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魔法少女?いえ、魔法好きの喪女です……  作者: 山海千歳


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04  前世と今世

酷い寝癖に頓着もせず、ベッドルームを出るとシズクはストンと背もたれのない作業椅子に腰を下ろした。


「フアァ~……久しぶりに良く寝たよぉ……改良が楽しくて、ここんとこ殆ど寝てなかったからなぁ」


コーヒーメーカーのスイッチを押して、使いかけのカップに浄化の魔法を掛ける。

青い燐光が手元を包み、飲み残しで茶色になっていたカップが新品同然の輝きを取り戻す。


「魔法ってホントに便利だよねぇ……女子力の低いアタシには天国だもん……異世界転生、マジ感謝だよぉ~」


右手にした指輪型魔導具を起動すると、低い電子音とともにホログラムモニターが浮かび上がる。

画面をフリックしてリストの中からお目当ての品を選択する。


「今日は……洋風っと……」


次の瞬間、作業台の上に朝食セットが現れた。

スクランブルエッグに熱々のソーセージ、葉野菜とハムを挟んだバケットにオニオンスープ……どれも今作りました、と言わんばかりに湯気を立てている。


無限収納(インベントリ)とか、便利過ぎて、もう魔法なしの生活なんてあり得ないよ……まぁ、再現するのは苦労したけどさ……」


この世界にもラノベのような魔法鞄(マジックバッグ)が存在したが、軽トラックの荷台に積める程度の容量しかない微妙な代物で、当然のように時間停止機能は付いていなかった……全く以てガッカリである。


なので、自分で一から開発した。

だがしかし……何せラノベやコミックに出てくる夢技術である。

この世界に存在しない技術である事はもちろん、参考になりそうな魔法理論すらないのだ。

全てが手探りな上、古代魔法の技術を応用したのでアホみたいに苦労させられた。

魔法式は暴走するし、高価な希少金属を使ったの財布がスッカラカンになってしまった。


「あん時は次元に穴が開いてブラックホールが出来ちゃったもんなぁ、さすがに死ぬかと思ったよ……その後、一週間ずっとパンの耳だけで生活させられたし……」


コーヒーを啜りながら、思い出に浸るシズク。

何気に彼女の中では粗食の方が危機の度合いが大きいのだから、始末に負えないだろう。


ともあれ、お察しの通り……シズクは前世の記憶を保持する異界からの転生者である。


前世の名前は大鷲雫(オオトリシズク)、享年28才独身、交際経験なし……容姿は悪くなかったのだが、オタクに加え壊滅的なまでのコミ力欠如……結果、バリバリの喪女となった。

考古学が好きで有名校の大学院を経て準教授になるも、ドロドロの人間関係に嫌気がさして離職、半年間のニート生活に入る……と記憶はここまでである。

因みに、知人はもちろん、両親の記憶はスッパリと欠如しており、死の直前の記憶もない。


「それ以外の記憶は残ってるのに……おかしなもんだよね~……まぁ、その記憶のお陰で魔導具とか作るの助かってんだけど……」


殊に古代魔法の研究には欠くことのできない知識である。

と言うのも、古代魔法言語が古代エジプトの聖刻文字(ヒエログリフ)そのままだったからだ。

研究内容がエジプト考古学だった事が功を奏し、平民の……それも孤児出身の身空で王立魔導院などという超エリートな就職口を得ることができた。


扱いは酷いものだが、月一度の納期を守ってさえいれば、人と接する機会はないし、好き勝手に研究ができる。

コミュ障に壊滅的な女子力、色々不足しているシズクには天国の様な職場である。


「そうだ……体力に余裕がある内にノルマを消化しとかなきゃ……」


シズクは再びリストを呼び出して必要な物を作業台の上に並べていく。


「えぇと……古代魔法用の錬金釜、高圧ろ過装置に遠心分離機……後は魔晶石とエーテル、触媒のレアメタルに……あっ、アルラウネの蜜、在庫が少なくなってる……後で採取してこないとかぁ、面倒臭いなぁ……市場で手に入らないかなぁ」


失われた技術で作られた魔導具の数々、握りコブシ程の大きさで屋敷が買える超希少素材に、伝説上の品々……魔法知識がある者が見れば、卒倒しそうな光景なのだが、ボロ小屋を訪れる者はおろか、近付く者も皆無だ。

そして、何よりもコミュ障を拗らせた小屋の主に全ての原因がある。


「分量ヨシッ!後は魔晶石を投入して~起動ッ!」

<合成シークエンスを、開始……300秒後に、触媒を投入、して下さい……>


錬金釜に導入したAIが抑揚のない中性的な言葉を紡ぐ。

シズクはそれに軽い返事を返しながら、ろ過装置の準備を始める。

アルラウネの蜜をロート部に注ぎ、魔力を込めて起動すると、100tPa(テラパスカル)を越える超高圧空間が発生し、青い魔力光が機器を包む。

隣で先程から高速回転している分離機も同じだ。


古代魔導技術に現代魔法理論、その上更に異世界の科学理論が加わって神話に語られる様な超常の作業が敷地の片隅のボロ小屋で……しかも現在進行形で行われているのだが、それを言及する者はここにいない。


もし、政府の中枢がこの事実を一欠片でも把握していれば……。

もし、研究所の職員が一度でも足を運んでいれば……。

ローザンヌ魔導国の首脳部はこの後、激しく後悔することとなる。



-その頃、王宮では-


「では、この報告書に一切の虚偽、脚色はない……そう申すのだな?」


報告書の束をテーブルに置き、簡易礼装に身を包んだ壮年の男性が対面に腰を下ろした老将に顔を向ける。


「はい、陛下……我がランドール家の名に賭けて嘘偽りないと宣言いたしますれば……」


ここは王宮に用意されている王専用の応接室だ。

密談の為に用意された特別な部屋で、防音はもちろん一切の魔法干渉ができない措置が施されている。


室内に居るのは4人、リチャード王とランドール准将が対面に座り、其々の背後にザイケル宰相とロベルト参謀次官が控え立つ。


「すまんな、リック……内容があまりにぶっ飛んでいたからな……あぁ、口調が崩れた、許せ……」

「いえ、私は気にしておりません……正直な話……できた報告書を読み返して思わず笑うしかありませんでしたからな……」

「左様ですな……こうして准将自ら報告に参っておらねば、私のところで突き返していたでありましょうな」


ザクセン宰相が訳知り顔で頷いて言う。


「しかし……六つ目の遺物(レリック)か……しかも、たった一人で5千を越える魔獣の群れを殲滅するとはな……」

「追加の群れを含めれば6千であります、陛下……更に数十体を越える金眼種に加え、S級も確認されています」


宰相の捕捉情報にリチャード王が重々しく頷く。


「……王家の秘蔵っ子……と言うわけではないのですな?」

「フハハッ……そんなものがあればとっくに最前線に投入しておるわ……何者なのか余が訊ねたいくらいだ」


「目撃情報は今回を含め4件……内2件は目撃者が少数に加え敵地深くであったため証拠となる物は何一つありません……もう一件は多数の目撃者もおり、仮設営地の傍だったのですが……通信機器を含め

魔導機器がダウンしてしまい、出先と言うこともあり肝心な映像が残っておりませぬ」


言葉通り、宰相に渡された報告書には激しい戦いの跡とおぼしき事後の写真しか載っていない。


「だが、今回リックが提出してくれた報告書には件の人物がはっきりと写っている……年頃に加え、銀髪という分かり易い特徴が判明したのだ、人物の特定にはさほど時は掛かるまい、のぅザクセン」

「はい……今のところ、年齢と容姿で該当する人物は5名……内2人は遺物(レリック)の適合試験において『不可』の判定が出ております」


報告を聴きながら、リチャード王が顎髭を撫でる。


「となると……該当者は実質3名か……いや、念のため不可の2人についても今一度確認するべきだな」

「はい、そう仰られると思い既に再検査の手配をしてあります……スケジュールについては明後日の謁見式の後、個別に面談を行う段取りになっております」

「ふふっ、さすがはやり手と名高き宰相殿ですな……微に入り細に穿つ、いやはや感服仕る(つかまつ)

「これで、もう少し余に回す仕事を減らしてくれれば申し分ないのだがな……」


ランドールの言葉尻を捉え、リチャード王が溜め息を溢して肩を竦めてみせる。


「これ以上老体に鞭打つような真似は控えて頂きたいものですな、陛下……老爺は労るものですぞ?」

「みろ、リック……こやつは最近、ことある毎に斯様な台詞を口にするのだぞ?愚痴一つ言えぬわ」

「ハハハッ……それは某にしても他人事ではありませぬな」


室内に笑いが響き、穏やかな空気が場を包む。

だが、肝心の話はこれからだ。

ランドールが表情を改め、居住まいを正す。


「陛下……アレは規格外どころの話ではありません……その殲滅力は他の魔導少女(マギドール)を遥かに凌駕しております」


「ほう、殲滅力を誇る紅玉(ルビー)をも上回ると申すか……だが、報告書の数字を見る限りそこまでの差はないように思えるが……」

「恐れながら、陛下……紅玉(ルビー)の戦績にある4千という記録は第一師団の援護あってのものです……更に言うなら5日という作戦時間を考慮すべきですな」


宰相の言葉に王宮の主が異論を挟む。


「ふむ、援護というなら、アスワン砦とて条件は同じなのではないか?」


宰相の目配せを受け老将が重々しく口を開く。


「確かに……数字の上では件の妖精姫が殲滅した魔獣は紅玉(ルビー)の記録と差程違いませぬ……ですが、妖精姫が現れてから後、我々は一切の戦闘行動を取っておらず……それに加えて殲滅に要した時間は半刻にも及びませんでしたな」

「な、なんと……それは真かっ!」


驚愕にあんぐりと口を開ける主にランドールが続ける。


「恐れず申し上げますれば……他の5人が束になっても彼の者の足元にも及ばぬでありましょう」

「ざ、ザクセン……これは……」

「はい……由々しき事態であります」


この場に集う面々が正しく状況を理解する。

これから貴族社会は騒がしくなるだろう。

たった一人の少女の存在が容易く勢力図を塗り替えてしまうからだ。

しかも、タイミングが悪いことに、昨今王太子の選定を巡って派閥争いが激化しつつあるのだ。

これまで水面下で行われてきた熾烈な駆け引きが、表面化することは火を見るより明らかだろう。


「これは……ひと波乱もふた波乱もありそうだな」

「はい……それ故、早々に手を打つ必要があるでしょうな……さしあたって件の5名には召喚の理由は伏せ、家族にも固く口外を禁じてあります」

「出かした、ザクセンっ!以後も情報の取り扱いには細心の注意を払うのだぞ……愚か者どもの権力争いに巻き込まれては目も当てられん……万一、他国に亡命されるなどという事態を招けば、余は後々の世に愚王と記されようぞ」


膝を叩いて有能な配下を褒めそやすリチャード王。

彼は知らない……この後、心痛で胃薬を常用する未来が待ち受けていることを……。


週一でのんびり更新して行くつもりですが、空いてしまったらご免なさい。m(_ _)m

気長に付き合っていただけると嬉しいです。

感想など頂けると励みになりますので、是非一言でも下されば幸いです。\(_ _)


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