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魔法少女?いえ、魔法好きの喪女です……  作者: 山海千歳


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15 リストラ

週末、シズクは住まいである小屋の前で独り黄昏れていた。

木立の間から射し込む朝の陽射しが辺りを優しく包み込んで行く。

枝葉の合間を小鳥が飛び交い、朝の清浄な空気が朝靄とともに風に揺蕩う。

穏やかな朝の風景と呼ぶべきところなのだが……。

シズクの心中は曇天の様に暗く沈んでいた。


「どうしよぅ~……いきなりリストラとか、さすがに酷いんじゃないかな……生活基盤もないのに出てけって……どうしろって言うのよ」


この日、何度目かの溜め息とともに、シズクはガックリと肩を落とした。

――事の起こりは30分前に遡る。


--------


「おい、眼鏡……お前を今日限りで解雇する」


朝一番で呼び出しを受けたシズクを待っていたのは、所長のその一声だった。


「はっ?か、解雇?え、えぇっ?」

「分かったのなら、さっさと出ていけ!ワシは忙しい、お前のような貧民に構っている暇などないのだ」

「い、いきなり解雇だなんて……困ります……り、理由は……何なんですか?」

「理由?そんなもの決まっておるではないか、何の功績もないからだ……良く聞けよ、ここはエリートが集まる国の機関の中でも最上位の部署だ、結果を出さぬ者が居て良い場所ではないのだよ」


所長の言う通り、月一で納めている魔法薬を除けばシズクは研究所に何ら貢献はしていない。

対金眼兵装は設計したが、大した手間は掛けていないし、それも一年に一度程度の頻度だ。

日々の生活の大半は私的な研究に占められている。


(なら、今まで開発してきた魔導具を提出すれば?功績として認められるんじゃ……)


ふと、そんな考えが思い浮かぶが……。


「フン……そもそも、お前のような下等な貧民がここにいるのが我慢ならんのだよ、魔法とは神がワシの様な選ばれた人間に与えたもうた祝福なのだ、汚らわしい平民が足を踏み込んで良い領分ではないのだ!」


その台詞にシズクは続く言葉を飲み込んだ……ああ、これは何を言ってもダメなのだと……。


(前世でも残っていたんだから……この世界なら尚更か……)


文化や思想が発達した前世でも選民思想や身分差別は存在していたのだ、王族や貴族を基盤とする封建社会が当たり前のこの世界では身分による格差や差別は日常レベルで浸透している。


「ワシが渡した身分証は置いていけよ、それとお前が住んでいた小屋は近日中に取り壊す予定だからな、小屋にあるゴミは全て片付けておくようにな」


--------


「いきなり職を失ってニートとか……どうしたもんかな~」


ニートとは長期間働かずに家に籠りきりになる行為なので、シズクの現状を示す言葉としては相応しくない。

どちらかと言えば、私的な研究に没頭して小屋に籠りきりになっていた普段の生活こそニートと呼ぶに相応しいのだが、そんな都合の悪い現実はシズクの頭にない。


「身分証を取り上げられちゃったから……二等市民のアタシじゃ家を借りられないよね……」


二等市民には土地や家屋を購入する資格はない。

保証人が居れば賃貸契約は可能だが、伝のないシズクには無理な話である。


「かといって……田舎に住むのは避けたいなぁ」


決して田舎暮らしが嫌な訳ではない。

どちらかと言えば煩い都会よりも静かな田舎の方がシズクには合っている。

しかも、田舎ならば資金さえあれば家屋の購入に身分は関係ない。

ただ、田舎は横の繋がりが強く、余所者にあまり良い顔をしない。

社交的な者なら時が解決してくれるだろうが、コミュ障のシズクにはどだい無理な話である。


「あっ、そうだ!いっそのこと樹海に住んじゃえば良くない?」


樹海ならば誰に咎められる訳でもない。

地図上では王国の版図だが、実情は未開地である。

リストラされたのだからこれまでのように研究所に気を遣う必要もない。

なんと言っても樹海に住めば薬草や鉱石を始めとした素材は採取し放題である。

問題は食料や日用品だが……。


「それは近くの街に買い出しに行けば良いだろうし……後は住む場所よね」


この小屋を移築できれば手っ取り早い。

ものは試しと、シズクは壁に手を当てて次元収納を起動してみる。

次の瞬間、視界から壁が消え、巻き起こった突風にたたらを踏んだ。


「うわっ?!ととと……何、今の風は?!」


土台さら小屋が消失した地面を見てシズクはふと理由に思い当たる。

これだけの体積を持った物質が空間さら消失すれば周囲の空気が流れ込んで突風が起こるのは自明の理だ。

気が付かなかったが、今までも大なり小なりその現象が起こっていたのかもしれない。


「となると、逆の事をすれば体積によっては爆発が起こりかねないよね……あ、危なかった……」


思い付きで試した次元収納だが、まさかこれだけ大きな物まで収納できるとは思わなかった。

ともあれ、住居の問題はこれで目処は着いたが、小屋を出す前に次元収納の調整が必要だろう。


「小屋は取り壊すって言ってたし……中の物は全部片付けておけって言ってたし……うん、無問題(モウマンタイ)無問題(モウマンタイ)♪」


土台さら消失した小屋の有り様を見れば騒ぎになること間違いなしなのだが、シズクにその考えはない。


「さぁてと……徒歩は論外として、魔導車(ビーグル)を借りる訳に行かないし……やっぱり飛んで行くしかないか~」


街を結ぶ定期便に乗って近くの街まで移動する手もあるが、先行き不安な現状では少しでも節約したい。

なので、シズクは左手のバングルを操作して兵装を部分展開する。


――ヒュインッ


微かな起動音と共に半透明の羽が背に現れる。


<……オートで認識阻害術式作動……飛行ユニット、巡航モードでスタンバイ……>


バイザー内に流れた電子音声の後、四枚のメカニカルな羽が微かに振動を始め、淡い魔力光をその身に宿す。

それと同時に、シズクの黒髪が半分近く銀に変わり、ボブカットがセミロングほどになる。


「よ~し、目指せ、新天地!西へ向けてレッツラゴー!」


先ほどまでの消沈は何処へやら、シズクは希望を胸に空高く飛び上がった。

オヤジ臭い掛け声にその実年齢が知れる。


――同時刻――

研究所から王都へと続く街道には所長のアイザックが手配したシズクを口封じするための暗殺者が潜んでいたのだが……幾ら待とうとも彼等が目的を達成することは叶わない。


更に、研究所の付近には多くの間者が潜んでいた。

その数8名……所属陣営にして三つ……彼等がシズクの解雇と行方不明を知るのは一週間後の事である。



--------


「たまには空の旅も良いもんだね~♪久しぶりに旅行気分を味わえたよ……景色も良かったし♪」


あちこちへ寄り道しながらのんびりと巡航速度で来たので、凡そ3時間の飛行(フライト)である。


やって来たのは樹海の入り口だ。

遥か眼下に、以前に立ち寄ったギルドの宿営地が見える。

数台のトラックが止まっており、かなりの数の人影が動き回っている。

テントを設営しているのは今しがた到着したばかりのハンターであろう。


「できるだけ奥地に行った方が良いよね」


ハンターが立ち入るのは外周部から凡そ100キロくらいが限界だ。

樹海ではコンパスが役に立たず、視界も遮られるので、時間と陽射しの向きで方角を知るしか術はない。

ロケーションの魔法が使えれば問題ないのだが、魔法師の多くは国へ就職し、ハンターになることは殆どない。

あっても落ちこぼれか、何かしら問題を抱えている者のみだ。

結果的にハンターが行動可能な領域は限られてくる。


シズクは景色が良く見えるように高度を上げ、速度を上げて樹海の中心へと向かう。

時折、空を飛ぶ魔獣を見かけるが、高度が低いのでシズクに気付くことはない。

例え気付いたとしても、300キロの速度で飛翔するシズクに追い付くのは不可能である。


「うん?!……今、何か光った気が……」


延々と続く緑の絨毯を眺めながら飛んでいると、不意に視界の端にキラリと光るものを見つけた。

旋回して進路を大きく右へ取ると、しばらくして燦々と輝く光景が目に飛び込んできた。

それは樹海の奥地にひっそりと佇む広大な湖だった。

澄んだ湖面に風が舞い、水面がキラキラと輝いている。

澄みきった水は透明度が高く、湖岸付近は湖底まで見通すことができる。

だが、余程水深があるようで少し沖へいけば全く底が見えない。

深いコバルトブルーと樹海の緑のコントラストが雄大な景色と相まって言葉を失うほどに明媚である。


「おぉ……あの島なんか拠点にピッタリじゃないかな……秘密基地みたいで良い感じじゃない?」


少し飛ぶと湖のほぼ中央に直径5キロほどの島を見つけた。

自然物にしては不自然なまでに円形で島の中央は小高い山になっている。

探査の魔法をかけてみたところ、大型の獣も魔獣も島には生息していないようだ。

湖の中にはそれなりに大型の魔獣がいる様だが、何故か島の付近には影も形もない様なので陸に居る分には安全だろう。

空から拠点に丁度良い場所を探して着陸する。


「先ずは住む場所だよね」


水捌けの良さそうな丘を見つけ、そこを拠点に定めた。

少し広めに表土を収納してから窪地になっていた所へ収納した土砂を捨てる。


「……グビティプレス……」


続いて表土を除去した地面を魔法で圧縮すると、軽い地響きとともに地面が1メートルほど陥没した。

できた大きな穴に収納にあった岩塊を粉々に砕いて山盛りに敷き詰める。

因みに、岩塊は以前、採石場でスパイダーの的にした物である。


「何でも取って置くべきだよね~」


続けて発動させたのは超高温超高圧の熱魔法だ。

シズクが開発した錬金用の魔法で『溶鉱炉(ブラストファーナス)』と名付けた。


「うっ……何か……真っ黒になっちゃったけど……問題ないよね?」


冷えて固まった地盤はさながら黒曜石の様な鉱物に変化していた。

コツコツと叩いてみると、硬質で甲高い音が響く。


「……範囲が広いから多めに魔力を込めたのが原因かな……まぁ、頑丈そうだし……問題はないか……詳しく調べるのは後ほどということで……」


その正体は、自然界には存在しない黒魔鉱であり、高度な錬金術の産物のため古代魔法文明時代において神銀(オリハルコン)に継ぐ希少金属として有名な金属であるのだが……シズクがそれを知るのはかなり後のことだ。


「後は小屋を出せばOKだけど……念のため魔法障壁を起動して……」


空間ごと入れ換える様に調整したので問題はないと思うが、万全と思っても想定外の事故は起こり得る。


「……小屋召喚っ!……」


掛け声は必要ないのだが、所謂様式美というやつだ。

ともあれ、問題はなかったので陽当たりを考慮し、次元収納を駆使して小屋を据え直す。


「収納魔法様々だよね~……後はライフラインを整えれば取り敢えず完成かな♪」


生活用水は湖の水を魔導具を設置してポンプアップするようにしてみた。

浄化の魔導具を据え付けてあるので飲み水としても利用可能だ。

汚排水については魔導具で浄化した後に湖に戻すようにした。

ただ、気分的な問題から空間魔法を併用して排水の出口は湖から流れ出る川の付近に据えてある。

その後は結界の魔導具を四方へ設置して回った。

魔獣や大型の獣はいないようだが念のためである。


「さぁてと……スローライフとくれば、やっぱり畑は定番だよね~♪」


小屋から少し離れた平地に当たりをつけ、そこを畑に決定した。

もちろん、結界内である。


「道具なんて何もないし……どうやって耕そう……魔法で何とかならないかな……」


道具どころか、農作業の経験も知識もないシズクに畑を作るなど、凡そ不可能な話なのだが……。


「ウ~ン……錬金魔法の『撹拌(シェイク)』とか……転用できないかな……」



ものは試しと、シズクは範囲指定してから、多めに魔力を込めて撹拌魔法を発動してみた。


――ボッ、ボボンッ!


鈍い地響きと同時に土が飛び散り、砂埃が舞い上がる。


「うへぇ~……土まみれだよ……ペッ……ペッ……」


上着の土を叩き落とし、頭の埃を手で払うシズク。

魔法で畑を耕すことはできたが、周囲は散々たる有り様だ。


「トライ&エラーは研究者の常……ドンマイドンマイ!」


台詞自体に間違いはないのだが……本来あるべき『思慮深さ』というものが欠けているとシズクは気付かない。

厨二心に火が着いてしまったのが原因だろう。


「畑ができたら、あとは苗を植えなきゃだけど……何を植えようかな……」


よくよく考えてみれば、シズクは野菜の苗なんて持ってはいない。

どうしようかと考えた挙げ句、次元収納にあった薬草や錬金術に使う植物を植えてみることにした。


そして、食事も忘れて作業に没頭すること凡そ2時間……薬草畑が完成した。


「はぁ……野良作業が……はぁ……こんなにキツイなんて……はぁ……思ってもみなかったよ……はぁ……」


多少見てくれは悪いが、いちお畑としての体裁は保ててると思う。


「そうだ!……魔力が多い方が育ちが良いかも♪」


手づから魔力を込めるのは面倒臭いので、次元収納から魔核を取り出して、それを細かく砕いて畑に撒いてみる。


「ウンウン……良い感じ♪良い感じ♪」


畑の土が薄っすらと青く光っているように見えるが、魔核の欠片に陽光が反射しているのだろうと、気にも止めない。


「明日は、近くの街まで買い出しに行こうかな♪スローライフならやっぱり自給自足は鉄板よね……となると野菜の苗とか欲しいかな♪」


自由気ままなスローライフを夢見て鼻歌を歌うシズク。

翌朝、とんでもない有り様になった畑を見て腰を抜かすことになるとは……夢にも思わなかった。


週一でのんびり更新して行くつもりですが、空いてしまったらご免なさい。m(_ _)m

気長に付き合っていただけると嬉しいです。

感想など頂けると励みになりますので、是非一言でも下されば幸いです。\(_ _)


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