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魔法少女?いえ、魔法好きの喪女です……  作者: 山海千歳


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19 薬師ギルド

薬師ギルドのマスター、トーマス・キンドルは嘗てない事態に頭を悩ませていた。


「ここまで売上が下がるとは……一体何が原因なのだ?」


トーマスがここリクームのギルドに赴任して来たのは3年前の春のことだ。

自分が着任してからリクームの収益は右肩上がり――着々と売上を伸ばし、今では領都のギルドに迫る勢いだ。

さすがに人口の多い王都や大都市には敵わないが、地方のギルドの中ではトップに立っている。


「このままではマズいぞ……ここまで築き上げてきた私の実績に瑕疵がつけば、王都行きの話がなくなってしまうではないか」


王立魔導学園を次席で卒業したトーマスは、専攻していた魔法錬金術を生かして王都の薬師ギルドに就職した。

ギルドに就職した後は、得意としていた魔法薬の分野で功績を示し、同期を含め若手の職員の中でも一二を争う活躍を示し、何れはグランドマスターの座に就くのでは、と将来を嘱望されるエリートだった……。

だと言うのに、些細なミスから出世街道から外され、地方のギルドに左遷されてしまった。


「私はこんな片田舎のマスターで終わるような器ではない!必ずやグランドマスターになってみせる!」


そして、自分をこんな閑職に追いやった者達に思い知らせてやらねばならないのだ。



--------


それから3日後――おおよその事態を把握したトーマスは関係者を集めて会議を開いていた。

集まったのはリクームに店を持つ薬師の面々だ。


「皆、よく集まってくれた……先だって少々問題が発生してしまってな……情報の共有と今後の対策について皆の意見が聞きたい」


そう言って、トーマスは円卓を囲む21人の薬師をぐるりと見渡した。

明確な決まりがあるわけではないが、暗黙の了解としてギルマスに近い席ほど上座となり、上座には大店の薬師が座っている。

ギルマスの背後に控えるのは補佐兼記録係の女性職員だ。


「聞き及んでいる者もいるかもしれないが、先頃ハンターギルドが契約の破棄を申し出てきた……」

「……それは新たな条件を求めた駆け引きの一貫……ということですかな?」


挙手して発言したのは右側の上座席……リクームで一番大きな薬剤店の店主……クルト・ブラウンである。


「事の起こりは先月……ハンターギルドが魔法薬の購入を断ってきた時に端を発する……私も最初は契約内容に不服があっての事だろうと思っていたのだが……今月に入って正式に契約の破棄を求めてきた……以降、向こうからは何の接触もない」


ギルドの収入源は主に3つ――ギルド会員からの上納金、薬草の卸販売、そして魔法薬の大口契約である。

その中でもハンターギルドが占める割合は大きく、領軍に次いで2番目だ。

収益からすると、凡そ3割といったところだろう。


「ハンターにとって魔法薬はなくてはならない物なのでは?薬師ギルドを敵に回して何の得があると言うのです」


殊に治療薬は怪我の多いハンターにしてみれば必須のアイテムだ、使用頻度も高いだろう。

個別に薬剤店に足を運ぶハンターもいるが、通常はハンターギルドが大量購入した物を相場より少し安い価格で購入するのが一般的だ。

つまり、ハンターギルドが薬師ギルドからの大量購入をしなくなれば、そのツケはハンター個々に向かうことになる。

そうなれば、ハンターギルドは会員から大きな反発を食らうことになるだろう。


「しかし……そうなると少々おかしいですな……ウチの店ではハンターの客足が減って来ております……一過性のものと思っておりましたが……ブラウン薬剤店さんの所はどうなので?」

「うむ、ウチも似たようなものですよ……その上、ギルドからの割当てがなくなるとなれば……大幅な減収は避け得ませぬな……」


そこへ、トーマスが眼を細めて言う。


「まさかとは思うが……こちらの許可なくハンターギルドに魔法薬を納めている方はいないでしょうね」


圧のこもった眼差しに射竦められ、薬師達は肩を震わせる。


「め、滅相もない!あり得ませぬぞ!」

「そうですとも、我々が薬師ギルドに歯向かって生きて行けるとでも?」

「そんな不届き者が居れば、真っ先にキンドル様にご報告いたしますよ」


上座側の薬師達が口々に身の潔白を申し立てる。

下座側の薬師は無言で首を振るだけだが、そもそも精製できる量が少ないので疑われてもいないと言った方が正しいだろう。


「私が調べたところによると……あの女オーガ、何処よりかは分からんが魔法薬を入手する術を得たようだ」

「まさか、他の街で買い付けて運び込んでいるのでは?」

「そんな馬鹿な……どれだけ輸送費が掛かると思う?そんな無駄金を使うくらいならば、多少高くともここで購入した方が余程利口であろう」

「ならば、何処かで薬師を雇って連れて来たのでは?」

「それは現実的ではあるまい……一人二人雇ったところで、アレだけの魔法薬を精製できまい……器材の問題もある」


薬師達の遣り取りに、黙して耳を傾けていたギルマスがコツコツとテーブルを叩いた。

その途端、喧々諤々の室内が静まり返る。


「私見になるが……あの女はおそらく他の街で薬師を雇ったのだろう」


経費度外視の愚かな所業ではある。

だが、これはあの女なりの抗議なのだろう。

こちらもそれなりの痛手を被るが、ハンターギルドが受ける損失に比べれば大したことはない。


「私は報復として薬草類の買取金額を3割減じようと考えている」

「……た、対抗措置を取るのは当然でありましょうが……大丈夫なのですか?……薬草が手に入らねば我々は……」


ギルマスの提言に渋い顔をする薬師の面々。

言葉にはしないが「さすがにそれはやり過ぎでは?」と目が語っている。

素材の調達をハンターギルドに頼っているだけに、完全に敵対してしまったら共倒れになってしまうからだ。


「なぁに、心配は要らない……あの女オーガとて考える頭くらいはある、少し締め上げてやれば、その内アチラから許しを請うて来るだろうよ」


おそらく、資金的に3ヶ月くらいが限界だろう。

薬草の買取を渋ればもっと早く根を上げるかもしれない。


(愚かな女だ……こちらに譲歩を迫るべく強気な態度に出ているのであろうが……私を怒らせた事を後悔させてやるとしよう)


ギルマスの提案に不服はあれど反論する者はいない。

大店ならばともかく、個人経営の小店主にしてみれば、発言権などないに等しい。

満場一致でギルマスの案が可決される。


だが、一人だけ――冷や汗を流しながら議事を見守る者がいた。

ギルマスの背後に控えていた女性職員だ。


(まさかとは思うけど……先月ギルドに来たあの子供が関わってるなんて事……ないわよね……?)


彼女はシズクの応対をした受付嬢のサミアである。

あの時、子供の悪戯だと思って追い出したのだが……。


(……あの子、確か……自作の魔法薬を買い取ってくれって言っていたわ……確かめずに追い出したのは……不味かったかしら……)


薬師の資格があると言っていたが、見るからに未成年だったので偽物と決め付け確めもしなかった。

面倒臭がらず鑑定くらいやっとけば良かったと今更ながらに後悔する。


(もし……あの後、あの子がハンターギルドに行ったのだとしたら……)


あり得ないと思いつつも、時期がピタリと符合するので不安を拭いきれない。


もし、あの子供が名のある薬師だったら?

もし、ハンターギルドが求めるだけの魔法薬を精製できるのだとしたら?


優秀な薬師をみすみす逃したとして、サミアは責任を問われることになるだろう。

解雇はなくとも、おそらく降格と減給は免れない。


(ないない……あんな子供が凄腕の薬師とか……ある訳ないわ)


馬鹿な事を考えるのは止めようと頭を振るサミア。


せめて、この時点で保身を考えずに己の過ちを報告していれば……。

彼女は後に、この判断を酷く後悔することになる。



--------


その時、当の本人はというと――


変わり果てた拠点を眺め、乾いた笑みを浮かべていた。


「アハハハ……ハァ……昨日までのアタシの苦労って……何だったんだろ」


目の前には広大な畑が広がり、希少な薬草と色とりどりの野菜がところ狭しと繁茂している。


(いや、ありがたいよ?ありがたいけどさ……これを畑と呼んで良いのかな……)


トマトのような赤い実をつけた野菜の隣に毒消しに使う薬草が葉を繁らせている。

右手を見れば、赤や黄色のパプリカの間に触媒に使う希少植物が青々としている。


その渾然一体となった光景はまさにカオスだ。

ドライアにとって、野菜も薬草も区別はないのだろう。

収穫の事を考えると頭が痛い。


(しかも……10分足らずでこんな畑ができちゃうなんて……反則じゃないかな……なんか、納得いかないわ~)


小さな野菜畑を耕すだけでも丸1日……泥と土にまみれながら魔法を駆使して作り上げたというのに……。


「主が所望した畑とはこんなもので良いかのぉ?なかなかの出来映えであろ?妾をを褒めてたも!」

「あぁぁ~っ!抜け駆けなんてズルいですの、サクラ……ウチだって頑張りましたの!ツバキも主に褒めて貰いたいですの!」

「二人とも喧嘩は良くない、カナ?主が困ってる、ヨ?」


やいのやいの、姦しい三人娘。

仄かに燐光を放つ羽をパタパタさせながら飛び交う様はとてもファンタジーな光景なのだが……。


「ねぇ……貴女達……そんな喋り方してなかったよね?……姿もすっかり変わっちゃってるし……だ、大丈夫なの?」


可愛らしい三人の妖精――その正体は昨日知り合ったばかりのドライアである。


御近所の誼で魔人討伐に手を貸し、何とかこれを倒すことができたまでは良かった。

手助けしてくれたお礼に召喚契約を結んでくれるという申し出も大変にありがたかった。


(まさか……主従の契約になるなんて……何がどうして、こうなった?……悪くないよね、アタシ……)


「妾達の姿が変わったのは主の魂に引っ張られたからじゃと思う」


桃色の髪をした妖精がシズクの肩に止まって言う。


「魂に引っ張られた?」

「本来、精霊契約とは……ある程度等価である必要がありますの」


人と精霊の間で交わされる精霊契約には3つの段階がある。

最も一般的なのは『召喚契約』――言ってみれば、これは商取引のようなものであり、魔力を対価に精霊が術者の望みを叶えるというものである。

ただ、この契約を結ぶには精霊の格に見合うだけの魔力がなければならないとのこと……さもなくば命の危険があるらしい。

過去、願いを叶えて貰う代わりに命を落とした術者がかなりいたとの話だ。


「まぁ、ここ500年くらい……人の子と契約を交わした精霊の話は聞かない、カナ?」

「次に多いのが主従契約じゃな……中位の精霊が結ぶ契約は大抵これじゃの……因みに、妾達精霊が『(しゅ)』で人の子が『(じゅう)』じゃ……まぁ、人の子は己が主じゃと勘違いしておる者が多いがの……」


そして、最後の一つが隷属契約である。

これは上位の精霊と人族と間で交わされる契約とのこと――当然ながら、魔力的に人族が隷属される側になるのだが、精霊は人を従えたりはしない。

上位の精霊が借りのある人族に恩を返すためにとる、謂わば救済的な措置らしい。

因みに、召喚契約とは異なり、主従契約と隷属契約については、対価となる魔力は精霊の心次第とのことだ。


「精霊契約にそんな裏事情があったなんて……『へぇ~』だよ」


そう言ってボタンを押す仕草をするシズク。


「契約については分かったけど……三人姿が変わったことと何の関係があるの?」


契約の際、名付けが必要だと言われたのでシズクが良く知る花の名に因んで『サクラ』、『ツバキ』、『アヤメ』と付けた。

その影響なのか、三人の髪の色も各々花と同じ色に変じてしまった。


「それは文字通り、主が妾達(・・)を隷属させたからじゃの」

「主の魔力は異常ですの……」

「うん……まさかボク達が逆に従わされるとは思っても見なかった、カナ?」

「こんな事態、前代未聞じゃろうな」


身体が魔力で構築されているが故に、精霊は自分より魔力が強い者には逆らえないらしい。


(……つまり……アタシの方が魔力が多かったから三人の姿が変わっちゃったってこと?しかも、主従じゃなくて隷属?)


「まぁ、歓心を買うため……主の記憶からこの姿を無意識に選んだのじゃろうな……性格も然りじゃ」

「謂わば精霊の防衛本能ですの」

「ボクはこの姿、けっこう気に入ってる、ヨ?」


ヘビーなネタをぶっ込んでくれるなと、シズクは頭を抱える。


「畑を作って貰ったし……契約を解除するよ?上位の精霊がアタシに……人の子に隷属するなんて嫌でしょ?」


正直、面倒事に巻き込まれる予感しかしない。


「せっかく、良き名を与えられたと言うのに……もう解約せよなどと……断固拒否するのじゃ」

「その通りですの、せっかくオモシロ……優しそうな主と出会えたの……」

「さっきも言ったけど……ボクはこの姿が気に入ってるし、主に従うのは嫌じゃない、ヨ?」


聞けば解約する術はあるらしいが……。


(術者が死ねば契約解消とか……アタシに選択肢ないじゃん)


とんだ押し売りがあったもんだと嘆くシズク。

約一名、腹黒そうな娘がいるようだが……その由来が自分にないことを祈るばかりでだった。


週一でのんびり更新して行くつもりですが、空いてしまったらご免なさい。m(_ _)m

気長に付き合っていただけると嬉しいです。

感想など頂けると励みになりますので、是非一言でも下されば幸いです。\(_ _)


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