06 女豹の牙
「ルーナっ、右からも来てるっス!」
「こっちはもう少し掛かる!リリィっ、頼めるか?」
樹海に威勢の良い声が木霊する。
弓使いのリリィが淡々とそれに応え、近くにあった岩の上へ飛び上がった。
「……任せる……私が仕留める……」
「それならミャアが囮を務めるっス!」
猫人族のミャアが腰を落とし、双剣を引き抜いて構えた。
――Gyuooooooo!
次の瞬間、木立の間から灰色狼が飛び掛かってきた。
ミャアは右に傾ぐ様に駈けだし、すれ違い様に双剣を薙いだ。
魔獣の首から血飛沫が上がり、勢いそのままに地を転がる。
ミャアは背後を振り返ることなく後続の二頭に向かう。
――ガキンッ!
だが、今度は反応されてしまい鋭い牙で剣を弾かれてしまった。
「あちゃー……やっぱ、連戟はムリだったっス……お願いするっス、リリィっ!」
「……うん……任せる……」
――ヒュヒュンッ!
続け様に放たれた矢が狙い違わす灰色狼の眉間に突き立った。
「ヒュゥ~……さすが、リリィっス!相変わらず見事なもんスね」
「うらぁ!いい加減くたばりなっ!」
気合い裂帛、振り上げられた戦斧がオーガの巨軀を二つ切りにした。
赤銅色の魔獣の巨体地響きを立てて倒れ伏す。
「ウヘェ~……おっかないオーガが真っ二つっス……これじゃ、どっちがオーガなのか分かったもんじゃないっスね」
「……同意……」
呆れるミャアに無表情のリリィが頷く。
「あぁン?……そんな減らず口利いてる暇があったら魔石でも回収しなっ!」
「やっぱ、オーガよりおっかないっス……」
「……角、折れてる……残念……」
賑やかな3人の遣り取りを聞きながら、シズクは目立たないように探査魔法を起動する。
(周囲に魔獣の姿はないみたいね……あっ、アコライド鉱石発見っ!やっふぅ~)
そんな調子で2日目の探索は順調に進んだ。
それなりに魔獣に遭遇したが、女豹の牙で危なげなく対処できている。
シズクは基本的に安全な位置から見守るだけだ。
採取の方も順調だ。
レアメタルや目的の薬草類も既に十分な量を集めることができている。
これだけあれば3ヶ月は素材に困らないだろう。
その上、今回は運が良かったのか、超々レアなアコライド鉱石なんて物まで手に入れてしまった。
なので、やや蒐集癖のあるシズクはかなり御機嫌だ。
(明日も、半日は探索するつもりだったけど……予定変更かな)
宿営地に帰還したシズクは夕食の席でその話を女豹の牙に申し出る。
「つまり、明日は出発の時間まで自由時間ってことかい?」
「はい……護衛は結構なので、お昼まで自由行動ってことで……お願いします」
慣れてきたのか、シズクの口調も大分まともになってきている。
「まぁ、こっちは報酬さえきちんと払ってもらえりゃ、どうでも良いさね」
「なら、ミャアは薬草採取に行くっス!お小遣い稼いで甘い物を買いたいっス!」
「……ミャアにはムリ……でも甘い物は……賛成……」
予定変更の理由については、野外で開発中の魔導具の実験をしたいから、と答えたらさして詮索されることもなく受け入れてくれた。
ただ、宿営地からあまり離れないことと、一人で樹海に近付かないように、とだけきつく念を押された。
「口は悪いけど、研究所の人達より余程話し易いよ……まぁ、所長や下働きの人以外、他の人とは一言も喋ったことないんだけどね……」
基本的に研究棟へは立ち入らないように言われているので廊下ですれ違うくらいの接点しかない。
それとて、目が合えば露骨に嫌そうな顔をされるので会話どころか挨拶すらまともに交わしたことがない程だ。
翌日、シズクは一人宿営地を離れ、ゴツゴツとした巨大な石が転がる岩場へと来ていた。
ルーナの話では、何でも百年程前まで石切場として使われていた場所らしい。
朽ちてボロボロになった作業小屋や放置された切り出しかけの石が目に入る。
「さぁてと……比較の為にも、先ずはスパイダーの試し撃ちからかな」
腰のホルスターから魔導銃を引き抜いて、崩れて地面に転がっていた巨石に狙いを付ける。
トリガーを引くと、小さな光弾がパシュッと音を立てて高速で的である巨石に着弾した。
しかし、弾痕どころか石は全くの無傷だ。
「ビット起動っと……試し撃ちだし、4つくらいで良いかな……威力は最小にセットして……」
シズクが銃についた小さなレバーを捻ると、小さな玉が4つ、転がり出て宙に浮かぶ。
「4点バーストっ!なんちゃって~」
再度シズクがトリガーを引くと、宙に漂う玉から魔力弾が撃ちだされ、先ほど光弾が着弾した場所へと殺到する。
――ドシュッ、ビシュッビシュッ!
岩に拳ほどの穴が空き、着弾の度に大きく抉れて行く。
数十発程で岩が真っ二つに裂けて地響きを立てて崩れ落ちた。
「性能はまずまずだけど……やっぱり、銃を構えたまま突っ立てるのって……結構間抜けかも……」
ポイント指定さえ済めば、銃で狙いを付ける必要はないし、トリガーを握っている間は一秒間隔で自動で魔力弾が発射される仕組みだ。
このスパイダーは中距離戦闘用で手数が多い武器が欲しい、できれば面制圧できるような火力があれば尚嬉しい、という現場からのオーダーを元に作成した兵装である。
他の兵装に比べ魔力消費量は多いが使い勝手の良い武器だと思う。
因みに散弾モードも付いているので、切り替えれば散弾銃のように使うことも可能だ。
「さぁ、お次は……今日のメインディッシュ、改良版スパイダーの実験いってみよう~」
ビットはそのままに、スパイダーだけをホルスターへ戻す。
代わりに無限収納から取り出したのは眼鏡だ。
偽装眼鏡を外して新たな眼鏡を装着するシズク。
偽装が解けて素顔に戻ってしまうが、見た目はなんの変哲もない普通の眼鏡だ……がしかし、ただの眼鏡であろうはずがない。
「先ずはビットにリンクして……ターゲット……ロック……んでもって……フルバースト三連射っ!」
次の瞬間、中空に浮かんだビットから魔力弾が放たれた。
――ズドドドッ!
凄まじい速度で発射された魔力弾が青い燐光の尾を引いて二つ割れになった岩塊を粉微塵に消し飛ばした。
「ハ、ハハハ……ハァ……成功したけど……ヤバくないかな……この威力……」
魔結晶を電池代わりに組み込んだ4式スパイダー、かたや自分の魔力を供給して発動させている眼鏡型スパイダー改……威力の差は歴然である。
「やっぱ……小さい頃から調子に乗って魔力を圧縮してきたのが原因……なのかな……」
それはともかく、実験としては成功と言えよう。
前世の某合衆国の軍事技術を真似して作った視線誘導システムだが、なかなか上手くできたと思う。
両手が空くので、剣で戦いながら砲撃なんてことが可能になる。
「フフフッ……せっかく魔法なんて夢技術が存在する世界なんだから……やっぱ、ファンネ○は再現してみたいよねぇ……ガ○ダムは観たことないけど……」
魔力操作がかなりピーキーで、アホみたいに燃費が悪いので一般向けには全くもって向かないが、浪漫は追い求めてこそナンボだろう。
「まぁ、兵隊さん達には使い勝手の良い、4式を使って貰えば良いよね」
完全に趣味と自己満足である。
ともあれ、実験も満足の行く結果に終わったので、今回の採集クエストはこれで終了だ。
女豹の牙と合流して一路王都へと帰還する。
ギルドで終了報告にサインをすれば任務完了だ。
「シズシズ、楽しかったっスよ~また、採集に行くときはミャア達に声を掛けて欲しいっス!」
「……ウン……歓迎……報酬も良い……」
「アハハハ……しばらくは必要ないけど……次に採集クエストに出掛ける時は皆さんに声を掛けますね」
両手を握られキラキラした目を向けてくるミャア。
その勢いにコミュ障のシズクはタジタジだ。
「あぁ……達者でな……嬢ちゃん」
(……ルーナ……さん?)
シズクは女豹の3人と別れ、出たついでに食料の買い出しなどを済ませてから、路線バスに乗り込んだ。
研究所は王都郊外にあるので、バスの終点からは徒歩だ。
「いつもながら、立地が悪いよね……魔導車の送り迎えがある人達には関係ないんだろうけど……」
シズクがぼやきながら歩いている時だった。
ふと、外出時は常に起動させているアクティブソナーが魔力を検知する。
「何かアタシに用事でしょうか……?」
シズクが立ち止まって声を掛けると草むらから人影が現れる。
「ハハハッ……やっぱ、只モンじゃないね、嬢ちゃん」
それは一刻前にギルドで別れたルーナだ。
今から戦いに行きますと言わんばかりに、巨大な戦斧を肩に載せている。
「オドオドしてるかと思えば、魔獣相手には全く怯みやしないし……一体、何モンなんだい?」
「何者って言われても……アタシはただの見習い研究員なんですけど……」
転生者云々は横に置いて、肩書きに嘘偽りなどない。
「クハハッ、武器を手にしたハンターを前にしてその態度……そんなクソ度胸した見習いなんて居るわけないだろ?それによぉ、嬢ちゃん……アンタ、魔獣がどっから襲ってくるか、前もって分かってただろ……もしかして、魔法かなんかかい?」
「……ルーナさんの気のせいでは?」
「まぁ、そういう事にしといてやるよ」
「それで……待ち伏せまでしてどんな用件ですか?後の二人は居ないようですが……」
探査魔法を起動してみたが、半径1キロにルーナ以外の人影はない。
「大人しくその魔法鞄を渡してくれないかい?できれば手荒な真似なんてしたくないんでねぇ」
「まさか、お金に目が眩んだということですか?」
あまり魔法鞄の事を吹聴するなと助言してくれていたが……あれは芝居だったのだろうか。
「アタイの用事は中身さね……採集したモンをぶん盗って来いって言われてんのさ」
(……言われてる……ねぇ……)
ルーナ達の話を信じるなら、中身なんぞより、鞄の方が余程価値が高いということになる。
「……誰に頼まれたんですか?正直な話、アタシには恨まれるどころか、知人すら殆ど居ないのですが……」
「…………」
「ミャアさんとリリィさんの姿がないようですが……あの二人はこの事をご存知なんですか?」
「あ、あの二人が知ってる訳ないだろ、アタイの独断だよっ!」
どうも、金に目が眩んだ物盗りというわけではなさそうだ。
「……何か、事情があるみたいですね……良ければ話して貰えませんか?アタシ的には荒事は苦手なので……」
「…………」
ルーナが戦斧を肩から下ろして両手で握る。
「余裕だね、嬢ちゃん……アタイにしてみれば一足で間合いを詰められる距離だよ……腰の銃なんて抜いてる余裕なんざないよ?」
「そうやって助言してくれている時点で全くやる気が感じられませんよ、ルーナさん」
「ハァ……アタイも焼きが回ったモンさね……負ける訳ない相手なのに……本能が拒絶しちまって……まるで金眼のバケモノを前にしてる気分にさせられるよ」
「それなら……」
「だけどねぇ、ミャアとリリィを守るために、アタイは退けないのさ」
悲壮感を漂わせながら身構えるルーナ。
何故か、シズクの方が悪者に思えてしまうのは気のせいなのだろうか。
(世知辛いとこはホントやだなぁ……この世界……)
シズクは心中で盛大に溜め息を吐いた。
週一でのんびり更新して行くつもりですが、空いてしまったらご免なさい。m(_ _)m
気長に付き合っていただけると嬉しいです。
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