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魔法少女?いえ、魔法好きの喪女です……  作者: 山海千歳


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35 スレイン氏族

 事情を聞いた後、シズク達はテトにエルフの集落まで案内して貰うことになった。


「シズク様、本当に金花の実を頂いて良いのですか?それもアレほどたくさん……」

「いいのいいの、ウチの畑でたくさん採れるから遠慮しないで、聖樹様のお土産だと思ってよ」


 取り敢えず、テトの目的であった金花の実採取を手伝って上げようと詳しく話を聞いたところ、三人娘の証言から金花の実=星林檎(スターアップル)ということが判明した。


「それよりも……普通に呼び捨てで呼んで貰えないかな」

「お三方の主を呼び捨てになど……そんな恐れ多いことできませんよ、お許しください、シズク様!」


 聞けばテト少年は70才を超えているとのこと……。

 平均寿命が400才以上のエルフにしてみればテトは少年なのだろうが、シズクにしてみれば前世の年齢を足しても年上である。

 できれば様付けは止めて欲しいとお願いしたところ、あっさりと拒絶された。

 それに対し「エルフ達は精霊を信仰しておるからのぉ」とはサクラの言だ。


 テトによればハイエルフは神官の役目を担っており、聖樹信仰の中心的存在なのだそうだ。

 人族でいうところの王族のような扱いらしい。


 道々エルフの生活や慣習について聞きながら歩を進めると樹木の壁が現れた。


「シズク様、精霊様方、アレが我々スイレン氏族の集落です」

「ふわぁ、凄いね……生きた木で防壁を作ってあるんだね」


 連続した何本もの樹木が融合して、まるで1本の木のように防壁を構築している。

 枝の上には櫓が建てられているのが見える。


 立ち止まって生きた防壁を見上げて感心していると、防壁の一部がウネウネと動いてそこから数人のエルフが飛び出してきた。


「心配したぞ、テト……黙って一人で飛び出して!」

「長がご立腹たぞ、覚悟するん……?!」


 走り寄って来たエルフ達がピタリと立ち止まり、そのまま硬直する。

 彼等の視線はシズク肩や頭に居座る三人娘に向けられたまま微動だにしない。


「て、テト……そちらの方々はもしや精霊様か?」


 内の一人が絞り出すように口を開いた。

 テトがそれにコクリと頷いて返す。


「ラスから見て左側より、アヤメ様、サクラ様、ツバキ様である……聖樹様とも面識がある方々故、失礼のなきように……」


 ラスと呼ばれた男の後ろでは、他のエルフ達が顔を寄せヒソヒソと囁き合う。


「この霊圧……聖樹様と同格の精霊様だぞ」

「しかも、三柱もいらっしゃる」

「精霊様が我らの里にお越しになるとは……これは吉兆だぞ」


「そして、精霊様方に懐かれておられるこちらの少女は……シズク様……愛し子である」


 ――おおぉぉぉぉ……


 エルフ達がどよめきを上げ、一斉に膝をついた。

 ラスと呼ばれた青年エルフが代表して口上を上げる。


「よくぞ我ら里へお越しになられました……シズク様、アヤメ様、サクラ様、ツバキ様……スイレン氏族は皆様を歓迎いたします」


 サクラがパタパタと舞い上がり、エルフ達の前に浮かぶ。


「うむ、よろしく頼むのじゃ」

「主様の名を先にしたこと、褒めて上げますの」

「でも、ボクのマスターは恥ずかしがり屋だから加減して欲しい、カナ?」

「え~と、そのぉ…………よろしくお願いします……」


 ラスに案内されシズク達はエルフの集落に足を踏み入れた。


「ふわぁ、趣があってとてもファンタジーだよ……これぞエルフの里って感じで……感動だよ~」


 樹上にもあるようだが、家屋は基本的に地上に建てられていた。

 全て木造で樹木と一体になっているように見える。

 窓に嵌め込まれているのは硝子ではなく、透明な膜のようなものだ。

 人族の街のように区画整理されてはいないが、自然と一体になっているせいか雑然とした印象は受けない。


「こちらが里長の家になります、家屋を用意するよう里長から申し遣っておりますので、挨拶が済みましたらお声かけ下さい」


 青年エルフが一礼してから走り去って行った。

 どうやら先触れが走り、既に粗方の事情が伝わっているようだ。

 テトの案内で家屋に入ると、既に長が待ち構えていてシズク達を出迎えてくれた。


「ようこそ、我らの里へ、愛し子様、精霊様方……先ずはゆるりとお寛ぎくだされ」


 シズクは言われるがままに、用意されていた丸座に正座する。

 丸座は植物を編んで作られた物らしく、フワフワと柔らかい。

 三人娘はと言えば、丸座に座らず当然のようにシズクの肩や頭に落ち着く。

 里長はその光景をみてニコリと笑みを溢すと、シズクの対面に胡座をかいて座る。

 彼の隣には絶世の美エルフが空を飛ぶ鳥を落とすような微笑を浮かべて佇んでいる。

 さらにその隣には5才くらいの美幼女があどけない顔をシズクに向け、目をキラキラと輝かせている。

 テトは双方の顔を見るように一人下座に座る。


「改めまして愛し子様に精霊のお三方……私はスイレン氏族を纏めるゼーネと申します……これなるは妻のネルと娘のラナにございます……息子のテトについてはご承知ですかな」


 どうみても若者にしか見えない長が頭を下げた。


「ゼーネの妻、ネルにございます、愛し子様、精霊の皆様におかれましてはご機嫌麗しゅうございます」

「ら、ラナです!愛し子さま、精霊さま、こんにちわなのぉ」

「改めまして……ゼーネの子、テトにございます」


 丁寧な口上に、シズクは慌てて礼を返して名乗りを上げる。


「し、シズクと言いますっ!左肩に座っている子がアヤメ、右肩の子がツバキ、頭に掴まってる子がサクラと言います、よろしくお願いします」

「ボクはアヤメ、よろしく、カナ?」

「ツバキですの」

「サクラじゃ、主共々よしなに頼む」


 挨拶が済んだ後は話し合いである。

 シズクはテトに出会った経緯とエルフの里を訪れた目的を話して聞かせる。

 サクラ達がやらかした地震についてはぼかしてある。


「愚息の命を救ってくれたこと、シズク様に感謝申し上げる……本当にありがとう」

「私からも感謝いたします、シズク様」

「アニさまを助けてくれてありがとなのぉ、シズクさま」


 美幼女の無垢な笑顔にシズクはホニャリと相貌を崩す。


(なにコノ可愛い過ぎる生き物は~!お持ち帰りしたいんですけど~!)


「シズク様……聖樹様は現在、力の大半を使い果たし、眠りについておられると聞いております……お会いできるよう手は尽くしてみますが……白銀様方がお許しくださるがどうか……」

「父様、シズク様より金花の実をお譲りいただきました、供物を捧げると言えば、白銀様もお許しくださるのではないでしょうか」

「き、金花の実だと?そのような貴重な物をお譲りいただいたのか?」

「偶々持っていた物なので気にしないで下さい」


 畑に鈴なりに生っているとはとても言えない雰囲気である。

 さりとて、受け取ってくれないのも困るので、幻想の森特有の薬草があったら分けて欲しいとお願いしておいた。


「主様……力を使い果たした原因には、おそらく封印が関係してますの」

「向こうの封印も限界じゃったからな、こっちも似たような状態なのであろ」

「助けを請えば良いのに……あの聖樹(ひと)意地っ張りなんだよね、相変わらず、カナ?」

「ねぇ……それって前に言ってたやつだよね、アレと同じようなのがここにも封印されてるの?」


 脳裏に浮かぶのは山羊の頭をした悪魔のようなバケモノである。

 魔法が悉く効かず、死ぬ思いをしてやっとのことで討滅した覚えがある。

 できることなら二度と関わりたくないと思っていたのだが……。


「それはもしや、『深淵の黒蛇(くろへび)』のことでありましょうか?」

「……深淵の黒蛇?」


 ゼーネが語ってくれたのはエルフに伝わる伝承だ。


 その昔、地の底より闇の鱗を纏う大蛇が現れた。

 大蛇は生きとし生けるものを食らい、泉の水を飲み干した。

 大蛇が撒き散らした毒は木々を枯れさせ水を腐らせた。

 エルフは逃げ惑い生きる大地を失った。

 それを憂いた大地の神が使徒を遣わし、これを討伐してのけた。

 だが、大蛇の生命力は凄まじく、使徒は止むを得ず精霊王の力を借りて大地に封印することにした。

 使徒は封印の守護を聖樹に委ね神の国へと帰還した。


「ふ~ん、そんな伝説が残ってるんだ……でも、史実なんだよね」

「まぁ、多少違う気がするが、概ね合っておるな」

「あのアホ勇者が使徒とか……あり得ないですの」

「だよね~、アレはサクラが可愛く思えるほど猪突猛進の脳筋だったからね……使徒と呼ぶに相応しかったのはもう一人の方、カナ?」


 さすがは精霊だ、寿命と言う概念のない彼女達にしてみれば伝説も奥様方の世間話レベルなのだろう。


「勇者なんてのがいたんだね……」


 まさか、異世界から召喚されたとか言わないよねと口ごもるシズクにアヤメが片目を閉じてみせる。


「えきざくとり~!マスターの想像通り、カナ?」

「ア、ヤ、メ~、主様の思考を勝手に読むのはダメだと約束したはずですの!」

「読んでない読んでないよ~、以前マスターが使ってた単語を借りて言ってみただけ、カナ?」

「えきざ?はて、どういう意味じゃったかな?」


 うだうだになりそうだったので突っ込まずに話題を変える。


「あのぉ、一つ伺いたいのですが……聖樹様が欲しているのは文字通りの生け贄なんですか?」


 三人が言っていた精霊が生け贄なんて必要とするはずがないという話をすると、ゼーネが顎に手をあてて考え込んだ。

 金花の実で丸く収まれば良いのだが、シズクはどうも齟齬がある気がしてならないのだ。


「使者として来られた白銀様が仰っていました……聖樹様が目覚めないのは魔力が枯渇しているからだと……だから生け贄の魔力を捧げてお目覚めいただくと……」

「フンッ……魔力が枯渇するのは正式な契約者がおらぬからじゃ」

「多分、ハイエルフの誰かと仮契約は結んでいるのでしょうが……役不足が原因ですの」

「その子の魔力を搾り取ろうって考えてるんじゃない、カナ?」


 どうやらハイエルフの白銀族とやらはこの美幼女のラナを生け贄にするつもりのようだ。


(これは話し合いが必要かな……)


 ハイエルフとも話してみてからになるが、もしラナを犠牲に自分達が助かろうと考えているならばお仕置きが必要だろう。


「珍しく主様が黒い顔をしてますの……」

「白銀とやらがアホな真似をせぬと良いがのぉ」

「サクラ、それは前フリって言うらしい、カナ?」


 ともあれ、ハイエルフの使者が来るのは3日後という話なので、シズクはスイレン氏族の集落で厄介になることにした。


「シズクさまぁ、ラナは初めて金花の実を食べたの~、とっても美味しくてほっぺが落ちてしまいそうなの~♪」


 目をキラキラさせて果物を頬張る美幼女の姿に、シズクはメロメロである。

 思わずプニプニの頬っぺたをツンツンしてしまいたくなる。


「好きなだけ食べてね、ラナちゃん……まだまだたくさんあるから♪」

「主様がデレデレなのです……プゥ」

「拗ねてないで、おぬしも混ざれば良いではないか」

「そだね~、ボクはマスターにア~ンしてもらおう、カナ?」

「ず、狡いですの!ウチもア~ンしてもらいたいのです!」


 どこへ行っても普段と変わらぬ三人娘の姦しさにシズクは思わず笑みを溢す。

 それを見たテトが羨ましそうに言う。


「シズク様は本当に精霊の方々と仲が良いのですね……少し羨ましいです」

「テト君は聖樹様と話したりはしないの?エルフの守護精霊みたいな存在なんでしょ?」

「前にも言いましたが、私たちは一年に一度、遠くよりお姿を拝見できるだけでとてもお話なんてできないのです……」


 テトはそう言うと、小声で召喚術式を詠唱し、右手を前にかざした。

 召還陣が浮かび上がり、そこからポンと蜥蜴が飛び出してきてテトの腕に乗った。


「これは私が契約している土の精霊で……トトって名です」


 テトの話しによると、エルフは皆精霊と契約しているらしい。

 ただ、大抵は下級精霊なので意思の疎通はできるが話すことはないとのこと……。


「シズク様、ラナもね、次の火の月に精霊様と契約するんだよ?」

「そっか~、それなら尚更ハイエルフ様とはきっちり話をつけなきゃいけないね♪」


 そんなシズクの姿を見て、精霊三人娘が肩を寄せ合い囁き合う。


「や、やっぱり……主様が黒いのですよ」

「おい……あの調子だと……あやつはけちょんけちょんにされるのではないかのぉ?」

「そだね~、あの聖樹(ひと)、気が強くて負けず嫌いだからね~、きっとやらかす、カナ?」

「ウチはハイエルフの連中が主様を怒らせないことを祈ってますの……」

「だから、それが前フリってやつなの、カナ?」


 怒らせると怖い破壊の化身が隣家にいるとは露ほどにも知らず、集落のエルフ達は客人をもてなす宴の用意に賑わっていた。


週一くらいでのんびり更新して行くつもりですが、空いてしまったらご免なさい。m(_ _)m

気長に付き合っていただけると嬉しいです。

感想など頂けると励みになりますので、是非一言でも下されば幸いです。\(_ _)


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