29 新たな遺跡を求めて
遺跡探索から戻って2日間、シズクは実験と魔導具製作に勤しんでいた。
「よぉし、完成!テレレテッテレ~♪」
「ふふっ、ご機嫌だねマスター……今度は何の魔導具を作ったの、カナ?」
ひょいと顔を上げれば目を輝かせたアヤメがシズクの手元を覗き込んでいた。
「これは金属探知機……地中にある金属の塊を探す為の物だよ」
電磁力を用いた物なので電気を通す金属にしか反応しないが、遺跡に使われている金属ならば問題ないことは確認済みである。
「主様は別の遺跡を探すつもりなのです?」
「遺跡探しの冒険なら、妾も絶対に行くぞ~!おいてけぼりは嫌なのじゃ~!」
ツバキとサクラがヒラリと作業台に舞い降りた。
二人とも出来上がったばかりの金属探知機を興味深そうに眺めている。
「じゃが、そんな魔導具で本当に遺跡を探せるのかや?」
「主様に失礼ですの、サクラ!主様が作る物に間違いはありませんの!」
「いや……どちらかと言うと間違いや失敗作の方が多いからね、ツバキ……」
褒めてくれるのは嬉しいが、ハードルをガンガン上げるのは止めてもらいたい。
「それで……具体的にどうやって探すつもりなの?手懸かりはあるの、カナ?」
もちろん、闇雲に探すつもりは毛頭ない。
「実はこの前の遺跡で集めてきたデータの中に通信履歴が見つかってね、そこに通信先の座標データが残ってたんだよ」
単位が分からないので正確な場所は分からないが、あの遺跡を基準にした相対座標なので方向だけは当たりが付けられる。
なので、上空からレーザー探査で地表を確認しながら飛び、それっぽい地形が見つかったら地上に降りて金属探知機を使って探すつもりである。
「ただ、通信先が地下施設とは限らないんだよね」
通信記録に残っていた座標は全部で23箇所、地下施設ならば戦禍を逃れている可能性はあるが、地上施設ならばアウトだ。
大体の見当がつくかと思い、この国の地図を見てみたのだが、尺度も精度も適当で全く役に立たなかった。
(この世界って、あんまり測量技術が発展してないんだよね……何でなのかな……)
これを機会にこの国の範囲で精密な地図を作っておこうとシズクは心に決める。
「そっちにある魔石は遺跡から回収してきた物かや?」
「そうだよ~、台座に填まってた内の一つ……魔力が空っぽになってたから昨日補充して実験してみたんだ」
直径50cm程の円盤に魔石が3つ填まっている物だ。
一つ一つがユニットになっていて簡単に台座から取り外すことができた。
おそらく、二千年前にはユニットごとに入れ替えていたのだろう。
「ま、魔力を補充って……簡単に言うのぉ、主よ」
「しかも、3つ全部ですの?」
「あははは……精霊のボク等でもその大きさの魔石に魔力を込めるのに半日は掛かると思う、カナ?」
異口同音に呆れ顔をする三人娘。
(……36個全部に魔力を補充してあるって言わない方が良いかな……)
しかも、充填するのに15分も掛かっていない。
単純計算で1個当たりの所要時間は25秒ということになる。
「のぉ……主は本当に人族なのかや?」
「ふふふっ、上位精霊のボク等を隷属させる程だからね……もはや精霊王クラス、カナ?」
「これまでも不思議に思っていたのですが、主様はどうやってそれほどの魔力を得たのです?」
「……念のため言っておくけど……アタシは列記とした人族だからね……そこんとこ、間違えないでね……」
原因に心当たりがないわけではない。
というのも、2才の頃から魔法の修行に明け暮れた覚えがあるからだ。
魔法のない世界からこのファンタジーの世界に転生したのだ、魔法に対する憧れは半端ない。
多少暴走気味だった自覚はあるが、修行に傾倒するのは当然の成り行きだと言える。
それとも、魔力圧縮が原因だろうか……。
様々な実験を重ね、ある時シズクは魔力を圧縮する術を発見した。
以来、圧縮に圧縮を重ね、今ではどの程度の圧縮率になっているのか見当もつかない域に達している。
「ま、魔力を圧縮……じゃと?」
「アハハハハハッ……可笑しくてお腹が痛い、カナ?」
「それはどういう理屈ですの……?」
シズクは作業台の端に置いてあった朝食用のパンを手に取る。
「理屈って程のもんじゃないけど……例えば、パンをこうギュッと半分の大きさに潰せば、同じお皿にもう1個載るでしょ?」
僅かだか魔力に質量があることは実験で分かっている。
質量があるならば物理的に圧縮することも可能なのだ。
「そ、それを魔力でやったと?冗談を言っておるのではないのじゃな?」
「うっ……そ、そんなことできるんですの?」
「アハハハハハッ♪」
3人は納得いかないみたいだが、事実圧縮できているのだからシズクの理論は間違ってはいない……と思う。
「因みに、マスターの魔力量はどれくらいなの、カナ?」
アヤメの言葉にサクラとツバキがそうだそうだとばかりに頷いて言う。
「主様の魔導具ならそれが分かるのでしょ?」
「あぁ、文字が浮かぶあの透明な仮面のことじゃな?」
二人が言う通り、バイザーを使えば対象の魔力を観測できる。
「結論から言うと、アタシの魔力保有量は観測できないんだよ」
この世界には空気のように魔力が溢れており、生物に限らず無機物も魔力を内に保有している。
魔力は質量があり、保有量に比例して外に出ようとする圧力が高くなる。
シズクの魔導具はその圧力によって外に押し出される魔力を観測して保有量を逆算しているに過ぎない。
つまり、実測値ではなく推測値なのだ。
「だから魔力操作に長けている人だと全く当てにならないんだよね」
極々たまに魔力操作に長けた魔獣がいるので観測値に全幅の信頼はおけない。
その良い例がスライムだ。
身体の殆どを魔力体で構成されているというのに、観測では最弱と言われるゴブリンと同等の数値を示すのだ。
「まあ、それは精霊である三人にも言える事だけどね」
因みに、計測した三人の魔力値もスライムと同じくらいである。
「……す、スライムと一緒にして欲しくないのじゃ」
「それはさすがにウチも遠慮しますの……ゲロゲロですの」
「クフフッ♪ボク達がスライムと同じかぁ……愉快愉快、カナ?」
例え話でも同列に扱われるのは不服らしい。
殊に、ツバキの嫌そうな顔が印象的である。
何か嫌な思い出でもあるのだろうか……。
「話が横道に反れたけど……バイザーで観測したアタシの魔力は……そのぉ……ゼロ……なんだよね」
「は?さすがにそれはあり得んじゃろ……」
「その通りですの……ウチは確かに主様の魔力を感じてますの」
「それもとんでもない圧をビンビンと、カナ?」
三人が言いたい事は分かる。
何となくだが、シズクとて相手の魔力は感じ取れるからだ。
要はそれを観測できる魔導具を作れなかったという事なのだ。
「それなら良い案がありますの、その魔石を使えば良いのですよ」
「ん?どういう事じゃ?」
「あ~、そういう事~♪魔力を込められる魔石の数でボク等と比較すれば良いの、カナ?」
「そういう事なのです、フンスッ!」
確かに良い手段だ、本来ならば……。
(そんなに魔石は揃えられないし……多分、1日や2日じゃ終わらない気がするんだよね~)
「え~と……今度機会があったら……ね?」
心の平穏の為にその機会が訪れない事を願うばかりだ。
今後、この話題は控えることにしようとシズクは心に誓った。
昼食を終えてから、いよいよ遺跡探索開始だ。
ドライアの三人を伴い、先日の遺跡を起点に北へ進路をとる。
(座標の数値が1kmなのか10kmなのか……それすら分からないのは痛いよね)
それだけでも10倍の誤差が生じてしまう。
距離の単位が全く違う可能性もある。
「地道に探すしかないか~」
しかし、ひとつでも見つけることができれば23箇所全ての位置が判明する。
最初に選んだ一番近い座標が地下施設であることを願うばかりだ。
野を越え川を越え、シズク達は空を一直線に突き進む。
微速飛行なので気分は遊覧飛行である。
「ねぇ、今さらなんだけど……三人はこれまで空を飛んだことなかったんだよね?その割には何の違和感もなく飛行してる気がするんだけど……」
バイザーに映る景色を眺めつつ、シズクはふと思い付いたことを口にした。
「う~ん、言われてみれば不思議な事じゃな……何故、妾は飛べておるんじゃ、ツバキ……?」
「ウチに聞かないで欲しいのですよ……飛ぶ術を知っているから飛べるとしか言えないのです」
「そだね~♪多分だけど……飛行に関するマスターの知識がそのままボク達に受け継がれている気がする、カナ?」
それはつまり、本人達も認識しないレベルでシズクの知識が本能に刷り込まれてるという意味なのだろうか……。
「それって……ちょっと怖くない?」
捉えようによっては呪いとも受け取れる。
「主よ……さすがに呪いは心外なのじゃ」
「サクラの言う通りなのです、呪いなどではなく主様から賜った恩恵なのですよ!」
「ボク達にしてみれば福音なのだから、そこは否定して欲しくない、カナ?」
コミュ障で人との距離を上手く計れないシズクはこういう場面でどうしても逃げてしまいたくなるのだ。
他人に悪く思われたくない。
他人に嫌われたくない。
根底にそんな気持ちがあるからこそ、一歩引いてしまうのだろう。
そんなことを考えながら飛んでいると……。
「お~い、主よ!それっぽい渓谷があるぞ?」
「入り組んだ地形は、如何にもって感じ、カナ?」
「どうしますの、主様?」
「レーザースキャンじゃ、横穴があっても分からないし……取り敢えず渓谷の手前に降りてみようか」
ここまで直線距離で凡そ150kmといったところだろうか。
これ以上離れるとなると、一番遠い座標は最低でも6000km以上という計算になる。
6000kmと言えば日本からハワイくらいの距離となる。
いくら古代に飛空艇があったとしても、人工衛星を打ち上げられるだけの技術があったとは思えない。
古代の魔法通信技術がどれほどのレベルにあったのか分からないが惑星は丸いのだ、衛星の存在なくして1000kmを越える通信距離はさすがに無理がある。
一行は一旦、見晴らしの良い草原に降り立った。
「でも……これはさすがに骨が折れそうかな……」
目の前には切り立った崖が門のようにそびえ、そこから入り組んだ渓谷が続いている。
ここからでも、削られた岸壁や崩れた岩塊が見て取れる。
おそらく、谷間は複雑で障害物だらけだろう。
「こんなことなら、ついでに音波探索の魔導具も作っとくんだったよ~」
「どうするのじゃ、主……あの渓谷を捜索するのかや?」
シズクの中では、既にこの渓谷は外れっぽいのだが、万一ということもある。
「空からだと見落としがありそうだし……出直すことにするよ」
音波探索の魔導具なら今後も使う可能性が高いし、今日はこれで引き上げるとしよう。
シズクは三人を伴い、再び空の住人となった。
週一でのんびり更新して行くつもりですが、空いてしまったらご免なさい。m(_ _)m
気長に付き合っていただけると嬉しいです。
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