<75> ゆりさんとラケルの共同研究
転移を繰り返し、五十人の男達とその他ファミル、青木さん、グレイさんを異世界に連れてきた。こちらの世界は忍者の里という設定だ。
今回も人数が多いので、王宮の中の広い部屋の使用を許可してもらった。彼らのことはファミル(ナンシー)に任せることにする。
僕は、ゆりさんが修行した結果を見に行った。リサは僕を見てかなり得意げな顔をしている。かなりいい結果が出ているのだろう。
「リサ、ゆりさんの様子はどう?」
「それが凄いの。あれから視力を取り戻しただけでなく、他の人たちの治療も再生込みでできるようになったのよ。今ではラケルと一緒に再生魔法の研究に忙しそうだわ。言葉はお互い通じないんだけど、直接魔力で意思疎通してるから、言葉の壁も超えた感じで、もう通訳必要ないの。驚きの連続よ」
「それって……、魔力で意思疎通って可能なの?考えたこともなかった」
「そうなの。私も考えたことなかったんだけど、ゆりさんが思いついたように、魔力でラケルに意思を伝えて、それをラケルが受けっとったと思ったら、ラケルも一瞬は驚いたんだけど、魔法の流れを理解してゆりさんに魔力で意思を伝えたの。それからは、意思疎通に問題なく、それどころか、お互いの知識を共有するレベルで研究を進めているわ」
ゆりさんの素質は、僕の理解を超えている。ここに連れてきた甲斐があった。元々はここで目が見えるようになって、テレビ出演してもらえれば良いと思っていたのだが、期待を大きく上回った結果となった。
「忙しいとは思うけど、ゆりさんに挨拶したい。会えるかな」
「大丈夫。一緒に行こう」
僕は、リサと一緒にゆりさんのいる部屋に行った。ラケルとゆりさんが一緒に研究しているのが見えた。ラケルとゆりさんは、全く会話をしていないのに、意思疎通ができているのを感じる。そして、今、そこに腕のない男性が椅子に座っているのだが、腕が再生したのが見えた。ラケルとゆりさんは、体に欠損がある人を実際に治しながらその結果を記録しているのだという。
腕が再生した男性は、両手を自分の目の前に持って行き、じっと眺めて、指を閉じたり開いたりして動きを確認して、それから体を震わせ泣き始めた。かなり嬉しそうだ。
僕たちに気がついたラケルは、僕に向けて日本語で言った。僕は驚きつつラケルの話を聞いた。
「もう、ほとんど失敗することなく腕の再生はできるようになったわ。これもゆりさんのおかげね。それに意思疎通の魔法で日本の言葉も理解したわ」
それを聞いたゆりさんが、僕にユーナスの言葉で言った。ゆりさんまで?
「こんな魔法が使えるようになったのも、みなさんのおかげです。太郎さん。ありがとうございました。でも、地球に戻ったら自分の体内の魔力を外部に影響させることができないんですよね。それは残念です。なんとかできないんでしょうか」
意思疎通の魔法はお互いの言語まで理解してしまうのか。
それはそれとして、実は地球で外部に魔法で影響を与える事に関して、実際にやってもできなかったので、僕は諦めてしまった。
でも、何か方法があるかもしれない。地球になくてユーナスにあるもの。それは魔力。
その魔力を補給する方法があれば。魔力? それはどうやって補給したのだろう。僕は疑問に思ったことを言ってみた。
「魔力が地球にはないのに、どうして体内の魔力なら操作できたんでしょうね。それに魔法が使えるようになったのは、必ずこちらの世界に一度来ている人だけで、こちらの世界に来ないまま魔法が使えるようになった人はいません。それがヒントかも」
ゆりさんは、思い出したかのように言った。
「太郎さん。私はこの世界に来て水を飲ませてもらいましたが、あの時に魔力を吸収した気がします。ひょっとして、こちらの世界の水や食べ物、空気から体内に魔力を吸収していたのではないでしょうか」
そういえば、こちらの世界の水はとても美味しかった。美味しいと感じたのは魔力を含んでいたからではないだろうか。それは大いに考えられる。
「ゆりさん。それが答えかもしれない。こちらの水や食料を転移させて、地球にいる人々に摂取させた後、肌を触れた状態で回復魔法を唱えたら、相手を回復させることができるかもしれない。あれ?でも以前?あれはどういうことだろう?」
前に、怪我をした女性にナンシーが入り、回復魔法を使ったことがある。体に魔力が蓄積されるとしたら、霊であるナンシーが、他の人の体に入って魔法が使えた事の説明がつかない。
霊? 体ではなく? つまり、そうなのか? 僕は思ったことを言った。
「魔力は体ではなく、霊の部分に吸収されるのだと思う。だって以前ナンシーが乗り移った相手を回復魔法で治したことがある」
それを聞いて、リサが納得したように言った。
「体ではなく霊に魔力が吸収されるのね。それで納得だわ。だって体に吸収されるなら、そのほとんどは時間が経過すると殆ど体外に放出されてしまうはずだから。霊に吸収されるなら、体外への放出はほとんどないかも。だって、体には魔力を蓄える器官が存在しないのだから、その……」
リサがそれから先を言えずに困っているようだ。恥ずかしそうにしている。僕にはわかった。だって僕が転移しているのは、それでだからだ。つまり尿や便とともに体外に出てしまうということを言いたいのだろう。
「リサ。言いたいことはわかった。そこから先は言わなくても大丈夫。ラケルやゆりさんにも伝わっているようだよ」
それから、僕たちは地球に戻って病気やケガをしている人に魔法で回復できるかどうか、実験を行うことにしたのだった。こちらの水や食料を地球へ転移させ、それを一定期間摂取してもらい、魔法を使って回復。それを、一週間単位で記録していくのだ。つまり、水や食料を一週間摂取した人、二週間摂取した人、三週間摂取した人に分けて、回復魔法をかけ魔法の効き具合を調べる。
ひょっとしたら、全然回復しないかもしれない。でも、ダメで元々だ。やってみる価値はある。そして、これが成功したら、奇跡の病院が誕生するのだ。やらずにいられるであろうか。諦めて何もしないより、やって失敗するほうが何倍も良いと思う。もちろん、リサが響子さんだった転生まえに十二歳で死ぬ運命だったことを考えれば、それが寿命という場合もある。
寿命で死ぬのは、運命なので変えられないかもしれないが、人間の努力で変えられる部分もある。僕は、努力で何とかできる部分に関しては何とかしてみようと思う。
ところで、寿命って本当に変えられないのかな。
僕はリサに聞いてみた。リサはジンに確認してくれた。ジンは、かなり困った様子で回答した。
『……それは、つまり罪の清算だから、罪滅ぼしができる何かを寿命が尽きる前に行えば、不可能ではないんだけど。でも、命を罪の清算に必要とするほどの悪事が過去先祖にあったわけだから、その清算は容易ではない。……いや、不可能と言っていいだろうな。でも、もし、被害者の子孫の命を救うようなことをすれば、それによって罪の軽減は可能。結果、寿命を延ばすことができるかもしれない」
つまり、かなり難しそうだし、先祖が命を奪うような悪事を行ったのだから、その清算には、逆に被害者の子孫の命を助けるようなことが必要。そんな奇跡のようなこと……滅多にないだろうな。
そう思いながら、僕の作った病院がひょっとして、そんな奇跡を可能にするかもしれないと、ちょっと期待もするのであった。




