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魔法少女?いえ、魔法好きの喪女です……  作者: 山海千歳


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34 復興の手段

 王との面会、というハードミッションをこなしたシズクは再びニート生活に戻っていた。


「主よ、今日も引き込もっておるのかや?」

「ニートって言うんだった、カナ?」

「いや、ニートじゃないから……生薬や魔法薬を作ってるから」

「今日は何を作りますの?」


 リクームの生薬に加え、月一で研究所に魔法薬を納品する事になった。

 品目も量も以前と同じなのでリクームの薬関係と合わせても1日もあれば事足りる仕事量である。

 報酬も驚くほど良いのだが、月一でしか働かず、小屋に籠って趣味に明け暮れる現状を他に何と言えば良いのだろうか。


「はぁ~、指名手配もされずに済んだし、心が羽のように軽いよ~」


 貴族どころか、その親玉と関わることになってしまったがサクラ達がやらかした事に関して、シズクに責はないと言質をを貰ったので、一番の心配事が解消された形である。


(でも……あんな事になってたなんて……それを聞かされた時はびっくりしたよ……)


 サクラ達の起こした地震で、ロイエンタール領が壊滅的な被害を被ったとのことだった。

 幸い死者は皆無だったらしいが、多くの領民が家を失い生活する術を失くした。

 意図したことではないと言え、原因は自分にある。

 小心者のシズクとしては、関係ない人達が巻き込まれるのは寝覚めが悪い。

 そこで丁度、王様がこれまでの功績と謝罪を兼ね、多額の褒賞金をくれるとの事だったので、全額被災者の為に使って欲しいとお願いしておいた。


「問題は……逃げ出しちゃった精霊さんたちがどうしたら戻って来てくれるか、ってことよね」

「心配せずとも、放っておけばそのうち戻って来ますの」


 三人娘が怒りを爆発させたせいで、あの辺りの下級精霊がこぞって逃げ出してしまったらしい。

 大地は力を失い、水は枯れ果て、風は命を運ばず、火の恵みは絶えるという。

 精霊の加護なくして生命の息吹は育まれない。


(はぁ……王様たちが頭を抱える訳だよ……)


 あの時の……ザクセン宰相の質問の意味がやっと理解できた。


「多分……数十年ほどすれば戻ってくるのではないかのぉ」

「自然に戻ってくるのを待つしかないですの」

「まぁ、あの子たちは臆病だからね……ほとぼりが冷めれば戻ってくるんじゃない、カナ?」


 寿命という概念がない精霊らしい感想だろう。

 だが、精霊にしてみれば瞬く間の刻も、人にしてみれば一生涯の重さに変わる。

 全てではないとは言え、自分が原因の一翼を担っていることに間違いはない。

 ならば、なんとかせねばと思ってしまうのは……贖罪なのか、はたまた偽善であろうか。


「でも……そうですね、心地良い魔力が満ちていれば、あの子たちは寄ってくると思いますの」

「妾は主の魔力が一番心地良いのじゃ」

「それにはボクも同意見だね……マスターの魔力は甘露……砂漠に湧くオアシス、カナ?」

「ねぇ……アタシの魔力って……味があったりするのかな?」


 精霊は魔力を糧にするとは聞いているが、それはまさか言葉通りに食事的な意味合いではあるまいか……。


(そ、それって……なんか嫌だな……)


 一番に思いつくのは母乳なのだが、別の何かを想像してしまうのはシズクが耳年増だからだろうか……。

 ――ともあれ


「精霊にとって心地良い魔力って、一体どんな魔力の事なの?アタシの、とか言う抽象的なものじゃなくて……具体的なこう……性質というか特徴みたいなものはないのかな?」


 その言葉に考え込む三人娘。


「う~む……純真な子供の魔力はとても好ましいぞ?」

「獣や草木の魔力も澄んでいて心地良いのです」

「それって……アタシが小さい子供だって言いたいのかな……」

「フフフッ、それは違うよ、マスター……マスターの魔力は澄んでいてとても綺麗だって言いたいの、カナ?」


 それはそれで逆に嫌だ……というかこっ恥ずかしい。


「主様は邪気の欠片もなく、盲執と呼べるほどに趣味に没頭していますの……その気質が如実に魔力に表れていますの」

「くくっ……主は妾より猪突猛進じゃからな」

「フフフッ、マスターは魔法の事となると周りが全く見えなくなるよね……そこが面白くて退屈しない、カナ?」


(なんだろう……ちっとも褒められている気がしない……)


 それはともかく、シズクが被災地で魔力を放出すれば問題は解決するのだろうか……。

 それとも、そこへ住んで毎日魔力を垂れ流して過ごせとでも言うのだろうか……。


「まぁ、それも手ではあるな」

「少し時間は掛かりますけど、半年もすれば彼の地もここと同じように精霊の楽園になりますの」

「マスターの魔力を搾り取っているようで……ボクは嫌、カナ?」

「アタシだって嫌だよ……そんなガマの油みたいな扱い……」


 他になにも方法がないのなら仕方なくもあるが、できることならば遠慮したい術だ。


「それならば、主よ……聖樹を植えるという手はどうじゃ?」

「あぁ……確かに聖樹があれば下級精霊は寄ってきますの……それこそ群がるように……」


 聖樹には聞き覚えがある。

 確か、魔人の封印がどうとか、エルフがどうとか言っていた気がする。


「ふ~ん……そんな精霊ホイホイみたいな物があるんなら問題が解決したも同然じゃない?」

「でも……彼女はちょっと面倒臭い、カナ?」

「妾もあやつは煩いから苦手なのじゃ」

「はぁ……良くも悪くもですの……」


 喜色を浮かべるシズクとは対照的に三人の態度は微妙なものだ。


「ねぇ、その聖樹さんとは仲が悪かったりするの?」

「う~む、仲が悪いとは違うのじゃ……あやつに関しては説明するのが難しい……と言うか説明したくないのじゃ」

「彼女のことは……実際に見て貰った方が確かですの」

「……不安しか感じないんだけど?」

「まぁ……害はないと思う、カナ?」


 それからしばし話し合ったが、結局解決策は見つからず……聖樹があるというエルフの森へ行くことに決まった。


「エルフかぁ~……遂にフャンタジー定番の三巨頭の一角に会えるよ~」


 獣人族には出会えたので、残すところはエルフとドワーフである。

 三人娘の言葉に一抹の不安は覚えるが、新たなファンタジー種族の登場に胸のワクワクが止まらない。

 どこまで行っても、シズクはシズクであった。



 --------


 翌日、思い立ったら吉日とばかりにシズクは三人を伴い空の住人となった。

 向かうはエルフの住まうという幻想の森である。


 拠点の島を飛び立ち進路を北東にとる。

 巡航速度の500km/hで凡そ1時間、遥か北に壁のようにそそり立つ山脈が見えてきた。


「ふわぁ、壮観な景色だね~、エベレストみたいだよ~」


 まだ数百キロは離れているのに、頂が雲を貫き、冠雪で白く染まっているのが見てとれる。

 視界の端から端まで連なり、天を貫くように聳え立つ山々はさながら世界を割る壁の如しだ。


「あれはリアナ霊峰なのです、竜王の支配する領域ですの」

「あそこには(ドラゴン)どもが聖域と呼ぶ地があるのじゃ、迂闊に近付くと黒焦げにされるのじゃ」

「確か……ドワーフもあの辺りに住んでたと思う、カナ?」


 どうやらかなり危険な領域のようだ。

 下手に近寄らないようにしようと心のメモ帳に書き記しておく。


 進路をやや東に修正し、右手に霊峰を眺めつつ更に2時間、ようやく樹海の終わりが見えてきた。

 遥か彼方に青々とした海原が目に映る。


「……広すぎないかな、樹海……東西方向だけでも3000kmはある気がするんだけど……?」

「まぁ、この大陸の1/4はあるからのぉ」

「樹海の南西側には亜人種の国があるのですよ」

「奥地にはオーガやオークなんかの集落もある、カナ?」


 聞けば広さはアマゾンの3倍はあるようだ。

 樹海には獣人族を始めとした亜人種が住んでいるらしい。


 ともあれ、西側の海岸に出ると、遥か沖合いに黒々と陸地が霞んで見えた。


「主よ、アレに見えるのが幻想の森じゃ」

「聖樹に会うのは久しぶりなのです」

「ボクは少し憂鬱になってきた、カナ?」


 いちおうは陸続きのようなので本来は半島と呼ぶべきなのだろうが、繋がっている部分は幅数十メートル、長さ50kmしかない岩場である。

 しかも、先の半島部分はカイゼルトの国土より広いと言うのだから島と呼ぶ方が相応しい気がする。


 狭い岩場沿いに飛んでいくと、ふと何か動くものが目に入った。

 速度を落として近づいてみると、人が魔獣に襲われているではないか。

 ほっそりとした体躯の女性?がゴツゴツとした岩場を飛び跳ねながら馬の姿をした魔獣と弓で戦っている。


「……アレは水妖馬(ケルピー)?」


 しかし、どうも弓とは相性が悪い相手らしく、テラテラと滑る体表のせいで矢が全て弾かれてしまっている。

 狭い足場もあり、かなり苦戦を強いられかなり危うい。


「助けに入るから、三人は姿を隠して!」


 シズクは兵装を追加展開して戦闘態勢に入る。

 髪が銀色へと変じ、風に大きく靡く。


<……システム、戦闘形態(バトルモード)へ移行します……魔法デバイス、エンゲージ……>


 少しはなれた場所に滞空し、魔法デバイスを内蔵した左手を前に突き出す。


「雷撃魔法αを起動、変数を1に変更、範囲を最小に固定……」

<雷撃魔法α起動……変数1……範囲最小に固定……スタンバイ>


 バイザーから響く電子音に耳を傾けながらシズクは魔法を起動した。


「……雷撃(ライトニング)っ!」


 ――ズガガーン……


 青い閃光が煌めき、紫電の稲妻が魔獣の体を貫いた。

 瞬間的に体内を黒焦げにされた水妖馬(ケルピー)がブスブスと煙をあげながらゆっくりと海中に沈んでいく。


「任務完了っと!……で……あの人は……?」


 もう限界だったのだろう。

 シズクが振り返ると同時に件の女性は崩れるように海へ落ちてしまった。

 慌てて岩場に降りてサクラ達の手を借りて何とか引き上げる。


「その者をどうするのじゃ、主よ」

「さすがにこのまま放っておく訳にはいかないでしょ」


 ルーナの時と同じく、レビテートの魔法で浮かして陸地まで運ぶ。

 怪我をしているようだったので治療薬を傷口に振りかけ、念のため口にも流し込んでおく。


「そのエルフの男、どうやら幻想の森から来たようですの……聖樹の加護を受けていますの」

「えっ?男?女性にしか見えないんだけど?」


 言われてみれば、胸元はペタンコで喉仏も出ている。

 髪は短く、華奢な体格ながら引き締まった筋肉をしている。


「エルフは男女関わりなく小柄だし、中性的な顔立ちをしてる、カナ?」

「そうか、この人がエルフなんだ……なんか宝塚に遭遇した気分だよ……」


 背が低いということもあり、パッとみ高校生くらいの女の子にしか見えない。

 整った容姿と言うのは定番ではあるが、見ると聞くとではその印象は大違いだ。


「……ここは……貴女はいったい……はっ……う、海の悪魔はどこにっ?!」


 自分がおかれた現状を理解したのか、エルフの男の娘が飛び起きて周囲を見回す。


「海の悪魔?……馬みたいな魔獣のことなら倒しましたよ?」


 シズクがそう返すが彼からの返答はない。

 まるで彫像のように固まってパクパクと口だけを動かしている。

 その視線の先には宙に浮かぶ三人娘。


「そなた、幻想の森のエルフよな?このような場所で何をしておる」

「貴方からはあの聖樹(ひと)の匂いがしますの……」

「ねぇ……この子、固まっちゃってる、カナ?」


 サクラ達がエルフの肩に舞い降りて頭をポンポンと叩く……すると……。


「せ、せせ、精霊様~!お、お初にお目にかかります。わ、わわ、私はスイレン族が長ゼーネの息子、テトと申します、どうぞお見知りおきを~!」


 そう言って見事な土下座を披露する男の娘テト。


「妾は、何故聖樹の番人であるエルフのそなたがこんな場所におるのかと、聞いておるのだが?」

「も、ももも、申し訳ありません、精霊様~!わ、私めは金花の実を獲るために魔の森へ向かうところでありました~!」

「何故、金花の実をが必要なのです?」

「ははぁ~、我らが聖樹様を捧げる為にございます~」

「あぁ、そう言えば彼女は金花の実が好物だった、カナ?」

「さ、左様にございます~」


 シズクは一人蚊帳の外、おいてけぼりである。


(なんだろ……寸劇でも見せられてる気分だよ……)


 ともあれ、テト少年?……の話によると聖樹はここ数年、力を失い眠りについているのだとか……。

 代々、聖樹の守護は白銀族と呼ばれるハイエルフが担っているのだが、そのハイエルフが聖樹を復活させるべく、生け贄を捧げると言い出したらしい。


「で……君は生け贄に選ばれちゃった妹ちゃんを助けるべく、聖樹様が好物だという金花の実を採ってこようとしたと……」


 好物である金花の実を捧げれば生け贄を捧げなくても良くなるのでは?と考えたらしい。

 そして、金花の実は魔の森……樹海の奥地にしかないとのこと……。


「ねぇ、その金花の実っていうのがあれば、本当に聖樹が復活するの?」

「あの実をそんな効果はないですの……でも、あの聖樹(ひと)のことだから目の前にぶら下げれば、きっと飛び起きてきますの」

「そもそもの話じゃが……生け贄なぞ必要なのかや?」

「え?どういうこと?」

「生け贄なんか捧げられても、彼女は困るんじゃない、カナ?」

「…………」


 雲行きがおかしくなってきた。

 サクラ達の話によれば生け贄を欲するような精霊なぞ聞いたことがないと言う。

 両者の間に致命的なすれ違いがある気がしてならない。


「ねぇ、テト君……聖樹様が生け贄を寄越せって言ったのかな?」


「いえ……聖樹様の直接語ることができるのはハイエルフ様のみで……我々、森エルフは一年に一度、遠方からお姿を拝見するのみでして……」

「ふ~ん……と言うことは……その白銀族っていうハイエルフの人達に聞くしかないわけか……」


 考え込んでいると、テト少年がじっとシズクを見つめてくる。


「どうしたの……アタシがどうかした?」

「……もしや、貴方……様はハイエルフ様なのですか?」


 彼の話によるとハイエルフは皆、魔法の扱いに秀で、森エルフより遥かに寿命も長く、テト達にとっては上位種のような存在らしい。

 そして、最大の特徴が部族名にある通り、白銀の髪色なのだとか……。


「アタシは人族だよ、ほら……それと、名乗ってなかったよね、アタシはシズク、人族のシズクだよ」


 兵装を解除して素顔を晒してみせる。


「で、では……精霊様方とは……いったいどのようなご関係で?かなり……気安く話されているようですが……」


 上目遣いに恐る恐る尋ねてくる男の娘。

 その愛らしさはイケナイ扉を開いてしまいそうな程に危険である。


「エルフの童子よ、そんなもの決まっておるではないか、この方は妾の主じゃ、この姿を見て分からぬか」

「その通りですの、ウチの大切な主様なのですよ、ムフンッ!」

「フフフッ……ボクのマスターに無礼なことをしたら……フフフッ、分かってる、カナ?」


 三人の言葉にテト少年の顔から血の気が引く。


「もももも、申し訳ありません、シズク様っ!!まだ、助けられたお礼すら言っておりませんでした~、お許しくださいっ!!」


 流れる動作で土下座を敢行するテト少年。

 砂浜に何度も額を打ち付け涙目でシズクの慈悲を懇願する。


(アタシにどうしろって言うのよ~、何とかしてこの空気……!)


 シズクは間抜けなポーズで固まったまま、胸の内で声にならない悲鳴を上げていた。


週一くらいでのんびり更新して行くつもりですが、空いてしまったらご免なさい。m(_ _)m

気長に付き合っていただけると嬉しいです。

感想など頂けると励みになりますので、是非一言でも下されば幸いです。\(_ _)


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