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魔法少女?いえ、魔法好きの喪女です……  作者: 山海千歳


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21 再会

月始め、ハンターギルドを訪れると、以前応対してくれたレンジがシズクを待ち構えていて、有無を言わさずギルマスの執務室まで連行された。

魔法薬を渡して「はい、終わり」と思っていたシズクとしては少々不安である。


「よう!来たな嬢ちゃん、先ずは礼を言わせてくれ!ウチへ魔法薬を卸してくれてありがとうな、いくら言っても聞かずに無茶をするバカも居るから本当に助かってるさね」


開口一番、相変わらずの威勢でシズクを出迎えたのは女海賊……いや、女ギルマス――隻眼のマリアである。


強引にソファに座らされ、マリアが上座にドカリと腰を据えると、秘書役のレンジがシズクの対面に腰を落ち着けた。


「……そ、それで……アタシに何か御用で……?」

「だははっ、そんなに警戒しないでおくれよ、何も取って食おうって訳じゃないさね」


おずおずと尋ねると、マリアが身を乗り出して豪快に笑ってシズクの肩をバシバシと叩く。


「実は折り入って頼みがあるんさね……魔法薬に加えて生薬も卸しちゃくれないかい?」

「……生薬……ですか?」

「無茶なことを言ってんのは百も承知だが……街の連中が困っててさ、何とか頼まれちゃくれないかい?材料となる薬草類は全部こっちで用意する」


魔法薬と生薬の違いは触媒を使うかどうかである。

一般的に生薬は魔法薬のような即効性はなく、効能もかなり落ちるというのが常識だ。

だが、高価な触媒を使わない分、安価で精製できるので危険と隣り合わせのハンターならともかく、一般人には生薬の方が普及している。


「……それはさすがに……他の薬師が困るんじゃ……」


街の住人全ての薬を作ってくれと言われてもそれほど負担はない。

ただ他人の生業の邪魔はしたくはないし、恨まれるのは真っ平御免である。

それにシズクにしてみれば、必要最低限の現金収入が欲しいだけであって、それを生活の糧とするつもりは更々ないのだ。

そもそも、街の未来を考えるならば、一個人に頼りきりになるのはリスクが大きいと言える。


「それなんだが……実は薬師ギルドがウチに、薬草類の買取金額を大幅に下げるって言って来たんさね……」

「……どうして……薬師ギルドはそんな事を?……値下げの理由は?」

「アチラさんは相場がどうとか適当な事を吹かしてるけど、要はウチが魔法薬の定期購入の契約を破棄したことが気に入らないのさ……まぁ、嫌がらせさね」


マリア曰く、これまで薬師ギルドは理不尽な取引を強要してきたらしい。

魔法薬は一般的な相場の二割増し、生薬については他の街の1.5倍の値段だと言うのだからかなり悪どい価格設定である。

それが今回、シズクが魔法薬の卸しを引き受けたことで反感を買い、薬師ギルドはその報復として買取額の大幅値下げを突きつけてきたのだそうだ。

マリアは「そんな安値で売れるわけないだろ」と取引を突っぱねたとの事……。


「でも……薬草を買い取れなくなって困るのは……薬師ギルドの方じゃ……?」

「薬草の採集を生業としてるのは低級や新人のハンターさね、数もそれなりに多い……それに薬草は足が早いからね……締め上げてやりゃ、ウチが先に根を上げて泣き付いて来るとでも思ってんだろうね」


薬草の取引が滞るのは双方共に痛手だろう。

いや、それを主力とする薬師ギルドの方が大きい気がする。


「だがね……一番被害を被るのは何の関係もないリクームの住人さね」


だから今回の生薬精製依頼となるようだ。


「もちろん、街全部の需要を賄えって言うつもりはないさね、そこん所は話の分かる薬師と内々に相談している……嬢ちゃんには囮役になってもらいたいのさ」


聞けば、薬師業界も一枚岩ではないらしい。

薬師ギルドのやり方に反発する者も多いようで、マリアが声を掛けたら二つ返事で応じてくれたとの事……。


「腐ってんのは大店の薬剤店とギルドだけさね……当たり前の話だが薬師だって街の住人だ、個人経営の薬師は味方するなら銭ゲバ連中よりも街の側ってわけさ」


大店を除いた多くの薬師がマリアの味方をしてくれるようだ。

ただ、表だって薬師ギルドに刃向かう訳にいかないようで陰ながらの協力となる。

その為、シズクに囮役を務めて欲しいようだ。


「……薬師ギルドって信用がないんですね……何でそんなことになってるんですか……?」

「元凶はギルマスのトーマス・キンドルですね、あのクソ野郎が銭ゲバ脂ハゲどもを抱き込んで好き放題にしてるんですよ……おっと、汚い言葉で失礼……」


それまで置物になっていたレンジがそう言って詳しい事情を説明してくれた。

何でも、薬師ギルドのマスターには薬の価格を決める権限が認められているらしい。

元々高価な魔法薬で8割~1.2割、生薬については8割~1.5割の範囲なら本部に相談なく決められるのだとか……。

しかし、それも薬草の相場やら物価を考慮して決めねばならない。

だと言うのにトーマスという男は権限を悪用して価格を最大値に設定しているらしい。

因みに、薬草類の買取額は相場より幾分安いとの事……。


「マスターだって雇われ職員ですよね……そんな事をして何の得が……」


薬師やギルドは儲かるかもしれないが、ギルマスとてもサラリーマン、お給金は変わらない。


「出世するための功績のためさね……」

「大店薬師から心付けを受け取ってるって噂も聞きますね」

「うわぁ~……最低だ、その人……」


前世でもアレだけ賄賂に汚職に天下りと、公的機関と業者の癒着が酷かったのだから、文化や思想で未だ遅れるこの世界ならば尚の事だろう。


「ただ、ここんとこ……裏家業の連中がシズクちゃ……さんの事をしきりに嗅ぎ回っていてね……今も近くにウチを監視してるのが二人ほどいるんだよ」

「アタシを……?」

「けっ!犯人はトーマスの下衆野郎さね……大方、ウチが仕入れた魔法薬の出所を探ってんのさ」


心底嫌そうな顔をして吐き捨てる様に言うマリア。

それをフォローしてレンジが続ける。


「そこでシズク……さんに護衛を付けようかと思ってね」

「囮役を務めて貰うからには責任をもって守るつもりさね……もちろん、護衛料はウチ持ちだから安心おしよ……レンジ、あの子達を連れておいで!」

「へい、あね……ま、マスター!」


ひと睨みされたレンジが慌てて飛び出していき、直ぐに護衛依頼を受けたハンターを連れて戻って来た。


「よう、嬢ちゃん……久しぶりって訳じゃないが、元気にしてたかい?」

「うわぁ、本当にシズシズがいたっス!ルーナの言う通りだったっスよ」

「……うん……予想通り……」


それはシズクが良く知るハンター、『女豹の牙』の三人だった。


「皆さんどうしてここに?王都に家を買ったばかりじゃ……」


シズクが呆けた様に尋ねれば、ルーナが照れくさそうに頭を掻いた。


「なぁに、ウチのお袋に無理やり呼び出されちまってさ」

「シズクって名前の子供を護衛してくれって聞いたから……これはシズシズじゃないかって話になったんスよ」

「……だから……急いで駆け付けた……」


聞けばギルマスのマリアはルーナの母親との事……。


(そうかぁ……どうりでどっかで見た覚えがあると思ったよ~、まさかルーナさんのお母さんだったとは……)


髪の色を始めとした外見といい、本当に良く似ている、口調などまさに同じだ。

何故今まで気付かなかったのかと、疑問に思うレベルである。


「急に居なくなっちゃったから心配してたんスよ?」

「いきなり追い出されたそうじゃないか、メアリーの嬢ちゃんが心配してたよ」

「……元気そうで安心した……」


リリィにぎゅっとハグされ頭を優しく撫でられる。


「あのぉ……アタシ、リリィさんと同い年……」


悪い気はしないのだが、見た目はともかく精神的には大人を自認するシズクとしては何とも居心地が悪い。


ともあれ、あとは自分等で……となったのでルーナ達が宿泊している宿へ移動して打ち合わせを行う。


護衛とその対象という関係はさすがに露骨だろうという事で、対外的には熟練パーティーに所属する見習いという事になった。

ギルマスが態々王都から呼び寄せたハンター、というだけで引き付け役としては十分らしい。


「え?あの所長が病気で倒れたんですか?」

「メアリー嬢によれば、研究所を辞してどこぞの施設で療養中って話さね」

「派手に遊んでたって噂が流れてるっス、きっとそのせいだろうって……」

「……不摂生……自業自得……」


派手な私生活が新聞ですっぱ抜かれたらしく、大賢者に関する悪い噂で王都は持ち切りなのだとか……。

アイザックと懇意にしていた商会や貴族が捕まったなんて話も流れているらしい。


「それよりも……メアリー嬢ちゃんが探してるようだったけど……彼女に知らせなくて良いのかい?」


メアリーとの魔法談議はそれなりに楽しかったが、シズクと彼女の関係は部下と上司だ、解雇された今となってはそれすらもない。

友達と呼べるほど親しかった訳でもなく……そもそも伯爵令嬢と孤児の自分では大きな身分差がある。


(平民が関わらない方が良いよね)


それを言うと、ルーナは「それなら黙っておくよ」と頷いてくれた。


「まぁ、あの様子じゃ、腹に一物あったようだし……色々明かせない事情がある嬢ちゃんはお貴族様に近寄らない方が無難だろうね」

「……権謀術数……舟中敵国……貴族は警戒すべき……」

「しゅうちゅ……?どういう意味っスか、それ?」

「お貴族様はおっかねえから近づくなって言いたいのさ」


リリィは特に貴族に対する忌避感が強い気がする。

過去に何かしら苦い経験があるのかもしれない。


「それはそうと……シズシズはどこに住んでるんスか?リクームの街中じゃないんスよね」

「えぇと……街から少し離れた片田舎かな?」


少しと言っても直線距離で500キロはあるのだが……。


「同居人が三人も居るって言ってたね……もしかして一軒家を共同で借りてんのかい?」

「……なら挨拶する……パーティーメンバーの責務……」

「屋台で串焼きを買ってお土産にするっス」

「ミャア、そこは菓子や果物にするべきだろ」

「…………」


自宅を訪問する気満々の三人に、シズクは何と言ったものかと頭を悩ませる。


(樹海の奥地に住んでます……なんて言えないよね……同居人が精霊って言うべきなのかな……)


ただでさえこの世界の常識に疎い上、ここのところ世間的には異常といえる経験を重ねているシズクにはその判断がつかない。


しかし、ミャアはやや不安ながら、女豹の牙の三人なら口は固い。

護衛という関係上、情報共有は必須とも言える。


(まぁ、ルーナさん達には護衛して貰うんだし……報連相(ホウレンソウ)は必要よね?)


この後、シズクはルーナとリリィの二人に、常識とは何か……コッテリと絞られる事になる。


週一でのんびり更新して行くつもりですが、空いてしまったらご免なさい。m(_ _)m

気長に付き合っていただけると嬉しいです。

感想など頂けると励みになりますので、是非一言でも下されば幸いです。\(_ _)


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