20 スローライフ②
樹海に引っ越してから10日――。
他人との共同生活に些か不安を感じていたものの、人とは慣れるもの。
既に、ドライア達の姦しい遣り取りが日常の風景になりつつある。
「ん~♪やっぱり、ベリベリの実はとっても美味しいですの♪」
「あぁっ!ズルいのじゃ、ツバキ!妾も主に「あ~ん」して貰いたいのじゃ」
魔力体である精霊は本来食事を必要としない。
基本的には自然界から少しずつ魔力を摂取するのが一般的らしい。
「以前も木の実を食べたりしてたの?」
「口にしたことはあるけど、「美味しい」なんて言う感覚を持ったことはない、カナ?」
思い出すように宙に視線に漂わせながらコテリと首を傾げるアヤメ。
青紫色のオカッパ髪がサラリと頬を撫でる。
「主の魔力も心地良いが、ベリベリの実も旨くて最高なのじゃ」
「ウチは主様の魔力の方が好きなのですよ……そんなに気に入ったのなら、サクラはベリベリの実だけ食べてれば良いのです~♪」
「ず、ズルいのじゃ~!妾も主の魔力の方が良いじゃ~!」
「うん……マスターの魔力は至宝……ボク達と契約してくれたマスターに感謝感謝、カナ?」
三人の性格がだいぶ分かってきたが……。
年寄り口調のサクラは思ったことを直ぐに口にするタイプだ。
好奇心が強く、感情的な行動が目立つ。
性格が髪質にも表れているのか、ストレート髪のポニーテールだ。
口が達者なツバキはゆるふわウェーブのおっとりした娘だ。
頭の回転が早く、直情的なサクラを掌の上で軽くあしらっている感がある。
良く言えば知性派、悪く言えば謀略家といったところだ。
最後のアヤメはサバサバした感じのやや捉え処のない娘である。
サクラとツバキの言い合いをスルリと受け流し、自分が矢面に立つことはない。
かと思えば、何気ない物に興味を示して異常な執着を見せる面もある。
「確か、意識は一つだけみたいなことを言ってたよね?その割に、三人とも大分性格が違うみたいだけど……それもやっぱり契約のせいなのかな?」
「まぁ、分離独立した個の存在になっておるからの」
「今のウチはドライアであってドライアじゃないですの」
「ドライアの意思に接触はできるけど、繋がることはできない、カナ?」
聞けば、三人は本体のドライアから切り離され、独立した個別の意思を獲得したらしい。
ドライアの能力はそのまま継承しているが、別の存在になっているとの事……。
(進化とは違うよね……大丈夫なのかな……)
「まぁ、本体が契約を望んだ故の結果なのじゃ……問題ないであろ?」
「ウチ等に何が起こったのか……詳しいことは『精霊女王』に聞いてみないと分からないのですよ」
「ボクは今の姿が気に入ってるから、戻れと言われても戻りたくはない、カナ?」
特に問題ないのであれば別に良いのだが……。
「ふ~ん……精霊女王なんて言う精霊がいるんだ……」
ファンタジーの代表格とも呼べる存在にはとても好奇心が刺激される。
機会があったら是非会ってみたいものだが、人族の王にも会ったことないのに精霊の頂点に立つ存在に一般人の自分が気軽に会える訳がないだろう。
ともあれ――
「それはそうと、依り代に使うって言ってた種は用意できたの?」
「あぁ、問題ないぞ主、準備万端じゃ」
「あとは主様に可愛い植木鉢を用意して貰えば完璧ですの」
「どんな木が育つのか……楽しみ、カナ?」
「早く鉢を作ってたも、主!妾は黒くて固くて大きいのが良いのじゃ!」
「……何か卑猥な響きがしますの……」
「ボクはマスターが作ってくれるのなら、どんな物でも良い、カナ?」
「ハイハイ、分かったから順番ね、順番!」
見た目の可愛らしさも相まって子供ができた気分にさせられる。
次元収納から何種類か鉱石を取り出して置き、三人の要望を聞きながら種を植えるための鉢を錬成していく。
彼女達の依代となる植木鉢なので多めに魔力を込め、できるだけ頑丈に錬成する。
(そうだ……念のため魔法で保護しておこうかな)
心配なので落としても割れたりしないようにオートで魔法障壁が発動するように魔法式を刻み、この前の黒い靄みたいな物から護るために清浄結界も構築しておく。
「「「…………?!」」」
「どしたの?三人とも……種を植えないの?もう完成したよ?」
完成した植木鉢を凝視したまま固まっている三人にシズクが声をかける。
「……こ、コレ……この前の魔人でも壊せないんじゃね?」
「気にしたらダメですの……そこはウチ等の主様なのですよ」
「うん、さすマス!やってくれると思ってた、カナ?」
コンコンと叩いて首を傾げるサクラの肩を、訳知り顔のツバキが叩いて苦笑を溢す。
傍らに立つアヤメは何故か自慢気だ。
魔核粉入りの畑の土を鉢にこんもりと盛り、軽く叩いて均す。
そこへ三人が準備した種を植えれば完了だ。
「あとは水を撒いてから、主がたっぷり魔力を込めてくれれば良いだけじゃな」
「た、たっぷりはダメですのっ!ほんのちょこっと……ほんの少~しだけ魔力を込めてくれれば良いだけですのっ!」
「アハハハハ、ツバキ必死すぎ、カナ?」
「笑ってないで、アヤメも何か言って欲しいのですよ!」
姦しい三人娘にホッコリしながら、シズクは言われた通り軽く水を撒いて、ツバキ監修の元……少しづつ魔力を込めていく。
――ピョコン
黒々とした土の真ん中に可愛らしい芽が顔を覗かせた。
言われるままに少しづつ魔力を高めていくと、小さかった芽がぐんぐんと育ち、あっという間に小さな大木になってしまった。
小さな大木とはこれ如何に?と思うが、太めの幹に青々と繁る枝葉は前世の盆栽を想わせられるのだ。
「三人とも木の種類が違うのはやっぱり好みがあるのかな」
サクラの植木鉢はさながらブロッコリーだ。
太めの幹にわさっと緑の帽子が載っている。
かたや、ツバキの鉢はまさに盆栽といったイメージだ。
曲がり伸びた幹から、太めの枝が三本、手を広げるように伸びている。
そこへ来て、アヤメの鉢はかなり個性的だ。
「へぇ、この世界にもサボテンってあったんだ……久しぶりにみたよ」
大陸の北側に行けば乾燥した大地が広がっているそうなので、シズクが知らないだけでサボテン科の植物も普通にあるのだろう。
(フフフッ……目や鼻を付けたら走り出しそうなフォルムだよね♪)
ツバキの説明によれば、三人とも種は同じ物だったらしい。
何でも、魔力にも個性があり、その違いが木の見た目に影響しているらしい。
まぁ、そこはファンタジー満載の異世界だとシズク軽く流して深く考えないことにした。
ともあれ、これで三人の依り代が完成した。
因みに、依り代の役目は主に二つ……。
一つは彼女達が魔力体を解いて休むための、謂わば揺り篭みたいなものだ。
もう一つは周囲から糧となる魔力を集めるための役である。
聞けば、本体のドライアにも依り代となる巨木が樹海の奥地にあるらしい。
(サクラ達に場所を教えてもらって見に行ってみようかな♪挨拶くらいしておいた方が良いだろうし……)
三人娘の現状報告もある。
暇をみて足を運んでみようと、シズクは心のスケジュール帳に記入しておく。
「さぁて、それじゃぁ今日は畑の収穫をしようか、三人とも手伝ってくれるかな」
「妾に任せよ、主!」
「ハァイ、ウチはベリベリの実を収穫するんですの!」
「じゃぁ、ボクは薬草を集めることにする、カナ?」
少し騒がしくも、
穏やかなスローライフ生活にシズクはホッコリと笑みを浮かべた。
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一方、その頃の北部戦線では――
武闘派の重鎮、ロイエンタール辺境伯が上がってくる報告書を眺め眉をしかめていた。
「まともな補給物資なくしてどうやって戦えと言うのだ、軍部は何を考えておる、我等をコケにしておるのかっ!」
ドンとデスクを叩きつける司令官の様子に、執務室の文官達が顔を青ざめさせる。
ロイエンタールの怒りの原因は中央から送られてきた軍事物資にある。
先ず一つは、納品された四式スパイダーの数が大分少なかったことだ。
しかも、残りの分については納期未定だと言う始末である。
スパイダーの発注に関しては、関係各所で事前に協議した上、兵団毎に割り当て数を決めたので、こちらに落ち度はない。
計画通りに生産できない軍工房のミスだ。
もう一つは消耗品の魔力カートリッジだ。
先月末、演習の際に魔力カートリッジに不具合が発生し、魔銃が暴発する事故が起こった。
ロイエンタールが全ての検査を命じたところ、規格を下回る性能のカートリッジが相当数見つかったのだ。
見つかった不良品は先月分の物資で凡そ二割、今月分に至っては全てである。
直ぐさま苦情を申し立てたところ「鋭意調査中」という曖昧模糊な返答が送られて来た。
「全くバカにしおって……軍部は何をしておるのかっ!」
「私が調べたところによりますれば……何かしらの問題が発生して研究所がゴタゴタしてるとの事です、その煽りを受け軍工房では生産が滞ってしまっているとの話です」
聞けば、研究所が工房に納めていた魔法薬や錬金触媒の品質が低下した事に加え、生産量もガタ落ちしてしまったのが要因らしい。
その結果、スパイダーの生産がストップし、品質の悪い魔力カートリッジが出回ったようだ。
「大賢者が病に倒れ、療養中との知らせを受けたが……たった一人の天才が不在になっただけでこの有り様とは……賢者殿の弟子が居るのではないのか?」
「研究所については……現在厳しく出入りが監視されており、詳しい情報が得られない状況です」
その言葉に、赤髪の偉丈夫がピクリと眉を揺らす。
(……まさか、何か重大な問題でも発生したのか?)
大賢者の病が関係しているのは間違いないだろう。
もしかしたら、病ではなく事故か何かかもしれない。
(いずれにせよ……早々に研究所の問題が解決せねば戦線の維持にも支障がでてくる)
予定していた演習を全て中止して物資の節約に努めてはいるが、大規模な侵攻が発生すれば半年も持たないだろう……対策は急務だ。
(手持ちの遺物だけでは戦力としては心許ない……できれば噂の妖精姫を我が陣営に引き入れたいものだが……)
「副官……例の調査について、モンド卿からは何と言って来た?」
呼ばれた青年士官がやや声を潜めて応える。
「……王都近郊にて両陣営の間者がしきりに活動してる、とだけ……」
両陣営――穏健派と三公派の手の者が件の妖精姫について嗅ぎ回っているということは……。
つまり、妖精姫はどちらの陣営にも所属していない証左でもある。
「王都へ派遣していたモンド男爵を大至急呼び戻せ」
両陣営が直接関わっていないのであれば遠慮はいらない。
多少強引な手段に出ようとも急いで行動せねばならないだろう。
(どうせ、動き回ってるのはランドールの白髪オヤジと西の狸ジジイだろう……だがな……毎度毎度、貴様等の思い通りになると思うなよ……)
ここからは早い者勝ち勝負だ。
こちらに遺物継承者が一つだけだと侮ったことを後悔させてやる。
赤髪の偉丈夫は老骨二人の悔しげな表情を思い浮かべ、不適な笑みを浮かべた。
その決断がロイエンタール家を没落へと導くことになろうとは思いもしない……。
週一でのんびり更新して行くつもりですが、空いてしまったらご免なさい。m(_ _)m
気長に付き合っていただけると嬉しいです。
感想など頂けると励みになりますので、是非一言でも下されば幸いです。\(_ _)




