<76> テレビ放送
僕とリサ、それからゆりさんは日本に戻ってきた。ゆりさんは、今後、僕の設立した大学で医師免許を取得してもらうことになった。学校と病院を準備したのだし、そこで働くゆりさんも医師免許があったほうが都合の良い事もあるだろう。
最初の実験で、まず僕の病院で働いてくれる予定の医師に異世界の水や食べ物を摂取してもらい、それで魔力を吸収しているのを確認し、それから意思疎通の魔法で医者の知識を共有してもらった。するとゆりさんは、あっさり医学的な知識を得ることができた。
これなら、魔力を得た相手の知識を共有してもらうだけで良いから勉強する必要がない。だから、病院で仕事しながら、片手間に大学に通うことになる。同じ敷地内にあるから、行き来は簡単だ。
さて、話は変わるが、以前、忍者姿で撮影したあの、どう編集するのか凄く不安な映像をテレビ局のスタッフに丸投げしていたが、今日はその確認のため、テレビ局に来ている。
テレビ局の映像の編集者はさすがプロというか、一部だけ見せてもらったが、たくさんの映像をうまくつなげて、放送で使える番組を作ってしまった。しかも、効果音やBGMはこれ以外ないというような芸術を感じさせるほどの選択をしている。もう、彼らの仕事には脱帽である。
そして、既にファミルが生きた伝説となっている。
もう、何をやってもファミルだからね。と全視聴者が納得するような状況となっている。ファミルがテレビに出るという噂に、多くの視聴者たちがテレビ放映を待ち望んでいるそうだ。テレビディレクターの勝間さんが言った。
「いや、今回の編集は大変でした。これだけの事件があって警察にも報告なしに、それをテレビで放送するというのは、ちょっと普通では考えられないことですからね。でも、ファミルさんが忍者として登場することで、もうそんなことはどうでもよくなりますから、問題ないでしょう。」
ファミルだから問題ない。それには二つの意味がある。ひとつは、これは全くの嘘で、視聴者を楽しませるためのバラエティ番組だと思う人が多いこと。
もうひとつは、この番組が本当だと信じる人にとっては、本気を出したファミルが誰を相手にしても事件にすらならないと理解することを意味している。ファミル一人いれば、冗談抜きで戦争も止められると思う。でも、これをテレビで放映するのは初めてだから、その点は大丈夫なんでしょうか。その疑問に対しての勝間さんの回答がこれだ。
「忍者は言わば、全世界で認知されている実在の魔法使いです。その忍者があの美しいファミルさんであれば、これ以上素敵なことがあるでしょうか。いや、ありません。だから、どんな番組であろうとも、ファミルさんだから、多くの視聴者が納得してくれるはずです」
僕が思うに、既にファミルは伝説も超越した神話的存在と言っても過言ではない。テレビディレクターがそこまで言うのであれば、僕はもう何も言うまい。それに、何と言っても本当か嘘か内容を信じられなくても、放送される内容そのものが純粋に楽しめるものになっている。だから、別に細かい事抜きに視聴率が取れることは期待できる。
念のため、全世界に放送の情報をインターネットで流した。前評判は上々である。ネガティブな意見もあるが、それは一部で、ほとんどは放送を待ちきれないという書き込みであった。
僕は、放送当日にリアルタイムでテレビをリサと一緒に見ることにした。リサと二人だけの時間を持つというのは、久しぶりのような気がする。放送の時間は二十時である。あと十七分ぐらい。僕の新しく購入したばかりの家に新しい家具が置いてある。ここから転移した先にも同じ大きさの僕の家があり、行き来するのに不便がないようにしている。100インチのテレビを前にして、ソファーにリサと僕で座る。
リサは、久々に僕と二人きりで喜んでいるように見える。僕も嬉しい。テーブルの上には、コーヒーメーカーと、猫のシルエットがデザインされた可愛らしいコーヒーカップ、それからお菓子がいくつか置いてある。食事は先ほど済ませた。リサと僕二人で作った手作り料理。外食するより手料理の方が僕にとってはっ贅沢に感じる。
「太郎、コーヒーどうぞ」
「リサ、ありがとう」
「太郎も今回の放送にたくさん出演してるんだよね。早く見たいな」
「主にカイトが僕の体を使って話をしているんだけどね。でも、忍者姿ってちょっと恥ずかしいな」
「そんなことないよ、私は忍者姿の太郎も……その……かっこいいと思う」
と、ちょっと照れながら言われると、僕も、リサが可愛いので両手でリサの右手を握って言った。
「リサが僕の恋人になってくれて本当によかった。大好きだよ。リサ」
言いつつも、かなり恥ずかしいので、リサを直視できない。そういえば、こんな会話あまりリサとしたことないな。慣れないことをするのは難しい。
そんなことをしているうちに、放送が始まった。番組の前半は通常三十分だが、今回だけ延長して四十分となっている。後半が僕の学校や病院についてだが、こちらはその分短縮して十分。残りはオープニングやエンディングとCMで一時間放送である。
会社で僕たちが会議を四人で行っているところから始まる。ファミルはそこで食事をしていたが、そこはうまくカットされている。大量のフライドチキンやポテトや飲み物も、映っていない。CGで一部ごまかしているようだ。
受け付けに、怪しい男たちが大勢で来る。なにしろ五十人だ。普通なら完全に怯えると思うが、松井さん(ナンシー)は、にこやかに対応する。
「お待ちしておりました。どうぞこちらです」
まるで来るのを予定していたかのような対応である。そして、松井さんが自分から男たちを僕たちがいる会議室まで送り届けた。
「この部屋におります。では、私はこれで失礼します」
と言って、何事もなかったように、松井さんは去って行った。
男たちは、勢いよくドアを開けると、僕(カイト)が言った。
「みなさん。ようこそ。お待ちしていました。ちょっと人数が多いようですが、立ってお話しすることになって申し訳ない。ここには椅子が四人分しかないのです。ところで、今日はどんな用事でいらっしゃったのですか?」
男たちの中のボスらしき人が叫ぶ。
「あいつらを縛り上げろ」
僕たちは抵抗せずに縛られるのを待っている。
「お前ら、いやに素直だな。これから俺たちがお前らに何をしようとしているのか知っているのか?」
「俺たちを殺すつもりだろう?ぜひ、お手柔らかに頼む。もうこの部屋で殺してくれ。別の場所で殺しても死体の処理に困るだろう?ここなら、火葬場は近いし、手間がかからないぞ」
「なんか怪しいな。ここで殺すつもりだったが場所を変える。そこでお前たちを殺す」
「僕、ここの社長なんだけど、社員を怪我させたりしてないよね」
「大丈夫だ。というか、お待ちしておりました。どうぞこちらです。と親切にここを案内してくれたから、脅す必要もなかった。お前らも簡単に捕まってくれるし。協力的過ぎて怪しいな。何か企んでないか?」
それから、僕たちが車で運ばれ、小屋の中に入れられ爆破されたり、一人が骨になっていて、三人が無事だったり、男たちに暴行されて意識を失い土に埋められたと思ったら、四人とも生き返ったりと、現実ではありえない映像が流れた。
次はとうとう忍者として登場するシーンである。
「おまえら、なんで……死んだはずだよな」
「「ふっ……私たちの正体を知るが良い」」
忍者姿の四人が現れた。もうこの時点で青木さんやグレイさんまで忍者姿だったんだ。
「そうか、きさまら忍者だったのか。どうりでおかしいと思った」
「私たちがこの姿になった意味はわかるわね。あなたたちは私たちには絶対に敵わない。それでも戦おうというなら相手をするわよ」
「くそう……敵わないと分かっていても戦わないわけにはいかない。みんな、やるぞ」
とてつもないスピードで動くファミルの姿を映像でとらえるのが難しく、部分的にスローモーションに切り替えられている。とにかく、二、三分のうちに全員倒しているのだ。倒した後、僕とファミルは印を結ぶ忍者ポーズを決めている。
「くそう……忍者が相手では敵うはずがない。俺たちの負けだ。殺すなら殺せ」
「私たちは、あなた達を許すつもりはない。そこで選択肢をやろう。ここで殺されるか、仲間になって私たちの元で働いてもらうかだ。
ちなみに私たちの元で働くと、忍者の技を学ぶことができるぞ。完全週休二日で給料も月五十万は出す」
「……本当に、……本当に忍者の技を学べるのか?」
「本来なら、教えることはできない技だが、今はお前たちの力を借りたい。だから特別に教える。どうだ?悪くはない条件だろう」
「お願いします」
「俺もお願いします」
「ぜひお願いします」
「よろしくお願いします」
「俺らも忍者に……すげえ」
「憧れてたんだよな俺。忍者っていいよな」
「忍者最高」
それから、グレーの忍者服を着たグレイがファミルを紹介するように言った。
「今日から君たちのボスはファミルだ。ファミルという存在は聞いたことがあるだろう? 伝説の忍者だ」
「俺、テレビで見たことがある。テロリストだったやつらもファミルがボスだと言っていた」
「ファミルって本当に実在したんだ。」
「ファミル様。」
「私の下で修行すれば、お前たちも忍者以外に負けることはない。やる気のある者には教えてやろう」
「「「「「「「おおお……・お願いします!」」」」」」」
それから、忍者の里で修行している彼らの姿を映して、前半終了した。もう、事件でもなんでもなくなっている。なにしろ、彼らに襲われているのも、全部予定通りと言わんばかりだったのだから。
後半の十分は、中島ゆりさんの視力を回復して病院で働くまでの次回予告の内容となっている。この番組をどれだけの人が本当の話として見てくれるのかよくわからないけど、次回は逆に後半が四十分である。
リサは僕に笑みを見せつつ言った。
「太郎が、……かっこよかった」
ありがとうと言いつつ、僕はリサが次回の放送にたくさん登場するのを楽しみにしているのだった。




