かな灯りだけが残ります。


 モチオくんは真鍮のランプの火を少し絞ると、丸っこい革鞄から観察日誌を取り出しました。


 万年筆の先をインクに浸します。


 そして――

 まだ誰も見ていない、新しいページを開きました。


 そこには、これから書かれる言葉のための真っ白な余白が広がっています。


(もう少しだけ、観察しよう)


 この「名のない光」が、これから何を語ってくれるのか。

 それを確かめてから、最後の一節を書こう。


 そう決めたのです。


 窓の外では、本物の星たちが

 まるで祝福するように、ちかちかと瞬いていました。


 モチオくんは眼鏡を外し、そっと机に置きます。


 星のように輝く新芽の隣で、

 彼は静かに横になりました。


 明日から始まる――

 名付けのための、静かな対話。


 そのわくわくを胸に、

 モチオくんはやさしい夢の中へ、ゆっくりと沈んでいくのでした。

調査ログ:補足事項


【物理の理】


一ドロップ:窓の隙間からこぼれ落ちる、一粒の星の雫のような光の量。


一グレイン:モチオくんの心の迷いがすべて消え、確信に変わるほどの、ほんのわずかな重み。


【刻の理】


一節いっせつ:モチオくんが万年筆を置き、満足そうに「ふう」と息をつくまでの、幸せな余韻の時間。

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