31 傭兵リック再び
襲撃を受けてから二週間、当初予定していた遺跡探索は全て中止にした。
しかも、家から一歩も外へ出ることもなく、絶賛引きこもり中である。
「やっぱり……指名手配とか……されちゃってるのかな~」
正当防衛とはいえ、師団をひとつ壊滅させたのは明らかにやりすぎだろう。
三人が手加減してくれたお陰で死人は皆無らしいが、相手は権力者である、無罪放免とはいかないだろう。
「やっぱり、怒ってるよね……あの赤髪のオジさん……」
確か、彼は辺境伯と名乗っていた……辺境伯と言えば侯爵に比肩する権力を持ち、独自の軍権を与えられた国の重鎮である。
それに加え、闘いを挑んで来た娘の件もある。
あの後どうなったのか……少し心配である。
「妾の主に剣を向けたのじゃ、当然の報いであろう?」
「命は拾ったのです……主様の慈悲に感謝すべきなのですよ」
「だよね~、マスターの言葉がなければ今頃は灰になってた、カナ?」
物騒な物言いに言葉を失うシズク。
因みに、シズクは大地震による被害の詳細を知らない。
(三人はアタシの代わりに怒ってくれたんだよね……ちょっとやり過ぎな気がするけど……叱るのは違うよね……)
悪いのはシズクだ、優柔不断で相手にはっきりとした態度を示さなかった自分に非がある。
理不尽な暴力からシズクを庇ってくれた三人を責めるのは筋違いだろう。
それから更に2日、研究と言う名目の現実逃避を続けるシズクの元に女豹の牙から連絡が届いた。
その内容は「リック・ランドルという御仁がシズクに会いたがっている、至急連絡をされたし……」というものだった。
「ハンターのリックさんには助けてもらったし……改めてお礼を言いたかったのよね」
浮遊石を手に入れるため素材屋のドルフを紹介してもらった恩もある。
「と言うことは、主は赤髪の僕に会いに王都やらに行くのかや?」
サクラが目を輝かせてヒラヒラと舞う。
もう指摘するのも面倒だと、ツバキがジト目で溜め息を吐く。
「そだね~……珍しくリリィさんまで会ってやって欲しい、なんて通信してくるんだもん……断れないよね」
「王都とは……たくさんの人の子が住まう街なのですよね?ウチは楽しみなのですよ」
「だね~、それに今のマスターには友人との語らいが必要、カナ?」
翌日、シズク達一行は王都へと赴いた。
3ヶ月ぶりに訪れる王都の喧騒はどこか懐かしくもあり、改めてここが故郷なのだと自覚させられた。
(住めば都とは言うけど……アタシにとってこの世界の故郷はこの街みたいだね……)
<凄いぞ、主!見たこともない食べ物がある!>
<フワァ~、おっきい時計があるのですよ!>
<人が多すぎてボクは酔いそう、カナ?>
半月前の襲撃事件はどこへやら、シズクは懐かしさを覚える街並みを三人と共に眺めつつ、女豹の牙の拠点を訪ねた。
「態々足を運んでもらって悪かったね、嬢ちゃん……どうしても断れなくてさぁ」
「いらっしゃいっス!シズシズが来るのを待っていたっスよ」
「……うん……心配してた……」
「し、心配って一月も経ってないじゃないですか……そうだ、これウチの畑で採れた果物や野菜です、皆さんで食べてください、食べきれないようならご近所さんにお裾分けしてくださいな」
次元収納から木箱を十個程出して部屋の角に重ねて置く。
中にはシズクの畑で採れた野菜や果物が詰め込んである。
「そいつは有難い話だが……あの畑の作物ってのが引っ掛かるね」
口許をひきつらせてルーナが積み上げられた箱を見やる。
ミャアが早速とばかりに突撃する。
「うわぁ、リリィの好きな星形の果物がたくさんあるっスよ♪」
「……それ、スターアップル……幻の果物……」
「ミャア……それ1個で金貨一枚はする|
代物さね……絶対に人に言うんじゃないよ」
「そうなんスか?でもシズシズの畑には山のように生ってたっスよ?」
金貨一枚ということは5万ルクスということになる、「果物ひとつに物好きもいるんだね~」と当の本人はあくまでも他人事だ。
スターアップルを摘まみながらリビングで寛いでいると、来客を告げる呼び鈴が鳴った。
リリィが応対に席を立ち、ほどなく二人の男性を伴って戻ってきた。
「こんにちは、お嬢さん方……お邪魔させてもらうよ」
そう言って入って来たのはゴツイ体格の老紳士、ハンターのリック・ランドルだ。
「これはロムウェルの焼き菓子です、皆さんで召し上がってください」
眼鏡を掛けた青年が手提げ袋を差し出してミャアに手渡す。
「お久しぶりです、リックさん……この前は何かとお世話になってしまって、本当にありがとうございました」
シズクがペコリと頭を下げると、リックが膝をついて目線を合わせて言う。
「壮健なようで何よりだ、アレから色々あったようだね……私は君と話がしたくてずっと探していたんだよ……今回は謝罪せねばならない案件もある……」
「謝罪……ですか?」
「そうだ、愚か者が犯した過ちのね……」
詳しいことは落ち着いてからということで場を移しソファに腰を落ち着ける。
シズクとルーナが並んで座り、対面にリックと共の青年が座を占める。
ミャアとリリィは木椅子を持ち出して来て左右に別れて腰を下ろした。
「改めて名乗らせてもらう、以前シズ……オードリー嬢にはリック・ランドルと名乗ったがアレはハンターをしていた若い時に使っていた偽名でね……本名はマーベリック・ルード・ランドールと申す……陛下より伯爵位を賜り、今は軍属となりアスワン砦の防衛を任されておる」
(アスワン砦ってことは、あの時の……?)
アスワン砦と言えば、飛行試験の折に魔獣に襲撃されていた砦の事だ。
そこへ、傍らの青年が口を挟む。
「あの件では……私もずっと貴女に礼を言いたくていたんです……砦を……我々の戦友を救ってくださったこと、誠に感謝申し上げる」
「え~と……貴方は……」
「これは失礼しました……私はルベルト・リスタンと言います……ランドール准将の下で参謀次官を務めております……以後、お見知りおきください、オードリー様……」
「あ、あのぉ……様付けは……止めてください……アタシは……平民なので……」
「いえ、そういう訳にはいきません、貴女様は……」
「ルベルトっ!」
「はっ……申し訳ありません……」
静かながら重々しい声にルベルトが引き下がり口を噤んだ。
「オードリー嬢……いや、許されるならばあの時のように親しみを込めてシズク嬢と呼ばせてもらおう……」
一旦言葉を切り、シズクに異論がないことを確認してから老紳士が続ける。
「先ずは私からも礼を言わせてくれ……多くの部下を救ってくれたこと、心より感謝する……ありがとう」
(さっきはスルーしちゃってたけど……これってアタシの正体がバレてるってことなのかな?)
ルーナを見れば「アタシは知らないよ」と小さく首を振ってみせる。
「ふはははっ、私には諜報に長けた部下もいてね、銀姫のことを調べる内にシズク嬢の存在が浮かんで来たんだよ」
聞けば、件の戦役からずっと『紫電銀姫』の正体を突き止めるべく、諜報部隊が活動していたらしい。
アイザック所長のことも調査していたのだとか。
「まぁ、あくまでも可能性だけであって確証があった訳ではないのだが……悪知恵の働くどこぞの眼鏡のお陰で今しがた確証を得はしたがね」
(それって……さっきの発言はカマを掛けられてたってこと?)
青年を見ればにこやかな笑みが返ってくる。
ルーナに視線を移せば、片手で額を押さえている。
その顔は「あ~あ、やっちまったよ」と言っている。
そして、はたと悟るシズク、先のルーナのジェスチャーは「アタシは知らないよ」ではなく「余計なこと喋るんじゃないよ」だったのだと……。
「本当に済まぬな、シズク嬢……そなたの秘密を暴くような真似をして……だが、これも国に忠誠を誓う貴族としての務め、言葉を飾った申し開きなどせぬ……」
それからランドールが語ったのは大賢者に纏わる不正の数々と、研究所に関する不始末であった。
「同じ貴族として、大賢じ……いや、アイザックががそなたの功績を奪い、不当に酷使したことを深く詫びる……この件については陛下も酷くお怒りになられ、アイザックについては爵位剥奪の上、終身刑の沙汰を下された……そして、シズク嬢には公式の場で正式に謝罪をしたいと仰られている」
「えっ?公式?あ、アタシが王様に謁見するんですか?」
素っ頓狂な声を上げるシズクにランドールが重々しく頷く。
「ムリムリムリムリムリムリ、アタシの精神がマッハで削れちゃいます!」
「まっは?……ちったぁ、落ち着きなよ嬢ちゃん、王様は何も取って食おうって訳じゃないさね……だよね、お貴族様……」
ルーナがシズクの肩を叩いて言う……がしかし、その視線は対面のランドールを捉えたままだ。
「……大丈夫……シズシズを利用するつもりなら……私も黙っていない……」
「ミャアも黙ってないっスよ、賑やかなのは大好きっス!」
約一名、良く解っていないようだが、心強い味方の存在にシズクは涙を浮かべる。
「もちろんだとも……そして、我がランドール家の名に懸けて誓おう、私かシズク嬢を不当に扱うことも、本人の意思に反して何かを押し付けることもないと断言する……もし、他の貴族がそのような行いに走るならば持てる力の全てを使って阻止してみせよう……仮に陛下が相手だとしても、我が身命を賭してでも必ずや諌めてみせる」
右手を胸に当て誓いの言葉を口にするランドール。
その真剣な眼差しに嘘はなさそうだ。
精霊娘三人が姿を隠したまま黙っているのがその証拠である。
どんどん塞がれる逃げ道に、シズクはガックリと肩を落とす。
「わ、分かり……ました……」
「はははっ、そう緊張しないでくれ、シズク嬢……先ずは陛下と面会をして話をつけてもらうことになる……謁見については本人の意向を優先してやれ、と陛下よりお言葉を賜っておる」
国の体面上、できれば謁見式には参列して欲しいがな、と老紳士が捕捉して言う。
そこへ、今まで黙していた三人が口を挟んだ。
<心配は無用じゃ、主よ!不届き者は妾が懲らしめてやるのじゃよ!>
<こ、懲らしめちゃダメだからね……>
<ならば、主様の偉大さをたっぷりと思い知らせて上げますの!フンスッ!>
<お、思い知らせるのもダメだよ、ツバキ……>
<マスターの威光に平伏せば良い、カナ?>
<平伏さないから~>
声にならないシズクの叫びが木霊した。
週一でのんびり更新して行くつもりですが、空いてしまったらご免なさい。m(_ _)m
気長に付き合っていただけると嬉しいです。
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