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魔法少女?いえ、魔法好きの喪女です……  作者: 山海千歳


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36 ハイエルフの使者

 3日後、スイレン氏族の集落にハイエルフの使者がやって来た。

 来たのはエルフの容姿すら霞んでしまうほどの美貌を持つ女性だった。

 名はテルメ……聞けば2000年以上は生きているらしいが、どうみても高校生ぐらいにしか見えない。

 ハイエルフは全部で五人しかおらず、男性が三人、女性が二人とのこと、彼女はその内の一人だ。


「出迎え大儀だ」

「スイレン氏族一同、テルメ様のお越しを歓迎いたします」


 広場にはスイレン氏族全員が集まっていた。

 テルメは魔法で樹木の椅子を作り出して座り、エルフ達は片膝をついて頭を垂れている。


 使者の相手は自分達がするから隠れていて欲しいと言われたので、シズクは物陰からこっそりとその様子を伺っている。


「聖樹様は力を失い贄を必要としています、ゼーネの娘ラナ……そなたにその尊き役を与えます、慎んでお役に就きなさい」

「お、お待ちください、テルメ様!贄などと……それが本当に必要な事なので?幼い命に贄になれなどと……あまりに無体ではありませぬか」

「お前は聖樹様がどうなっても良いと言うのか?」

「いえ、決してそのようなつもりはありませぬ……」


 氷のような視線に居竦められゼーネが肩を震わす。


「フン、古の災厄を封印せし逸話を……そなた等も存じているであろう……」


 テルメが広場に集まるエルフに向かって朗々と語る。


「先頃、聖樹様はその封印を修復するためお力を使い果たされ眠りについてしまわれた……だが、封印はまだ完全ではない、このままではそう遠くない未来、災厄の魔物が甦りこの森は滅ぶであろう」


 エルフ達の間にざわめきが広がる。


「我々は聖樹様に代わり、古の秘術を以て封印を強化する決断を下した……その秘術には年若き少女の血肉が必要となる……聖樹様をお救いするため……()いては森を……森に住まう生ける者を救うため、その身を差し出すのです……良いですね」


 訳を聞かされ項垂れる里長。

 だが、シズクは納得する訳がない。


「ねぇ、あの女性(ひと)が言ってること本当なの?」

「封印を強化すると言うやつかや?」

「そう、それ!」

「あの封印は神代の魔法ですの、正常な状態ならば何の問題もないのですが……」

「崩壊しかけている今、下手な魔法を重ね掛けすれば、それこそ即崩壊するじゃろうな」

「え?ダメじゃん、それ……早く教えてあげないと!」

「無理だと思う、カナ……ハイエルフって頭固いから……人族であるマスターの言葉なら、尚更耳を貸さないと思う、カナ?」

「だったらアヤメ達から言ってくれれば良いんじゃない?精霊の言葉ならあの女性(ひと)も聞いてくれるんじゃないかな?」


 善は急げとシズクは飛び出しエルフ達の前に立つ。

 それを見咎めたテルメが誰何の声を上げる。


「何者だお前はっ!何故、人族の小娘がエルフの里にいる?」

「アタシが何者でも今は関係ないです、それよりも、貴女達ハイエルフがしようとしている事は逆効果です、思い直して下さい!」

「フン、突然現れて何を言うかと思えば……ゼーネよ、この小娘は何者なのだ?」


 テルメが冷めた目を里長に向ける。


「はい……その方は息子の命の恩人であるシズク様にございます」

「命の恩人?」


 爪先から頭の天辺まで、シズクを値踏みするように見た後、テルメが鼻でせせら笑う。


「ゼーネよ、我々ハイエルフの言葉と、どこの誰とも知らぬ恩人とやらの言葉と……そなたはどちらを信用するのだ?」


 ハイエルフに逆らえない事を承知の上で選択を迫る、なんとも嫌らしい言い方だ。

 その上、人族を蔑んでいることを隠そうともしない。

 魔法の達人だというし、余程腕に自信があるのだろう。

 精霊の言葉なら聞いてくれるだろうと背後を振り返るが、そこに三人娘の姿はなかった。


「あ、あれ?」

「もう良い、目障りだ人族の小娘、命が惜しくば疾く去ね!」

「お、お待ちを、テルメ様っ!!」


 制止を無視してテルメが口の中で呪文を紡いだ。

 それは雑音にしか聞こえないほどの高速詠唱である。


(うわぁ、これって……ドルイドの精霊魔法?)


 初めて目にする魔法に思わず目を奪われるシズク。

 その一瞬の間に、地面から伸びた蔦に絡み付かれ自由を奪われてしまう。


「お姉ちゃんっ!」


 テルメはラナを脇に抱えるとシズクに向かって左手を突き出した。。


「お、お待ちくだされ、テルメ様っ!」

「なぁに、人族の小娘なぞ殺しはせぬよ」


 再び紡がれる高速詠唱。

 召還陣が浮かび上がり、そこから水の身体を持つ女性が姿を現した。


「ウンディーネ、その(ごみ)を遠き地へ捨てて参れ、目障りでかなわん」


 次の瞬間、テルメの姿が滲むようにぼやけ、フッとかき消えた。

 それはシズクが夢見て止まない転移の魔法である。

 自分が置かれた状況も忘れ目を奪われるシズク。

 それも束の間、まるで水中に沈み行くかのようにシズクとウンディーネの姿が消え去る。


「「し、シズク様~!」」


 ゼーネとテトが慌てて駆け寄るが最早手遅れである。


 テルメはラナを連れて去り、愛し子はウンディーネと一緒に消えてしまった。

 残されたエルフ達はどうして良いか分からず呆然と立ち尽くすのみであった。


 ――広場を見下ろすように立つ巨木の上……そこには太い枝に腰掛けて並ぶ三人娘の姿があった。


「あ、主様が連れ去られたのです!二人とも早く助けに行くのですよ!」

「落ち着きなよ、ツバキ……君も分かってるでしょ?ここは幻想の森……あの聖樹(ひと)の縄張り、カナ?」

「口惜しいがそれが掟故、妾たちが手を出すことはできぬ……」

「で、でも主様がっ!」


 今にも飛び出して行きそうなツバキの肩をアヤメが掴んで止める。


「ボクだってマスターが心配なのは同じ、カナ……でも、考えてご覧よ……ツバキの主様はあの魔人を滅ぼしちゃうような少女(ひと)なんだよ?」

「その通りなのじゃ、あの使徒でも封印するしかなかった化け物を塵も残さず消し飛ばしたのじゃぞ?ウンディーネ如きが主をどうこうできる訳があるまい」

「それにさ、この試練を乗り越えれば……幻想の森(ここ)もマスターのテリトリーになる、カナ?」


 理屈では分かっていても、感情が納得いかないとツバキの表情が物語っている。


「うぅぅ~……でも、主様は大事な時に限って抜けているのですよ……」


 その台詞にサクラとアヤメが顔を見合わせる。


「「……確かに……」」


 そんな会話がされていることなど、知らぬは本人ばかりである。



 --------


 そこは霧に包まれた森の中だった。

 距離感が酷く掴み辛く、違和感が半端ない。

 遠くにあるのに手が届きそうで、近くにあるのに触れることができない、そんな不思議な感覚だ。


「ねぇ、聞いて……このままだと貴女の御主人様も大変な事になっちゃうのよ?」


 水の帯でグルグル巻きにされた格好でシズクが訴える。

 ウンディーネがピタリと足を止め振り返った。


「ショウカンヌシ ノ シジガ……ユウセン」


 再び歩き始めるウンディーネに何度も説得を試みるが暖簾に腕押しだ。


(仕方ない……悪いけど力ずくでいくよ)


 身体強化を発動させて拘束された腕を伸ばし、なんとかバングルを操作する。

 次の瞬間、低い金属音を響かせて展開した兵装が水の拘束を引き千切った。


「ニガサナイ……」


 ウンディーネの追撃の手を振り切り空へ飛び上がるが、糸が切れた凧のように回転し草むらに墜落してしまう。


<周囲の魔力異常を検知……飛行にはシステムの調整が必要です……>


 バイザーから無機質な警告が響く。


「痛ぁ~……もしかして……この空間が原因?」


 結界とは違うようだが、霧に包まれたこの森に原因があるのは間違いない。

 おそらくウンディーネの特殊能力で産み出された特殊な空間なのだろう。

 逃げることができないのならば、戦うしか選択肢はないのだが……。


「できれば傷つけたくないんだよね」


 正直、テルメにはかなり頭にきているが、それを精霊の彼女にぶつけるのはお門違いだろう。

 だが、無力化するにしても骨が折れそうだ。

 身体が水でできている以上、普通に考えて物理は無効だろう……風や土系統も効果が薄そうだ。

 水は論外となれば残る手段は火か雷系統だが……。


「雷は自爆しそうな予感しかしないし……火はオーバーキルになりそうで怖いんだよね……」


 放たれる水刃や水の触手を避けながらシズクは頭を悩ます。

 その時ふと、何故か錬金術の光景が思い浮かんだ。


「そう言えば……魔力水って……操れたよね……」


 それは遊び心で始めた実験だった。

 魔力を操れるのなら、魔力を通じて物質も操れるんじゃない?そんな疑問から始めた実験だった。

 その結果、魔力のこもった魔力水はある程度意のままに操ることができることが判明した。

 そして、その自由度は魔力の量に比例する。


「精霊の身体って……魔力で構成されてるんだよね……」


 だとすれば相手を傷つけずに無力化できるかもしれない。

 シズクは直ぐさま攻勢に転じた。

 一息に距離を詰め、相手の攻撃を躱して脇に潜り込む。

 そして、腰の辺りに手を当てて一気に魔力を流し込んだ。


「シジ……シ、ショウカン……シシジジジ……」


 流れる魔力を鷲掴みにしてギュッと押し縮めるように抑え込んで動けなくする。

 すると、ウンディーネの身体が徐々に縮み始め、最終的に大きな鏡餅ほどになって止まった。

 その姿は某RPGのスライムさながらである。


「いい?そのままじっとして抵抗しないでね」

「……わかった……ボク……主の指示に従う……」


 試みが成功したことにシズクは安堵する。

 やけに流暢な物言いが気になりはしたが、精霊は嘘を吐かない、信用しても良いだろうと放してあげる。


「この空間を解除してくれないかな……え~と……」


 スライムのようになったウンディーネを持ち上げ、顔?のような造形を覗き込む。


「因みに、君の名前は何て言うのかな?」

「なまえ?」

「そう、名前……君の主が君を呼ぶときにかける言葉かな」

「ウンディーネ……」

「いや、それ種族名でしょ?アタシが聞きたいのは個体名、分かる?」


 スライムの身体を器用に捻り、感情を表現してみせるウンディーネ、ちょっと可愛いと思ってしまうのは仕方がないだろう。


「あぁもう、仕方ない……貴女はスーちゃん、取り敢えずそう呼ぶからね」

「分かったボク、スーチャン、よろしく主♪」


(ああ~、可愛いなチクショ~♪)


 その愛らしさにキュンとしながら……。

 契約したのなら名前くらいつけてあげろよと、シズクは憤慨する。


「それはそうと、君の主はハイエルフのテルメさんでしょ?アタシは主じゃないよ?」

「ん~ん、テルメ主じゃない、主は主♪」

「ん?」


 その物言いに違和感を感じつつも、今はそんなことを話し合っている暇はない。

 取り敢えず今はスルーしてさっさと特殊空間を解除してもらうことにする。


 スーが延び縮みするように身体を揺らしたかと思うと、景色が歪み霧が晴れていく。


 ふと、気がつけばそこは見知らぬ森の中だ。

 現在地を確認するべく、シズクは木々を飛び越え上空へあがってみる。

 すると目と鼻の先にテトと出会った岩場が見えるではないか。


「ウソ、何でこんな場所にいるの?アタシ達、大して移動してないよね?」


 特殊空間に拉致されてから5分と経ってはいまい。

 グルグル巻きにされて引きずられたのも、感覚的には十数mほどだ。

 だというのに現実では少なくとも数十kmは移動している。


「あの空間って……圧縮されてるんじゃ……」


 ふと、前世の記憶にある一般相対性理論が頭に浮かぶ。

『時空は絶対的ではなく、周囲の重力の影響を受けて相対的に伸び縮みする』

 もし、魔法にもその理論が影響を及ぼしているのなら?


「あの空間を研究すれば……もしかしたら転移魔法に応用できるんじゃ……」


 一瞬、研究者の悪い癖が頭をもたげかけるが、今はそれどころではないと頭を切り替え地上に戻る。


「主~、スーチャンはおいていかれるの嫌~……悲しい……」

「ゴメンゴメン、おいてかないから拗ねないの」


 その様は甘えん坊の子供ようで、思わず相貌がホニャリと崩れてしまう。


「どうしたの主、変な顔?」

「へ、変な顔は止めて欲しいかな……スーちゃんがちっちゃい子供みたいに思えちゃっただけだよ」

「スーチャンは子供~?なら、主が(かか)様~?」

「あははは……そうかもね~」

「なら、これからは(かか)様って呼ぶ~♪」


 これまで彼氏もできたことがない喪女がいきなり母親かよ、と内心突っ込みながらも悪い気はしない。


「さぁ、時間もないし、テトが心配してるだろうから、急いでエルフの集落に帰るよ……スーちゃんはこのポーチの中に入っててくれるかな」

「分かった~♪」


 腰に着けてあった魔法ポーチにスーを収納してシズクはエルフの集落へと飛ぶ。

 5分足らずでたどり着くと、エルフの集落は未だ混乱の最中にあった。


 念のため探査魔法で確認してみたが集落のどこにもラナの姿がなかった。

 やはり、あのままテルメに連れ去られてしまったようだ。

 広場に着陸すると、変身したシズクの姿を知るテトが駆け寄ってきた。


「シズク様~、御無事でしたか!」


 兵装を解除して素顔を晒すと、里長のゼーネも駆け寄ってきた。


「ゼーネさん、ラナちゃんは?」

「……テルメ様に連れていかれました……」


 唇を噛みしめ、悔しそうに里長が拳を握る。

 それはテトも同じだ。


「ゼーネさん……テルメさんが言ってた秘術っていうのに心当たりはありますか?」

「すみません……私には全く心当たりがありません……」


 焦燥と忸怩たる思いでその相貌は歪んでいる。


「ですが……もしその秘術がドルイドの魔法に関わるものならば、満月の夜に儀式が行われるのではないかと思います……」

「満月の夜っていうと……」

「……今夜です」


 俯いたまま答えるテト。

 ゼーネが絞り出すように続ける。


「ここからハイエルフ様の住まう聖地まで急いでも10日はかかるのです……」


 確かに、とても間に合いそうにない距離だが、シズクならば空を飛べる。


「たどり着いたとしても、結界が張られた聖地に足を踏み入れるにはハイエルフ様の許可が必要です……」


 飛んで行けば問題ないだろうと思って聞いてみたところ、聖地の周囲には迷いの結界が張られていて空間が歪んでいるらしい。

 確証はないがそれは空も同じではないかと里長は言う。

 おそらく、その予想は間違っていないだろう。


「クッ……私はどうすれば……ラナ……」

「聖樹様の為とはいえ、こんなの酷過ぎます……妹はまだ幼いというのに……」


 愛しい家族を想い涙を浮かべる親子。

 普通ならば八歩塞がりなのだろうが、運が良いことにシズクには心当たりがある。


「ねぇ、スーちゃん……君の主がいた場所に行けないかな?」


 ポーチをポンポンと叩いて声をかけると、スーが飛び出してきてシズクの肩に乗る。


「行けるよ~、(かか)様~、ボクに任せて~♪」


 思った通りだとシズクは満足げに頷く。


「し、シズク様……その精霊様はまさか……」

「ご想像通り、この子はテルメさんのウンディーネですよ」


 口角をピクピクさせるゼーネにシズクがにこりと応える。

 隣のテトが驚いたような表情を浮かべ詰め寄ってくる。


「し、支配権を奪ったのですか?あのテルメ様から?」

「う、奪ってなんかいないよ?人聞き悪いな~、ちょっとお仕置きして大人しくなったから……頼み事を聞いてもらってるだけだよ」


 その返答に固まるエルフの親子。

「いやいや、それ完全に支配権を奪ってるじゃん~!」と全力で突っ込みたいがなんとか思い止まる。


(父様……あの精霊様、完全にシズク様に従ってますよね?)

(う、うむ……しかも、召還契約ではなく主従契約だな、アレは……)

(ハイエルフ様から支配権を奪うなど可能なのですか?)


 契約を上書きするにはその十倍の対価……つまり魔力が必要と言われている。

 ハイエルフは人と精霊の中間点、妖精と呼ばれる存在である

 精霊には及ばずとも、人など遥かに凌駕する魔力の持ち主のはずだ。

 普通に考えるならば不可能と言わざるを得ないのだが……。


(信じられんが、目の前の光景が全てなのだろう……既に命名の儀まで済まされているご様子だ……)

(父様……)

(あぁ……)


 二人は頷いて思いを共にする。

 我々はとんでもない少女(ひと)を味方につけたのではないかと……。



週一くらいでのんびり更新して行くつもりですが、空いてしまったらご免なさい。m(_ _)m

気長に付き合っていただけると嬉しいです。

感想など頂けると励みになりますので、是非一言でも下されば幸いです。\(_ _)


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