↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女?いえ、魔法好きの喪女です……  作者: 山海千歳


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/43

42 お出掛け①

 ――バキバキ……ズズーン……


 樹齢五百年以上の大木がメリメリと音を立てて倒壊し、樹海に地響きが木霊した。

 大木を倒した主がムクリと身体を起こして二本足で立ち上がった。


 ――グォォォォォォォォォォッ!!


 それは『森の死神』の異名を持つ怪物――A等級魔獣の『鎧熊』である。

 鋼鉄並みの強度を誇る外殻に頭部を覆われ、上半身をびっしりと包む鎧のような外皮からその名がついた。

 額からは槍の矛先を想わせる角が天を突き、涎が滴る口元には凶悪な牙が覗いている。

 赤い瞳が不気味に光り、グルグルと低い唸り声が獲物を威嚇する。


「アタシがヤツの動きを止める!ミャアは背後に回り込んで撹乱、リリィは牽制を頼むよ!」

「任せるっスよ!」

「……了解……」


 ルーナが腰を落として黒光りする巨斧を構えた。

 小振りな黒剣を両手に下げたミャアが駆け出し、太い枝の上に陣取ったリリィが銃口を獲物に向ける。


 ――ガキーン……!


 凄まじい勢いで振り下ろされた腕(かいな)をルーナが受け止めた。

 甲高い金属音が森に響き渡り、火花が飛び散る。

 普通ならば獲物が弾き飛ばされる未来しか想像できないのだが……。

 巨斧から放たれた衝撃波が魔獣の腕を弾き、黒光りする刃が逆に鋼鉄の爪を切断してしまう。


「「「は?」」」


 戦闘の最中にも関わらず思わず気の抜けた声を洩らす三人。

 だが、それも一瞬のこと……。

 いち早く平静を取り戻したリリィが体勢を崩した鎧熊の胸を撃ち抜いた。


 ――ビシュ……ドシュッ……ド、ドド……ズドドドドッ!!


 辛うじて即死を免れた鎧熊は本能的に上半身を丸めて身を守るが、リリィの周囲に浮かんだビットから、雨のように放たれる魔弾がそれを許さない。

 掲げた腕を易々と貫き、外殻を削り取っていく。


「隙ありっスよ!!」


 背後に回り込んだミャアの双剣が魔獣に襲いかかる。

 鎧熊が声に反応して腕を振り回すが、鋏のように翻る刀身がそれを易々と切り飛ばした……そこへ……。


「おねんねしなっ、死神っ!!」


 気合い烈破、ルーナが大上段に構えた巨斧を振り下ろした。


 ――ズバーンッ!


 黒光りする刃が下がった鎧熊の頭を両断した。

 鋼鉄の角を薪のように切り裂き、二つ割りになった頭蓋から青い血が吹き上がる。

 ルーナの何倍もある巨軀がゆっくりと倒れ込み地響きを立てて地に転がった。


 女豹の牙の三人は、残心を解かず構えたまま周囲を伺う。

 ほどなく、樹海に鳥たちの囀りが戻ってきた。


 ――おぉぉ……パチパチパチ……


 巨石の上に座を占めた観客が歓声を上げ拍手を送る。


「ほぅ、あのレベルの魔獣を瞬殺するとは、なかなかやるではないか、お主等!」

「でも……猫の人は減点ですの、声を出してしまったら奇襲にならないですの」

「狙撃は惜しかったね……あと拳ひとつ分ほど右だった、カナ?」


 三人娘がパタパタと舞って評価を口にする。

 テトとラナがそれに続く。


「す、凄いですね、皆さん!あの恐ろしい魔獣を無傷で倒してしまうなんて……さすが、シズク様の護衛ですね、お見事です!」

「シズ姉さまのお友だちはスゴくスゴく強いのぉ、アニさまよりもカッコいいのですぅ!」


 恋する乙女のように目をキラキラさせる妹の姿に、兄のテトは苦笑いだ。


「正直な話、アタシ達の手腕って訳じゃないさね、はっきり言ってこの武器がスゴ過ぎんだよ」

「鎧熊の腕をナイフで切り落とすとか、意味分かんないっス……」

「……鎧熊の外皮は鉄より硬い……意味不明……」


 そこへ駆け寄ってきたシズクが口を挟む。


「弓から魔銃へのコンバートはどうでした?違和感なく戦えました?」

「……問題ない……でも弾数が凶悪……素材がめちゃくちゃ……残念……」

「威力もおかしいっスよ……しかも、バカ力のルーナのせいで角がオジャンになったっス……」

「あ、アタシのせいじゃないさね、角や爪がバターみたいに切れちまうこの刃がおかしいのさ」


 三人の言う通り、これは確かにオーバーキルかもしれない、外殻は穴だらけで使い物にならないし、高値で売れる角は真っ二つだ。

 素材採取の観点からしたら落第点どころではないだろう。


「母(かか)様の作ったブキはスゴいのれす、アチシもほしいのれす!」

「いいなぁ、ボクも母(かか)様に武器を作ってもらいたいよぉ~」


 無邪気なヒスイとスーの仕草にシズクは破顔する。


「ふふっ……二人は精霊なんだから武器は要らないでしょ?それに二人には魔導具を作ってあげたじゃない」

「そうれした!アチシには母(かか)様のくれた御守りがあったのれす♪」

「ボクは偽装の腕輪をもらったんだよ、羨ましいでしょ~♪」


 ヒスイが得意気に守護の首飾りを見せびらかすと、ヒスイと瓜二つの蒼髪の幼女が腕輪の填まった右手を誇らしげに突き出してみせる。


「しかし、こうしてみると双子みたいじゃな」

「精霊のウチが見ても、スーが人の子にしか見えないのですよ」

「スーじゃないよ~、ボクはスーチャンだよ?」

「あははは……これはどうも、『スーチャン』で契約が成立しちゃってるみたい、カナ?」

「え?! アタシはそんなつもりなかったんだけど……?」


 時折、言葉の端々で違和感を感じてはいたが……。

 アヤメによれば、主が名を口にし、精霊がそれを自分の名として認識したものが契約の真名になってしまうとのことだった。


「じ、じゃぁ……スーは愛称ってことで……よろしく」

「あいしょう?」

「親しい人を呼ぶ時に使う、言いやすいように短くした呼び名の事だよ?」

「うふふ……嬉しい、スーチャンは母(かか)様と親しい♪」

「あ~、ズルいのれす、アチシもスーと同じ『あいしょう』がいいのれす~」

「ハイハイ、じゃぁ~……ヒスイは……『スイ』……スイって呼ぶことにしようかな」

「わ~い♪ヒスイはスイなのれす~♪」

「スーチャンはスーだよ~♪」


 はしゃいで飛び回る双子の幼女に、シズクと女豹の牙の三人はホッコリと破顔する。

 エルフの兄妹が傍らでそのやり取りを暖かく見守る。

 納得がいかないのは精霊娘三人だ。

 サクラとツバキが熱い眼差しをシズクに向け、アヤメが何か言いたそうにチラチラと視線を投げ掛けてくる。


(え~と……アヤメは『アヤ』一択として……サクラは『サク』?それとも『クラ』?どっちもちょっと語呂が悪いかな……ツバキは……ダメだ……口にするのも可哀想すぎるよ……)


 どの一文字をとってもダメ、試しに逆から呼んでも最悪である。

 なので、公平に三人の愛称は却下することにした。

 ツバキが膨れっ面で最後まで粘ったが、シズクはパンパンと柏手を打って場を切り替える。


「ほらほら、そんな顔しないのツバキ、そろそろ行くよ~……今日は皆で街にお出掛けするんだからね、皆も楽しみにしてたでしょ?」


 ミャアがそれに悲鳴を上げる。


「待ってほしいっス、せめて無事な素材だけでも回収させてほしいっスよ!ほら……何笑ってるんスか、ルーナもリリィも早いとこ剥ぎ取りをするっス!」


 慌てて魔獣の骸に駆け寄るミャアにルーナが呆れたように笑う。


「あはははっ……ミャア、お前の図太さは頭が下がるさね、ホント変わらないね」

「……うん……そして……いつも詰めが甘い……」


 魔法鞄をポンポンと叩いてみせるリリィ。


「し、知ってたっスよ!ちゃんと覚えてたっスよ……だ、だから……そんな生暖かい目で見ないでほしいっス~」


 バツが悪そうに逃げるミャアを居合わせた面々がクスクスと笑う。

 ここが樹海の奥地だと知れば、常識人なら正気を疑う光景である。

 なんだかんだ言って、女豹の牙の三人もシズクに毒されつつあった。



 --------


 それから一時間後――

 スーの精霊の小路を使って、シズク達は王都を訪れていた。

 実は、王都の近郊の森には龍穴があるので、何気にリクームに行くよりも時間的距離は近かったりする。


「母(かか)様、人の子がいっぱいいるのれすよ~」

「ほぇ~、あの馬車みたいのなんだろ~」

「アニさま、アニさま!家が木より大きいよ~」

「こら、ラナ!前を見ないと人にぶつかるぞ」


 初めての王都ということもあり、双子精霊とエルフ兄妹は大はしゃぎだ。

 高い建物を見上げてそのまま仰向けに転んでみたり、キョロキョロ見回して段を踏み外したりと、絵に描いたドジっ子ぶりだ。


 一方、三人娘にしてみれば二度目の王都なのだが、観光は初めてなのでテンションは高めだ。

 殊に屋台に興味深々らしく、良い香りが漂ってくるとフラフラと飛んでいってしまう。


「おい、猫の!旨そうな匂いがするぞ、アレはなんじゃ?」

「猫は止めてほしいっスよ、サクっち……ミャアにはミャアって名前があるっスよ」

「おまえこそ、サクっちは止めぬか!妾を愛称で呼んで良いのは主だけじゃ、たわけ!」

「えぇ~、面倒臭いっスよ~」


 シズクがつけないならばとミャアがつけたのが『サクっち』だ。

 因みに、ツバキは『ツっきー』、アヤメは『アーたん』である。


「あぁ言ってるけど、あんた等はどうなんだい、ツっきーにアーたん?」

「ぶぅ~、軽い感じがして嫌なのです」

「……そう?……私は良いと思う……」

「まぁ、悪くはない、カナ……マスターはどう思う、カナ?」

「ふふっ、良いんじゃない?ていうか、キミ達ホント馴染んできたよね」


 何だかんだ言って、女豹の牙の三人とは打ち解けてきた気がする。

 最初の頃はシズクの頭や肩にしか止まらなかったサクラ達が、今ではルーナ達と普通に行動を共にしている。

 今も思い思いに歩き回り珍しそうに市場を眺めている。

 先導するのはムードメーカーの二人だ。

 森でのやり取りなぞどこへやら、意気揚々と先頭を行くミャアの傍らにサクラがパタパタと寄り添う。

 その直ぐ後ろを歩くシズクは両手に双子の手を握りご機嫌である。

 それに付かず離れず、妹の手を引いたテトが続き、傍らにアヤメを肩に乗せたリリィが周囲に目を光らせる。

 殿は好奇心旺盛にキョロキョロと辺りを見回すツバキを頭に乗せたルーナだ。


(ボッチで小屋に缶詰めになってた頃が遥か昔だよ……まぁ、缶詰めになるのは今もさして変わらないけどね……)


 思えば大所帯になったものだと今更ながらに思う。

 半年前のシズクからはとても想像できない変わりようである。


「それはそうと……せっかく王都に戻って来たんですから、ルーナさん達は自由にしてもらって良いんですよ?お友達にも会いたいんじゃないですか?」


 四六時中、警護任務なんて気が滅入るだろう。

 樹海じゃあるまい、治安の良い王都ならば問題ないだろう。


「何言ってんだい、王都だからこそ警護するんじゃないか」

「そうっスよ、シズシズ……アホな輩がちょっかい掛けてこないか見張ってるんス」

「……うん……この子達がやらかさないように……」


 リリィが肩に腰掛けたアヤメを指して言う。


「あぁ、そういう……」


 王様がなぜ自分に警護なんてつけたのか不思議に思っていたが、ロイエンタールの二の舞を危惧しての事だったようだ。

 監視の意味合いもあるのかもしれない。


「それにさ……嬢ちゃんは自分の事には頓着しないが、身内の事となると激甘になるだろ?」

「そ、そんなことないと思うけどな……」

「何言ってるんスか、ラナちゃんが言ってたっスよ?シズシズが自分のために悪い蛇の魔獣をやっつけてくれたって……」


 聖地であった事をラナに聞いたのだろう、ミャアが目を輝かせて言う。

 それに頷くリリィ。


「……うん……大人しい人ほど……怒らせると怖い……」

「意地悪な前の主、土下座して泣いてたよ~♪」

「か、母(かか)様、オコるとコワいのれす?」

「そんなことありませんよ、ヒスイ様!シズク様は女神のように慈悲深いお方ですよ」

「そだょ~、シズ姉さまはスッゴク優しいのぉ~」


 双子幼女にエルフ兄妹が応えて言う。

 内容は少々納得いかないが、愛らしい子達の姦しいやり取りにシズクは相好を崩す。


「はははっ、子供らに人気じゃないか嬢ちゃん、さすが二児の母親さね」

「か、からかわないでくださいよ、ルーナさん……」

「まぁ、傍からみたら姉妹にしか見えないっスけどね」

「……幼女に母と慕われる美少女……尊い……」


 そこへツバキが、物申すとばかりに口を挟んだ。


「主様が尊いのは同意するです……でも、主様を一番お慕いしているのはウチなのですよ、そこのとこは間違えないでほしいのです」

「なぁに、しれっと一番アピールしとるのじゃ、ツバキ!一番は妾に決まっておるじゃろうが!」

「ボクを差し置いて何を言ってるの、カナ……サクっち、ツっきー、抜け駆けは止めるべき、カナ?」

「サクっちは止めぬか!」

「ツっきーは止めてほしいのです!」

「あははは……」


 毎度毎度、飽きもせず良くやるものだと苦笑を浮かべるシズク。

 騒がしくて落ち着く暇もないと呆れる反面、それをとても好ましく思うん自分がいる。


(ボッチには慣れっこだと思ってたけど……)


 やはり、人は一人では生きられない生き物なのだと沁々と思うシズクだった。




週一くらいでのんびり更新して行くつもりですが、空いてしまったらご免なさい。m(_ _)m

気長に付き合っていただけると嬉しいです。

感想など頂けると励みになりますので、是非一言でも下されば幸いです。\(_ _)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。