11 お披露目会
翌日、城壁の外にある野外演習場で新兵装のお披露目会が行われた。
野外演習場は出兵前の壮行会や観兵式に使われることもあるらしく、演習場には観覧席が設けられている。
観覧席には軍の関係者に始まり、主だった派閥の貴族達が顔を連ねていた。
演習場にも仮設の席が設けられ、儀礼用の軍服着た兵員が座を占める光景は壮観である。
「ふわぁ……す、すごい人ですね……全員、ガルト砦の兵隊さんなんですかね」
偽装眼鏡越しにシズクの目が見開かれる。
「ガルト砦の兵だけじゃないさね……多分、お貴族様の護衛に付いて来た部隊もいるだろうよ」
シズクと女豹の牙の面々は観覧席の一番端、平民用に増設された仮設席に座っていた。
「そう言えば、帽子の帯の色が違いますね」
「確か、兵卒は不参加って話っスよね?となると、これ全部隊長格なんスか?パッと見、五千人以上は居るっスよ?」
「……兵装と関係がある部隊は……全員参加……」
「あぁ、そう言やぁ……特務の連中はみんな参加するって話だったさね」
ルーナの話によれば、特務大隊とは対金眼兵装を装備した特務部隊を主軸に露払いの役目を負ったサポート部隊で構成された部隊らしい。
「おっと、貴族のお嬢が出てきたっスよ」
「……うん……始まる……」
女性文官が纏う儀礼スーツを身に付けたメアリーが観覧席の正面に進み出てきた。
背後には機材を手にした補助員とデモンストレーションを担当する戦闘服姿の部隊が付き従っている。。
「さすがにお貴族様だね、小娘のクセになんとも堂に入った態度じゃないか」
「ですね……アタシなら……緊張で気絶する自信がありますよ……」
「アハハっ、大袈裟っスよ、シズシズ……あんなのゴブリンの群れとでも思えば大した事ないっスよ」
「……ウソ……あんな数の群れ……ミャアは間違いなく……チビって逃げる……」
「フシャャ……ミャアは……ち、チビったりしないっすよっ!!」
ジト目でボソリと呟くリリィにミャアが尻尾の毛を逆立てて抗議する。
「ほら貴族の嬢ちゃんが喋ってんよ、静かにおし、聞こえないじゃないか!」
ルーナの怒声の方が余程大きく、周囲の注目を浴びていたが、彼女の鋭い眼光に睨まれると何も言えずに目を背けていた。
【…………というコンセプトの基に、この対金眼魔獣4式兵装――通称『スパイダー』は設計されており、戦闘時においてこの…………】
拡声の魔導具を着けたメアリーがスパイダーを装備した兵の傍らで身振り手振りを踏まえてプレゼンをしている。
その姿は○Phoneを紹介する某IT企業社長のイケオジを彷彿させられる。
(……美少女って何をしても映えるよね……アタシには絶対に真似できないわ……)
一通りの説明が終わると、いよいよ兵装のお披露目である。
隊長の指揮の下、4人の部隊員が観覧席を背に等間隔に並び、スパイダーを起動した。
一つの兵装に付き8つ、全部で32個のビットが宙に展開された。
狙うのは百メートル程離れた場所に佇む石の人形――的用に準備された2体の軍用ゴーレムである。
「α、β共に構えっ!……αはポイントセット……放てっ!」
隊長の合図に合わせ、2人がポイント射撃を放ち、弾着した部位にマーカーが浮かび上がる。
「αは最低出力にて二連射撃っ!……βはカウント5の後、目視にてフルバースト5秒っ!……用意……放てっ!!」
次の瞬間、α兵員から放たれた魔力弾が2体のゴーレムに襲い掛かった。
青い燐光を放つ弾が極僅かな時間差で狙い違わずマーカーに着弾する。
その刹那、ゴーレムを包んでいた魔法障壁が甲高い音を響かせて砕け散った。
――キン、キキーンッ!
数瞬おいて、残り二つのスパイダーが火を吹く。
虚空に浮かぶ8つのビットから高速で放たれる魔力弾。
秒間5発の高速連射が青い光の奔流となって魔法障壁を失ったゴーレムに襲いかかる。
――ビシュッ!ドンッ……ドドーンッ!
凄まじい衝撃波が大気を震わし、地響きと共に土煙が舞い上がる。
衝撃波の木霊を残し、不気味なまでの静けさに包まれる演習場。
風が土埃を運び徐々に視界が回復すると……。
――オォォォォ……
群衆にどよめきが走り、会場がにわかに沸き立つ。
「オォ……ゴーレムが一瞬で粉々にくだけ散ったぞっ!あの巨体が跡形もないではないかっ!」
「ま、魔法障壁を砕いた最初の攻撃は一体何なのだ?」
「な、何だっ!あの凄まじい火力はっ!まるで火竜の息吹ではないかっ!」
それは貴賓席でも同様である。
軍の上層部、来賓の貴族達が驚愕に目を見開き、顔を寄せて囁き合う。
【先のデモンストレーションについて説明させて頂きますわ……】
頃合いを見図って響いたメアリーの言葉に会場がしんと静まり返る。
【魔法障壁を砕いた最初の射撃ですが……同質の波長、同強度の魔力を極短時間の内に数回、全く同じ場所に当てると共鳴が起こり、障壁が崩壊することが確認されましたの……】
メアリーの台詞に先程以上のざわめきが会場を包む。
その反応は貴賓席が著しい。
さもあらん、魔法障壁の魔導具を常に携行している貴族にしてみれば青天の霹靂であるのだから……。
【……皆さんはおそらく、従来の魔銃でそれが可能なのか?と疑問に思われたのではありませんか?……ふふっ……結論から言えば不可能ですわ、このスパイダーがあって初めて可能となる離れ業なのですから……もちろん、魔法障壁についても件の現象に対する策が既に考案済みですのでご心配なく……因みに、この事は私の知人から教授して頂きましたの……】
会場を流し見ていたメアリーの紺碧の双眸がシズクの姿を捉えた所でピタリと止まる。
(ダメダメダメ……こっち見ない、こっち見ない、こっち見ない……絶対、ダメだからっ!)
「オォ、さすがは大賢者殿だ!」
「サンドール公も斯ような天才を一族から輩出して、さぞ鼻が高かろうて!」
メアリーを大賢者の姪と知る貴族達は早とちりをして、口々に国が誇る頭脳だとアイザックの偉業を称える。
「……あの貴族の嬢ちゃん……なんか意味深にこっち見てたな……」
「み、ミャアは何も悪いことしてないっスよ?」
「………………」
顔を見合わせた3人の瞳が一斉にシズクに向けられる。
「……あ、アタシは……何も知らない……です……よ?」
「まぁ、アタイ等にはどうでも良い事さね」
「……大丈夫……心配ない……」
「何が大丈夫なんスか?」
ミャアはともかく、察しの良いルーナとリリィの二人には色々とバレてしまっている気がするが、それを追及するつもりはないようなのでシズクとしてはひとまず安堵である。
(メアリー様とは……なるべく関わらないようにしよ……)
そう心に決めた。
その後は新兵装に関する質疑応答があり、戦術的な利用方法などの意見が出されていた。
東部から来ていた上級兵によるスパイダーの試射なんかも行われ、反応はすこぶる良好であった。
メアリーは終始笑顔で対応に追われており、研究所の関係者としては面目躍如と言ったところだろう。
昼食を挟んだ後は、いよいよ国の最高戦力――魔導少女隊の登場である。
「フミャ~、あれが噂の遺物使いっスか?赤い髪の子なんか、シズシズとあんま変わらない女の子っスよ?」
「……シズシズの方が……ちっちゃくて可愛い……」
「あ、あのぅ……アタシ、リリィさん同じ……」
「小娘だからって甘く見んじゃないよ……あの赤い髪の嬢ちゃんなんて、百を越えるオーガの群れを魔法ひとつで消し飛ばしたって話だかんね」
「そ、それマジな話っス?……ならあの赤髪の子、ルーナの百倍怖いってことっスか?」
「……ホントらしい……でも……百人のルーナは別な意味で怖い……」
「……ひ、百人のルーナさんて……プッ……」
ミャアとリリィの遣り取りに思わず吹き出すシズク。
当の本人は呆れ顔だ。
「何バカなこと言ってんだよ、アンタ達は……つまんない事言ってないでしっかり目に焼き付けときな、滅多に見られるもんじゃないよ」
貴賓席の前には紅玉と蒼玉、二人の魔導少女が優雅に挨拶の口上を口にしていた。
二人とも既に遺物を起動しており、薄っすらと青い魔力光を放つ魔法衣を纏っている。
赤髪の少女はリリーナ・ロイエンタール、15才――ロイエンタール辺境伯の三女でメアリーの後輩とのことだ。
黒地に金の刺繍が散りばめられた、どこかチーパオを想わせる意匠だ。
両手に鈍く光る魔銀の手甲が印象的である。
(魔法少女って言うより……格闘少女って感じよね)
なんでも、遺物によって展開される魔法衣は使用者の資質や気性によって変化するらしい。
因みに一代目紅玉は彼女の姉で、聞けば中世の騎士のような出で立ちだったとか。
(もう一人の方はどう見ても侍だよね)
ブーツや装飾に多少違和感を感じるが、前合わせの和装に袴姿は完全に女侍だ。
白鞘の大太刀を腰ではなく背に担いでいる。
「あの青髪の嬢ちゃんは東の公爵家、エウロス家の御令嬢って話さね……何でも『空刃千手』なんて言う二つ名があるらしいね……因みに、赤髪の嬢ちゃんは『火炎闘姫』なんて呼ばれてるって話さね」
蒼玉の継承者はオリビア・エウロス、20――三大公爵の一角、エウロス家の長女で15才の時に遺物使いに選ばれたらしい。
コバルトブルーの長い髪を後ろでひとつに束ね、凛とした佇まいと切れ長の眼はクールビューティーと言った印象だ。
「遺物って大昔の魔導具なんスよね?どんな形してるんスか?それに全部で幾つあるんスかね?」
「……全部で五つ……宝石が嵌まったバングル……北の遺跡で見つかったらしい……」
小首を傾げるミャアにリリィが淡々と答える。
「遺物はさっきのスパイダーって言う魔銃よりもスゴイんスよね?」
「……話にならないレベル……らしい……」
「ふへぇ~、マジっスか……さっきの魔銃、トンデモなかったんスけど……」
「ほら、お祭りが始まるよ!無駄口を叩いてないで良ぉく見とくんだね……噂がどの程度のもんなのか、直ぐにはっきりするだろうさ」
演習場の奥には先程よりも多くのゴーレムが並んでいた。
右に20体、左にも20体……おそらく、二人がそれぞれ分担するのだろう。
ただ先と違い、ゴーレムは大盾を装備しており、司会の説明によれば、盾の防護を含め先の5倍以上の障壁強度らしい。
何でも、A級の金眼魔獣を想定しているのだとか……。
先に進み出たのは紅玉の継承者だ。
右足を後ろに引いて腰を落とすと、拳を握って腰だめに構えた。
凄まじい魔力が右拳に収束し、大気がビリビリと震える
「ハァァァ……爆炎拳っ!!」
愛らしい声を響かせ突き出される拳。
高密度に圧縮された青い炎が凄まじい速度で打ち出され、障壁が掛けられた盾を易々と貫いた。
火炎弾は数体のゴーレムを貫いたところで爆縮したかと思うと、凄まじい衝撃波と業火を周囲に解き放った。
――ドズーンッ!!
視界が晴れ渡ると、そこには凄まじい光景が広がっていた。
ゴーレムは消し飛んで跡形もなく、地面がクレーター状に大きく陥没していた。
融解した地面がブスブスと煙を上げ、溶けて硝子状になった地面が凄まじい高温に晒されたことを物語っている。
「うへ~……まマジっスか……魔法一発で全部で消し飛んじゃったっスよ?」
「……噂以上……驚嘆の一言……」
尻尾を縮こまらせるミャアの隣で、リリィが珍しく驚きの表情を浮かべている。
(うわ~、火の魔法って言うより……あれは核爆弾みたいな現象だね)
魔力弾を超圧縮して超高温のプラズマ空間を作り出し、中心にあった物質が一瞬で気化した衝撃波で辺り一面を吹き飛ばしたように見えた。
もちろん、核融合とは似て非なる現象だが、理屈的には核爆弾を彷彿させられる。
「一人で万の軍隊に値する王国の最終兵器なんて言われてるけど……あんなの見せられたら信じる他ないね……」
「……うん……正に一騎当千……」
「その場合、『一騎当万』て言うんじゃないっスか?」
3人が評する通り遺物は桁外れの火力を持っている。
続く蒼玉にしても、凄まじいの一言だった。
迫り来るゴーレムを一太刀の元に両断し、瞬く間に全てのゴーレムを切り刻んでしまった。
切断面は鏡面のように艶やかで切断の際には衝撃音すらなかった。
(音や反作用が全くないところをみるに……あれは物理的な切断じゃないのかも……)
どのような魔法式が刻まれているのか詳しく調べてみないと分からないが、前世の知識にある物理現象を越えた事象なのは間違いない。
(知れば知るほど魔力って不思議よね……まさに浪漫だわ~)
物質でないにも関わらず確かな質量を持ち、規格外なエネルギーを有している不思議物質。
理系分野は畑違いながら、シズクは胸のワクワクが抑えきれない。
(ふふっ……金眼の魔核が手に入ったし、色々と試してみたい魔法式もあるし……帰ったら次の実験に取り組みますか……フッフッフッ……)
遺物の凄まじい威力に触発され、歓声に沸く会場の片隅にマッドサイエンティストが爆誕したことを知る者はいない。
週一でのんびり更新して行くつもりですが、空いてしまったらご免なさい。m(_ _)m
気長に付き合っていただけると嬉しいです。
感想など頂けると励みになりますので、是非一言でも下されば幸いです。\(_ _)




