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魔法少女?いえ、魔法好きの喪女です……  作者: 山海千歳


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38 破壊の化身

 凡そ2000年前……この世界は異界からの侵略者によって滅亡の危機に瀕していた。

 これを憂いた創造の神レミナスは3人の使徒を地上に遣わした。

 女神の加護を受けた使徒は竜族、精霊族、妖精族、そして人族の力を結集して異界からの侵略者達を、異界の覇王を撃退した。

 異界へ通じる門は女神により封印され、残された魔人や魔獣も使徒の手により討滅された。

 だが、中には討伐しきれぬ強者もおり、そういった敵には封印という手段が採られた。

 その数6体……ここパンゲア大陸には4体の魔人魔獣が封印されている。

 竜王と海王が1体ずつ……そして、精霊族と妖精族とで協力して2体の封印を守護する役目を負った。

 精霊女王は幻想の森の守護に聖樹(アルラウネ)を、魔の森の守護に魔樹(ドライア)を当て、妖精王はその補佐にハイエルフとホビットをつけた。

 残り2体の封印については妖精王が約束の地で、王となった使徒の一人がゲルト大陸で守護の役に就いた。


 テルメ達、五人のハイエルフが任されたのは聖樹の守護と補佐である。

 以来、テルメ達は現地のエルフを手足として使い、何の過失もなく、お役目を全うしてきた。


 しかし、ここに来て封印の力が弱まりをみせ、対処に当たった聖樹が力を使い果たし、眠りに就いてしまった。

 これに焦ったのはテルメ達ハイエルフだ。

 少しでも聖樹の負担を減らそうと、白銀族に伝わる秘術を持ち出して、封印の強化を図ろうとした。

 シズクが巻き込まれたのは、そんな思惑が引き起こしたゴタゴタであった。



 --------


(怖い怖い怖い怖いっ!何なのアレは……!)


 恐怖のあまりその場にへたり込んでしまうテルメ。

 比類なき美貌が醜く歪み、激しい感情の発露に鼻水と涙が滲み垂れる。

 恐怖の元凶から逃れようと必死に後ずさるが手足は思うように動かず、心の鼓動だけが早鐘のように脈動するばかりだ。


「こ、来ないでっ! 近寄って来ないでよっ!な、何なの……お前は!」

「……よくも……スーを……許さない……」


 1歩また1歩、ユラリユラリと身体を左右に振りながら近づいてくる銀髪の少女。

 こんな化け物がエルフであるはずがない。

 半透明の仮面の向こうにチラリと妖しく光る瞳が映る。


(き、金色の瞳……ま、まま、まさか魔人?!)


 なんでこんなところに魔人がいるのだとテルメは恐慌をきたす。


「許さない……」

「や、やめっ……ヒグゥッ!」


 ――ドゴンッ!


 鈍い音が響きテルメの身体が弾き飛ばされ地面を転がる。


「な、なんりぇ……障壁(ひょうへひ)がありゅのに……?!」


 口の中いっぱいに鉄の味が広がる。

 頬に鈍痛が走り、軽い脳震盪で視界が揺らぐ。

 何故、障壁が意味をなさないのか……何故、魔法で強化されているはずの身体がこれほどのダメージを受けるのか、全く理解が追いつかない。

 必死に打開策を練ろうと思考を巡らすが、金色の瞳に射竦められ、恐怖で脳が停止する。


「やめへ、お願ひっ! な、なな、何でもひてあげりゅから……ねっ?」


 少しでも時間を稼ごうと無様に懇願する美貌のハイエルフ。

 だが、怒髪天を衝く破壊の化身(シズク)に慈悲はない。

 霞むほどのスピードで放たれた右拳がテルメの顔面を捉えた。

 塵のように地面を転がり大きな樹木に激突してようやく止まるテルメ。

 鼻は折れ曲がり、吹き出した鼻血で純白のローブが真っ赤に染まる。


「ゆ、ゆるひて……おにぇがひ……」


 破壊の化身に命乞いは届かない。

 傷だらけの身体を引きずり、ゆっくりと獲物に近づいて行く。


「姉様から離れろ、この化け物めっ!!」


 ――ドゴーンッ!


 今度は傀儡兵が放った豪腕がシズクを弾き飛ばし、黒いモノリスに激突して止まる。

 衝撃で兵装が歪み、バイザーにひびが入った。


「……ターゲットロック……裁きの豪雷(トールハンマー)……」


 ゆらりと起き上がり、呟いた次の瞬間――


 ――ズガガーン!


 紫電の閃光が辺り一面を覆い尽くし、凄まじい轟音と衝撃波でハイエルフ達が吹き飛ばされた。

 真っ二つに裂け、ブスブスと黒煙を上げながら倒れ伏す哀れな傀儡兵。

 紅蓮の炎に包まれ、ピクリとも動かなくなる。

 だか、それはシズクも同じだった。

 ヨロヨロとふらつき膝をついて蹲ってしまう。


「ダルバ、エメル……幸い奴は儀式陣の中にいる!術式を完成させるぞ、奴を贄に秘術を発動させるっ!」

「おぅ!」

「分かったっ!」


 儀式陣の中で片膝をつく敵の姿に、エルフ達はこれ幸いにと秘術を発動させた。

 全ての条件が揃い、魔法陣が起動する。

 赤い燐光が瞬き、魔力の渦がシズクの身体を包み込んだ。

 対面する二本の封印柱から光の帯が走り、モノリスを中心に二つの正三角形を描いた。

 秘術が発動し、六方陣が浮かび上がるが……。


 ――パリーンッ!


 砕け散る硝子のように粉々になって消えた。


 ――ゴゴゴゴゴゴ……


 その途端、大気が震え大地が鳴動する。


「な、何が起こった?!」

「秘術は?! 秘術は発動したのかっ?!」

「おい、ギザル!これはどういうことなのだ?」

「わ、分からんっ!」


 エルフ達が慌てふためき場は騒然となる。

 ラーベが姉の元へ駆け寄り、抱き起こして回復魔法で治療を始める。


「『ハイキュアウーンズ』……ね、姉様!大丈夫ですか?」

「ま、魔人は……あ、ああ、あの化け物はどこに……?!」


 ――ゴゴゴゴゴゴ……


 言い終わるより早く異変が起こった。

 大地が震え、地の底から怨念の叫びが木霊する。


 ――Gururu……


 封印の石柱がドミノ倒しのように次々に崩壊し、2000年の刻を超え超常の存在が甦る。

 そびえ立つような巨軀、黒光りする闇色の鱗、月明かりに浮かび上がる長いシルエット――嘗て使徒により封印された『深淵の黒蛇』である。

 爬虫類特有の縦割れの金眼が不気味に光る。


「そ……そんな……ま、魔獣が……」

「何故だ……ひ、秘術は成功したはずではないのか?」

「終わりだ……世界の終焉だ……」


 崩れ落ちるエルフ達。

 黒蛇はそんな雑魚など眼中にないとばかりに、向きを変え動き出した。

 その向かう先には聖地を護る巨木がそびえ立っている。


「ま、不味いです姉様……あの化け物聖樹様を……姉様?」


 ふと、姉の様子がおかしい事に気づき、ラーベが顔を覗き込めば……。


「……化け物が来る……化け物が来る……銀髪の化け物が……私を殺しに……」

「しっかりして下さい、姉様!」


 だが、その声は届かない。

 両手で自分の腕を抱き、震えながら小声でブツブツと繰り返している。

 視線は虚ろ、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔は見るも無惨だ。


 ――ズズーン……


「せ、聖樹様だ! 聖樹様が目覚められたぞ!」

「助かった……あの方がいらっしゃれば魔獣なぞ、恐れることはない!」

「おぉ、聖樹様!聖地をお護り下され!」


 同胞の声に、ラーベが見上げれば『深淵の黒蛇』と戦う者の姿が飛び込んできた。

 長い杖を手にした翡翠色の髪をした美女が魔法の風を巻き起こして魔獣と相対している。

 見えない風の刃が漆黒の鱗を切り刻み、圧縮された大気の鎚が魔獣の巨軀を弾き飛ばす。

 一見、一方的な戦い見えるのだが……。


(聖樹様は焦っておられる……やはり、力が回復していないのでは……)


 見れば、切り刻んだはずの鱗はいつの間にやら元に戻り、内包する魔力も全くと言って良いほど減っていない。


「わ、私達のせいだ……私達が秘術を行ったせいで……こんなことに……」


 ラーベは今はっきりと理解した。

 銀髪の闖入者が言っていたことは正しかったのだと……そして、自分達が犯した過ちを酷く後悔した。

 だが、今さら後悔しても最早手遅れである。


「すみません……聖樹様……愚かな我々をお許しください……」


 懺悔の言葉は激しい戦闘音に虚しく掻き消された。



 --------


 聖樹は焦っていた。

 力を使い果たしてまで封印を強化したと言うのに目覚めてみれば『深淵の黒蛇』が復活しているではないか……。

 自分が眠っている間に、何があったのか分からないがやるべきことは一つだけだ。

 己の存在を懸けて何としても古の化け物を再封印する。

 本来であれば自分と黒蛇とでは力の差は歴然であるのだが、相手は起きたばかり、力の大半は失われているはず。

 かたや自分は満月を迎えて力を完全に取り戻している。


<その翡翠色の髪……覚えているぞ……貴様……使徒の傍らにいた小娘だな……>


 耳障りな声が聖樹の耳朶を打つ。


「わっちの事を覚えているとは……魔獣のくせに知恵があるのでありんすね」

<グハハハッ……少し眠っている間にだいぶ景色が変わったではないか……もしや、あのでかい木は貴様の本体か?>

「そうでありんす……2000年の刻をかけ、わっちは力をつけんした……甘く見ないでおくんなまし!」

<クククッ……2000年とな……我はだいぶ寝坊をしてしまったようだの……>


 黒蛇が身体を揺らして楽しげに笑う。


「心配せんでおくんなまし……わっちがあんさんをもう一度眠らせてあげますぇ!」

<善き哉、善き哉♪貴様を食らい、我は覇王様の元へと馳せ参じるとしよう!>


 激しい戦闘が始まった。

 大蛇が尻尾を鞭のようにしならせ聖樹を襲う。

 杖を振るい木の根で迎撃する翡翠髪の女性。

 今度はこっちの番だとばかりに風の竜巻が黒蛇を切り刻む。

 漆黒の鱗が剥がれ落ち、裂けた身体から青い血が風に舞う。

 だが黒蛇は何の痛痒も感じていないようだ、傷つけられるのと変わらぬ速度で回復してしまう。

 裂けた肉がジュクジュクと生き物のように蠢いて再生し、剥がれ落ちた鱗が瞬く間に生えてくる。


(永い封印で弱っているはずなのに……こんなのインチキでありんす)


 相手はまるで本気を出していない。

 遊んでいるのだ、お前なぞいつでも殺せると言われているかのようだ。


(そう言えば……コイツは残忍でねちっこい性格をしてはったな……ほんま最悪やね……)


 甚振って甚振るって、徹底的に嬲り尽くしてから殺すつもりなのだろう。

 そんな考えが脳裏を霞めた瞬間だった。


「し、しまっ!」


 ――ドゴンッ!


 死角から放たれた尻尾の一撃が聖樹を捉えた。

 弾丸のような速度で弾き飛ばされ、大樹――本体の幹に叩きつけられてしまう。


<おっと……加減を間違えてしまったわ、いかんいかん♪>


 瞼のない金眼が妖しく光り、裂けた大口が笑みの形に歪む。


<クククッ、こんな雑魚を我のお守りにつけるとは……今の世に強者は……>


 そこまで言いかけ……不意に、魔蛇は言い知れぬ悪寒に襲われ周囲を見回した。

 翡翠髪の精霊は地に伏し、自分の敵となるような存在は皆無のはずである。

 だと言うのに、本能が警告して止まない……我が身を滅ぼし得る存在が近くにいるのだと……。


<……マスターの気絶により……自働迎撃モードに移行しました……敵性体の存在を検知……これより迎撃に入ります……>


 黒蛇の鼻先に矮小な存在が浮かんでいた。

 翡翠髪の精霊より小さく、魔力も殆ど感じない。

 だと言うのに、警鐘が鳴り止まない。

 コイツはヤバい、コロセコロセと本能が囁く。


<……ターゲットロック……裁きの豪雷(トールハンマー)……>


 ――ズガガーンッ!


 裁きの雷が魔蛇を穿った。

 黒鱗がブスブスと音を立てて白煙を上げる。

 頭を振って飛びかけた意識を取り戻す黒蛇。


<き、貴様、何者だ!まさか今代の使徒か?!>

<……ダメージ率4%……マルチプル起動……裁きの豪雷(トールハンマー)……>


 次の瞬間、天に無数の雷撃が走り、辺り一面が閃光に包まれた。


<グギャァァァァァァァ!や、やめッ!>


 雷鳴が轟き、紫電が黒蛇を襲う。

 逃れようと魔蛇が身を捩るが逃げ場などない。

 無数の雷撃が漆黒の巨軀を引き裂き黒焦げに焼く。


<お、おのれぇ、おのれ、おのれぇ~……我をこのような目に合わせおってっ!!>


 シュウシュウと煙を上げながら再生する肉体をもたげ、魔蛇が咆哮する。

 だが――。


<……対象の生存を確認……殲滅モードに移行します……要塞(フォートレス)展開……>


 追加兵装が即座に展開され、華奢なシズクの身体を最強兵器へと変身させた。


<……ミサイルポッドへリンク……貫通弾42、炸薬弾51……全弾発射(フルファイア)……>


 放たれたミサイルが弧を描き加速する。

 魔法の力で急加速した弾が黒蛇の身体に大穴を空け、炸裂した衝撃波が肉を削り取る。


<グギャァァァァァァァ!ま、待てッ、話し合おうではないか!我は覇王様の……>


 断末魔の悲鳴を上げ、命乞いをする深淵の黒蛇。

 だが、シズクが生み出した人口知能に慈悲の心はない。


<……魔法式の調整及び魔力のチャージ完了……核撃収束砲(ニュークリアカノン)……発射(ファイア)……>


 ――GuGyaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!


 この日、嘗て古代文明を滅ぼし、『深淵の黒蛇』と恐れられた魔蛇が聖地の1/5と共に……この世界から消滅した。

 封印が解かれてから消滅まで、ちょうど30分の事だったと目撃者のエルフが後に語る。



週一くらいでのんびり更新して行くつもりですが、空いてしまったらご免なさい。m(_ _)m

気長に付き合っていただけると嬉しいです。

感想など頂けると励みになりますので、是非一言でも下されば幸いです。\(_ _)


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