30 襲撃
中1日おいて、シズクは再び三人娘を伴い遺跡探索に出掛けた。
昨日、1日掛けて集めた範囲の地形データから地図を作成し、座標データと照らし合わせてみた。
「音波探査の魔導具も用意したし、張り切って行ってみようか~」
シズクの掛け声に、三人が小さな腕を突き上げて応える。
「オォ~!」
「ハイ、なのです!」
「了か~い、カナ?」
スタート地点の草原を飛び立ち、ゲートのように聳えた断崖の谷間に進入していく。
「ふぁ~、これは壮観だね……大自然の営みを感じるよ」
石灰岩の浸食で形成された渓谷は前世のグランドキャニオンを彷彿させられる。
少し違うのは崩れ落ちた巨石がゴロゴロしているところだろうか。
そして、一刻ほど探索を続けた頃……。
退屈のあまりサクラが根をあげた。
「主よ、まだ遺跡は見つからないのかのぉ……暇で死にそうじゃぞ~」
「いくら主様でもそんなに簡単に見つけられる訳ないですの、サクラはせっかちなのですよ」
そんな二人のいつものやり取りにシズクは笑みを浮かべる。
「今のところ、それらしい洞窟はないかな~」
「偽装されてる……なんてことはないの、カナ?」
もちろん、その可能性も考えて、音波探査に金属探知、レーザースキャン、魔力探索とフルで稼働している。
「となると……やっぱり、昨日言ってたマスターの予想が正しいみたい、カナ?」
「大地が丸いって言ってたアレじゃな」
「不思議ですの、主様の言葉は信じてるけど、信じられませんの……」
古代の通信技術の水準がどの程度だったのかは不明だが、今より優れていたと仮定しても、人工衛星がなければ1000kmが精々だろう。
一旦、草原まで引き返し、今後について相談する。
「アタシが思うに……多分、一番近い座標は地上にあったんじゃないかな」
痕跡は何もなかったが、通信可能距離から逆算するに、探していた施設はおそらく30~50kmくらいの地点にあったのだろう。
「主様、これからどうしますの?」
「何も見つからなくて暇なのじゃ、主よ~」
「他を探してみるのもあり、カナ?」
「そうだね~、これ以上探しても無駄足になりそうだし、別の座標を当たってみようか」
可能性はまだゼロではないが、他の座標を虱潰しに当たった方が確率が高そうだ。
少し休憩してから、いざ移動しようと腰を上げたその時――
――ヒュオォッ
複数の風切り音が周囲に響き渡る。
見上げてみればいつの間に現れたのか、飛翔馬が数機、40~50m上空を旋回している。
「主よ!」
「主様!」
「マスター!」
鋭い声に視線を移せば、東西から騎馬の一団が迫ってきているのが目に映る。
南の森からは徒歩の集団が姿を現し、こちらも散開しながら陣形を形成しつつある。
そして、彼等が身に纏っているのは魔導国の軍服である。
何故こんな場所に、とシズクは頭を捻る。
ともあれ――
「と、取り敢えず……三人は姿を消して隠れてて……」
徐々に包囲を狭めてくるところから見て、目当ては自分のようだが、その目的にシズクは心当たりがない。
(も、もしかして……遺跡に無断で入ったのが……ば、バレたのかな……)
地形の探査に集中するあまり、周囲の警戒が疎かになっていたのが悔やまれる。
逃走するのは簡単だが、後ろめたい事があるだけに、相手の目的が気になる。
シズクは先ずは静観することにした。
その時――
徒歩の部隊が割れ、その後方から騎馬が数騎ほど駆け出てきた。
「我が名はアベル・ルード・ロイエンタール……この北の地を治める辺境伯である!貴様が噂の『紫電銀姫』か?些か髪色が異なるようだが……返答や如何に?」
先頭の騎馬に股がった見事な赤髪の偉丈夫が声を張り上げて言う。
(しでん……ぎん……?何それ……何の話?)
<主よ、たぶん赤髪の僕が言っておった事じゃ>
耳元で囁くサクラの言葉にシズクはポンと手を打つ。
(あ~、アレかぁ……アタシを見掛けた兵隊さんが銀~何とかって勝手に命名して噂してたって言うアレかぁ)
そう言えばルーナがそんな話をしていた気がする。
恥ずかしい話だったのでスルーして記憶の彼方に追いやっていたので今の今まで綺麗さっぱり忘れていた。
たが、そんな事よりも……。
(不味い……アタシ、今兵装を展開してないよ……)
バイザーと飛行ユニットしか展開していないので、髪の色は1/3程度が銀色に変じているだけだ。
普段着に加え、偽装魔法も起動していない。
「答えぬか……ひとつ聞くが貴様は纏っている兵装は遺物に纏わるものか?答えよ、小娘っ!」
そんな事を言われても、コミュ障で基本人見知りのシズクに人前で大声を上げる真似などできよう筈がない。
「尚も答えぬとあらば、力ずくで答えさせるまで……虜にしてからゆっくりと訊ねることとしよう」
偉丈夫が片手を上げると、部隊が一斉に動いた。
「「銃兵隊、構え~!」」
「「騎馬隊、散開せよっ!」」
「歩兵隊、前へ~!」
シズクを包囲するべく陣形が移動を始め、魔導銃の黒い筒先がシズクに向けられる。
騎馬隊の一部が背後に回り込んだ。
上空に逃がすまいと飛翔馬が真上を旋回し続けている。
「大人しく縛につけ、小娘っ!我が陣営に下るならば悪いようにはせん!だが、逆らうと言うならば容赦はしないと思え!」
<どうするのじゃ、主よ……妾が少し、あの愚か者達を痛い目に合わせてやろうか?>
<無礼にも程があるのですよ!プンスカですのっ!!>
<フフフ……滅びたいの、カナ?>
不穏な空気を漂わせ始めた三人にシズクは慌てる。
<ま、待って!お、お願いだから早まらないでね……アタシは……>
そう言い掛けた矢先――
――キンッ……キキンッ!
放たれた魔弾が障壁に跳ね返され、燐光となって消え去る。
「対象は障壁の魔導具を携帯しているぞ!」
「スパイダーだ、スパイダーを使え!」
「特務隊、前へ!」
歩兵隊が慌ただしく隊列を変える。
色違いの軍服を纏った部隊から一人が進み出てスパイダーを構えて射撃を始める。
――キキキキキンッ!
だが、結果は同じだ。
十数発の魔弾が青い燐光となって空中に消え去る。
(く、国が相手でも……正当防衛が成立するのかな……)
兵装を展開していない現状では専守防衛と言っても限度がある。
それに、魔獣相手ならばともかく、人を攻撃する度胸と言うか覚悟などシズクにはない。
できれば飛んで逃げたいのだか、これだけの数に狙い撃ちにされたら、確実に飛翔馬を巻き込むことになるだろう。
自業自得とは言え、それは少し気が引ける。
それに兵装なしの魔法障壁では少し心許なくもある……気持ち的に……。
(かといって……今さら展開する訳にいかないし……どうしたものか……)
今から兵装を展開しようものなら、素が黒髪だということが露見してしまう。
「下がりなさいっ!私が相手をしますわ!」
辺境伯を名乗る男の傍らにいた赤髪の少女がヒラリと騎馬から飛び降りて前に出た。
それに応えるように偉丈夫が片手を上げると、部隊が一斉に下がって距離を空けた。
「お初にお目にかかるわね、銀姫……私はリリーナ……アベル・ルード・ロイエンタールが娘――リリーナ・ロイエンタールよ、見知りおきなさい!」
深紅の髪を左右で纏めたシニョン、旗袍を想わせる格闘着、ゴツイ見た目の銀のガントレット――その姿は以前に見た覚えがある。
(あ~、お披露目の時に見た遺物使いの子だよ……え~と、マギ……マギドラムズ?)
少し違う気がするが、そんな部隊名だった筈だ。
戦闘用のゴーレムを派手に爆散させていた記憶がある。
「フフン、障壁なんて一瞬で飽和させてあげるわ」
不敵な笑みを浮かべたリリーナが掌を上に向けると、青白い炎の塊がフワリと浮かび上がった。
次の瞬間、流れる動作で静態から右脇構えへ移り、そのまま正拳突きを繰り出す赤髪の格闘娘。
突き出した拳の先から炎弾が高速で放たれる。
――ズドンッ!
障壁にぶち当たった衝撃音が響き渡り、青白い業火がシズクを包み込む。
だが、それも一瞬のことだ。
「フ~ン、さすがに頑丈ですわね……手加減したとは言え、同じ遺物だけありますわね」
リリーナが更に歩を進めシズクの前に立つ。
「知っているとは思うけど……私は紅玉の継承者、『火炎闘姫』の二つ名を持つ魔導少女よ、投降するなら今の内よ?私は手加減が苦手なの」
(うわぁ~、この子……自分で二つ名とか言っちゃってるよ~)
自分にも痛い黒歴史があるだけに、シズクは思わず生暖かい目を向けてしまう。
まさに同類相憐れむである。
「私を前にしてその笑み……気に入りませんわね、余裕のつもりなのかしら……」
「あ、アタシには……争うつもりも……理由もありません……」
「それはつまり、敗けを認めて降参する……そういうことかしら?」
勝ち誇った笑みを浮かべ、片手を腰に当てる格闘娘。
「……いえ……降参もしたくないです……」
「じゃあ、私とサシで勝負するのかしら?」
「……勝負なんて……しなくないです……」
「わ、私をからかうとは良い度胸ね……」
シズクとしては、正直に胸の内を明かしただけなのだが、リリーナはそれを嘲弄ととって激昂する。
「良いわ、思い知らせて上げる……足を消し炭にして這いつくばらせてあげるわっ!!」
言い終わるや否や、リリーナが飛び掛かって来た。
瞬間移動を想わせる速度で間合いを詰め、障壁に蹴りを放つ。
――バリンッ!
そこからは怒涛のラッシュだ。
「ハッ!ハァッ!ハァ~!」
「あわわわっ!ち、ちょっ!ま、待って……ひぐっ!」
格闘の心得のないシズクは防戦一方……というより、へっぴり腰で逃げ惑うばかりだ。
しかし、強大な魔力に裏打ちされた強化魔法のお陰で幸か不幸か被害はゼロである。
そして、なまじ被害がないことが相手の神経を逆撫でにする。
「ぶ、不様なフリをして……私をからかっているのっ!!」
ガン逃げしたいところだが、リリーナの体裁きはそれを許してくれそうにない。
唸る正拳突きが頬を掠め、青い炎に包まれた裏拳が服を焦がす。
右に避ければ拳に阻まれ、左に転がれば蹴りで前を塞がれる。
どうしたものかと、涙目で逃げ回るシズク。
ついには放たれた回し蹴りを辛うじて受け止め後方に吹き飛ばされてしまった。
その時である……。
「妾の主を傷つけるとは良い度胸じゃな、小娘っ!もはや、我慢ならん……容赦はせぬからなっ!!」
「許しませんの、許しませんの、許しませんの、許しませんの!」
「フフフッ……ボクをここまで怒らせるなんて……覚悟はできてるの、カナ?」
満面の笑みを浮かべた三人娘が顕現した。
しかし、目が全く笑っていない。
「あ、あなた達……っ?!」
咄嗟に手を伸ばすも手遅れである。
――ゴゴゴゴッ!
三人から凄まじい魔力が放たれ、微かに地面が揺れ動く。
「な、なな、何なのお前達はっ?!」
驚愕と恐怖にリリーナの顔が歪む。
強大な魔力に気圧され、ガタガタと震え腰を抜かしたようにペタンと尻餅をつく。
「「「滅べ、人の子……我らが女王を傷つけたこと……死して後悔するが良いっ!!」」」
「ま、待ってっ!サクラ、ツバキ、アヤメっ!殺しちゃ、ダメェェェェッ~!!」
シズクの叫びは……次の瞬間に訪れた轟音と衝撃によって搔き消された……。
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この日、ロイエンタール辺境伯領を激しい地震が襲った。
広範囲の麦畑が地割れによって大打撃を被り、多数の家屋が倒壊した。
負傷者の数は数万人に昇り、堅牢を誇っていた砦の城壁も大きな被害を受けた。
だが……壊滅的な被害にも関わらず、死者は皆無であったとも言う……。
ほどなく――三柱の精霊を従えた精霊女王の顕現が国中で噂されることになる。
そして、この日の天災について……後の歴史書にこう記された――『精霊女王の怒り』……と。
週一でのんびり更新して行くつもりですが、空いてしまったらご免なさい。m(_ _)m
気長に付き合っていただけると嬉しいです。
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