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魔法少女?いえ、魔法好きの喪女です……  作者: 山海千歳


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33/40

33 覆水盆に返らず

 ロイエンタール辺境伯――アベル・ルード・ロイエンタールは日々手元に届けられる被害報告に頭を抱えていた。

 今回の大地震で自領のおよそ六割の地域が被害を被っている。

 地割れにより農地や灌漑設備が壊滅的な被害を受け、今年の収穫は絶望的だと報告を受けた。

 また、家屋の倒壊で数万人の領民が難民となってしまっている。

 食糧と支援物資を送ろうにも、地震で街道は断絶し、精鋭部隊の壊滅でそれも儘ならない状況だ。

 幸い隣領や王都からの支援で体裁は保てているが、それも長くは続かないだろう。

 そもそも他者に頼りきりでは領主としての存在意義を失ってしまう。

 かといって、残存兵力だけでは砦の防衛が限界で支援に回す手が圧倒的に足りない。

 公募で領民から人員を集めてはいるが、統制が取れず思うようにいかない。

 精鋭が壊滅した今、手足がないに等しいのだ。


「……どうしてこうなった……私は間違っていたのか……?」


 元凶は『紫電銀姫』と呼ばれる遺物(レリック)使いである。

 あの事件の2日ほど前、偵察に出していた部隊がその者を発見したという知らせを届けてきた。

 アベルはすぐさま精鋭部隊を派遣し、その者を捕らえるべく網を張った。

 娘のリリーナも伴い自らも出陣したというのに結果は散々たる有り様だ。

 娘も自分も重症を負い、既に一月経つというのに未だ療養生活を余儀なくされている。


「何故、治癒魔法も……治療薬も効かぬのだ……?」


 理由は分からないが、治療の魔法薬は効力を失い、神聖魔法は発動すらしなかった。


「いや、原因は分かっている……あの精霊だ……あの小娘と一緒にいた精霊どもが私達に呪いを掛けたに違いない」


 まさかあのような超常の存在を従えているとは夢にも思わなかった。

 事前に情報を手に入れてさえいれば、他にやりようはあったとアベルは臍を噛む。


「忌々しい小娘め……リリが手加減していたのを良いことに、卑怯にも隙をついて精霊をけしかけるとは……我がロイエンタール家に歯向かったこと……必ずや後悔させてやる」


 ――ガシャーンッ!


 憤懣やる方ないアベルは、うさを晴らすようにサイドテーブルにあった水差しを壁に投げつけた。


 そこへ、長年ロイエンタール家に仕えてきた家令がノックもそこそこに入ってきた。


「だ、旦那様!勅使の方が……勅令を携えたビッテンフェルト子爵様がおみえになられました」


 その報にアベルはくわっと目を見開く。


「それで……ビッテンフェルト卿は?」

「応接室でお待ち頂いております」

「分かった……直ぐに会うとお伝えしろ」


 アベルはベッドを降りると侍女の手を借りて身支度を整え応接室へと向かった。


「おぉ、これはロイエンタール卿……床に臥せておられると伺ったが……お怪我はもうよろしいのですかな?」

「はははっ、お気遣い痛み入る、ビッテンフェルト卿……私は日頃から鍛えておりますからな、これしきのこと怪我の内にも入りませぬよ」

「それは重畳ですな」


 貴族ならではの挨拶を交わし、二人はソファに対面して腰を据える。

 家令は戸口の脇に控え、近衛騎士が子爵の背後に立つ。


「して……此度の用向きとは……勅使伺ったが?」

「私が陛下より賜った件は二つ……大賢者と称された男、アイザックに関する布告……それに此度の卿の地で起こった地震についての勅令にございます」


 改めて勅令と聞かされ、思わず肩に力が入るアベル。

 布告についても不穏当な気配を感じる。


(敬称もなしとは……何をしでかした大賢者殿……だが、それよりも……)


 あれこれと思考を巡らすロイエンタールを余所に、指示を受けた近衛が携帯していた木箱をテーブルへ置き蓋を開けた。

 子爵がそこから書面を取り出して徐に掲げた。


「布告……大賢者の称号を与えしアイザック・ルード・サンドールが行いし罪とそれに対する処罰をここに記す……ひとつ、彼の者は……」


 子爵が読み上げた内容は驚くべきものであった。

 これまでアイザックのものとされてきた功績は全て、1人の女性研究員のものであり、アイザックはそれを奪ったばかりか、不当にその研究員を働かせていたのだと言う。

 アイザックの罪状は十数項目に及び、ここ最近の軍需物資の停滞の原因も関係していたようだ。

 だが、それよりも……。


「そ、その研究員が『紫電銀姫』……銀髪の遺物(レリック)使いだというのは真なのですか?」

「過日……陛下が直々に面会なされ、本人の口より直接、証言をお聞きしたそうにございます」


(ば、バカな……とすれば私が行ったことは……)


 話が真実ならば、アベルは国に対し揺るがぬ功績を立てた者に剣を向けたことになる。

 その罪は重く、知らなかったではとても済まない。

 相手が貴族と知らずに剣を抜いたとしても、処罰を免れぬのと同じだ。


 次いで……子爵は立ち上がり、近衛騎士が捧げ持つ木箱に一礼した。

 箱から勅書を取り出して丁重に掲げ持ち、厳かに告げる。


「勅令である……臣、ロイエンタール辺境伯は傾聴せよ」


 赤髪の偉丈夫は直ぐ様立ち上がり、子爵の前に膝をついて頭を垂れる。


「臣……アベル・ルード・ロイエンタール、勅令を謹んで拝聴致します」


 儀礼的なやり取りを経てから、子爵が勅書を読み上げていく。


「卿は国に多大な功績がある女性に対し、不当に身柄を拘束しようと画策し、武力を以て事に及んだ事実は明らかである。また、その際……精霊の怒りを買い国土と国民に大きな被害をもたらした事は許される事ではない。……よって、ここに沙汰を下す……二つの条件を記す、自身で選択するが良い……以上です」


 ビッテンフェルトが勅書を木箱に戻し、箱をアベルへと手渡した。


「尚……異議があるならば、審議の魔導具の元に語る機会を与えるとの仰せです……ロイエンタール卿……私はこれで失礼させて頂きます」


 勅書の内容を知る子爵は居たたまれず、早々に辞去を告げてそそくさと去っていった。


「だ、旦那様……お顔の色が優れませぬ……少しお休みになられては?」


 勅書に目を通す主に、家令が心配げに声を掛けるがその声は届いていない。


(ば、バカな……これでは我がロイエンタール家は……)


 記されていた沙汰の条項は二つ……。

 ひとつは子爵への降格、及び被災した領地の召し上げである。

 もうひとつは爵位はそのままながら、これまで辺境伯として得ていた国よりの援助金と軍権の一時凍結とある。

 凍結期間は領地の復興が完了するまでとなっており、復興に掛かる資金は全てロイエンタール家が負担する事、と条件が記されている。


(国からの支援を受けられないのは痛いが……蓄財を全て投げうてば可能ではある……問題は……)


 一緒に収められていたザクセン宰相よりの調書である。

 調書には今ロイエンタール領が直面している事象が具に記されていた。

 曰く、精霊の怒りを受けたロイエンタール領は精霊の加護を失った。

 少なくとも、数十年は怒りが治まることはことはなく、力を失った大地から作物は育たず、水は枯れ、空気は淀み、火の恵みが絶えるだろうとある。


(くっ……つまりは数十年復興もままならんと言うことではないか……)


 領民は難民となり、他領へ流れることになる。

 そのための援助金はロイエンタール家が負担しなければならないだろう。

 それは義務だから仕方がない、だが一時的ならばまだしも、数十年となれば世代を重ねた領民がロイエンタール領に戻ってくることはない。

 つまりは降格を受け入れ残った狭い自領と領民を守るのか、例え有名無実でもロイエンタールの名を守るかということである。


「親族会議を開く……分家全てに召集をかけろ……代理は許さん、重大案件だと言い渡しておけ」


 アベルは急ぎ足で去る家令の背を見送り、ドカリとソファに体を投げ出し天井を仰ぎ見る。


「祖霊よ……愚かな私をお許しください……我が身が破滅しようと構いません……どうか、ロイエンタールの家をお護りください……」


 そこには数々の武功で名を馳せ、英雄と称された面影はない。

 たった数刻で精悍だった顔はやつれ、髪色は褪せ十年は老け込んでいた。



 --------


 ――同じ頃……。

 王宮の会議室では関係者を集め今後の対策会議が開かれていた。

 集められたのはシズクの内情を知る面々である。


「シズクさんが魔法薬の錬成を請負って下さったお陰で、当面の破綻は免れることができそうです、今後は余剰の人員を研究に回せるでしょう」


 メアリー・レイモンドの報告に王が頷く。


「しかし……数十人の作業量をたった1人でこなしていたとは、驚きを通り越して呆れてしまうな」

「一度だけ彼女が魔法薬を錬成するところを見せてもらいましたが……片手間に、それもお茶を入れるような気安さで錬成されたのには驚きのあまり、私は開いた口が塞がりませんでしたわ」


 そう言って溜め息を吐くメアリーに、リチャード王はクツクツと笑う。

 聞けば聞くほどに彼女は規格外な人間だ。

 類い稀な技術と高度な魔法知識を持ち、その上錬金術まで至高の域にある。

 聞けば彼女が纏う兵装は自作したものであり、遺物ではないのだと言う。


(しかも、上位の精霊を3人も従えているとなれば……我が国の総力を挙げても、オードリー嬢の前には無力であろうな……)


 そこへ、ランドール伯が口を挟んだ。


「レイモンド嬢、新しく採用した研究員は戦力になりそうなのかな?」

「錬金術に秀でた方々を採用しましたので、魔法薬に関しては半年もあれば形になるでしょう……ただ、私ではシズクさんの領域まで彼等を導くことが困難でして……」


 申し訳なさそうにメアリーが俯く。


「彼女には所長の座も爵位も断られてしまったからな……正直、胃が痛くなりそうだよ」

「……だからと言って、尊爵の短剣を何の説明もなくオードリー嬢に与えたのは感心しませんがね……もし、彼女にそれが露見したりなぞすれば……精霊の方々がどんな反応を示すのか……私めはそちらの方が心配でたまりませんな」


 肩を落として言う白髯の宰相に、ランドールが口を添える。


「ザクセン殿……それほど長い付き合いがあるわけではないが、オードリー嬢は思慮深く、礼儀正しい女性だ……義理にも厚い……礼を以て接すれば礼を返し、義を以て接すれば義で返す御仁だと思う……精霊の方々はそんな彼女を慕っておる、問題はないであろうよ」

「私もランドール様の意見に同意いたしますわ……少々だらしないところはありますが、シズクさんは温厚で理知的な思考の持ち主だと思います」

「余も二人の意見に賛成だな……あの者が軽々に他者を害することはあるまい……与えた巨額の報償金を全額ポンと被災した民の為に使ってやれなどと言うお人好しなのだぞ?」


 二人に便乗する主の台詞に、ザクセンは大きく溜め息を吐いた。


「オードリー嬢の人柄がどうあれ、余人が彼女を害することがあれば精霊様の怒りが我々の頭上に降ってくるのは確実だと私めは言いたいのです」


 ザクセンの言も最もである。

 愚か者が自滅するのならば自業自得で済むが、怒りの被害が余人に及ぶ可能性はあるのだ。

 現につい先頃、それを経験したばかりではないか……。


「ザクセン殿の懸念は当然でしょうな……愚か者がオードリー嬢にちょっかいを掛けぬよう、気を配る必要がありますぞ……陛下」

「うむ……ザクセン……彼女の身辺を警護する人員は配置できるか?」

「……なんとかいたしましょう」


 先ずは住まいを教えてもらえるよう、信頼を得るところから始めねばならないな、と……ザクセンは内心で頭を抱えた。


週一でのんびり更新して行くつもりですが、空いてしまったらご免なさい。m(_ _)m

気長に付き合っていただけると嬉しいです。

感想など頂けると励みになりますので、是非一言でも下されば幸いです。\(_ _)


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