<72> 窮地に陥った・・・ふり?
僕たちは、殺されるために移動している。ロープで縛られ、体の自由を失った状態だ。僕一人だけなら異世界に転移すれば済む話なのだが、カイトが僕を巻き込んだのは、何か意味があるはずだ。マイクロバスに乗せられ、車の椅子にシートベルトで固定されている。でも、目隠しもしてないし、口を塞ぐこともしない。不思議に思って犯人たち?に聞いてみた。
「あの……、どうして目や口をふさがないんですか?」
「どうせ殺すつもりだし、ここで騒いでも誰も助けに来ないからな。それに、面倒だ。今回ロープしか持ってきてないし。まあ、そんな理由だ」
「そうですか。ところで、僕たちはどうして殺されるんでしょうか」
「最近の俺たちの計画が失敗しているのは、お前たちが原因だと情報が入ってな。それで、襲うなら今日がチャンスであることや、場所はお前の会社だってこともな。だから、必要人数をそろえて来てみたら、やけに素直に殺されることに協力するもんだから、罠にはめられているのかと心配してるんだが、どうだ?」
やはり、怪しまれるよな。計画を知らされていない僕でも、絶対怪しいと思うもの。隠しカメラいっぱい準備してたし。あれ、他にも隠してそうだな。僕が気がついたの以外にも。
はあ……。カイトも余裕そうだな。もう殺される雰囲気じゃない。もちろんファミルも殺されることはない。余裕で世界最強だからな。あと、レイガは……? あれ? ……? ……なんか青い顔してどうしたんだ。なんだか震えているような。あ……レイガから、元々の体の持ち主に戻ったのか。レイガはどこかに行ったのかな?
「い……嫌だ。頼む……殺さないでくれ……」
かなり動揺していた。この人も計画を聞いていないんだな。大丈夫かな。トラウマになるぞ、これ。本当に恐怖を感じている表情だ。完全に殺されると思っているのだろう。
「大丈夫。なるべく苦しまないように殺してやる。安心しろ。」
「ひぃぃ……そ……そんなぁ……」
まあ、全員余裕そうな感じでは疑われるだけだ。演出としては、本当に殺されると思っている人がいる方がよいのだろう。あ……そうか。僕も恐がる側なんだよね。こんなに余裕そうにしていてはダメなのかな?でも、いつでも逃げられるから、心配する必要がないのだけど。
どんどん人がいない場所に移動していく。どんな殺され方をするのか、確認しておいた方がいいな。そう思って、僕は聞いてみる。
「あの、ちょっといいですか?僕たちはどんな方法で殺されるんですか?」
「建物の中に放り込んで爆破する。火薬の量は多めにしておくから、苦しまずに死ねる。感謝しろよ」
「それはありがたいです。爆発が小さくて長く苦しむのは嫌ですからね」
一人だけ恐がっている人は、もう生きた心地がしない状況のようだ。顔面蒼白である。もう終わりだという悲壮感が漂っている。ファミルは、ナンシーが入っているようだ。落ち着いた感じであるが、ファミルとは雰囲気が違う。
小さな小屋のある場所にたどり着いた。この場所で僕たちを殺すつもりのようだ。十台ぐらいの車が到着し、それぞれの車から五人の男が出てきた。全員で五十人ぐらいか。それぞれの車から爆発物と思われるものを小屋に入れている。あの小屋の持ち主が見たら怒るんじゃないかな。この人たちの小屋じゃないと思うんだけど。
僕たちはたくさんの爆発物とともに、小屋に閉じ込められた。
あと、五分ぐらいでここは大爆発する。と言われた。タイマー付きの爆発物がカウントダウンを始めた。真っ暗な小屋の中で、残り時間四分四十八秒と数字が光っている。
「あの、カイトさん。とりあえず転移すればいいですかね」
「はい、そのために太郎を呼んだんですよ。だって、そうしないとみんな無事殺されたふりができませんからね。一瞬だけ、殺されたふりをするんですよ」
「つまり、爆発のタイミングより前に転移して、また戻ってくるということですね」
「察しが良くて助かる。もちろん、あと残り時間二分切りました。そろそろ転移をして下さい」
僕たちは全員で寄り添うようにして、転移した。そこで、カイトがロープを切った。元々ロープが切りやすいように気づかれないようにロープに切れ目を入れていたんだそうだ。全員分のロープをカイトが切った。先ほどまで恐怖に震えていた男だけ異世界に残ってもらうことにした。
男には、迎えにくるからここで待っているようにカイトが言った。そして、ファミルのバックから人骨のようなものが見えた。これを小屋にばらまいて一人だけ死んだように見せるのだそうだ。
残される男は、恐怖の時間が終わったことを知り、ものすごく安心した様子だ。
さて、ここで転移しなおして、元の爆発した小屋の場所に戻る。
煙が凄い。爆発してからまだ1分も経過していないタイミングだった。煙が少なくなってくると、たくさんの男たちが驚いた様子で僕たちを見ていた。
「おまえら・・・なんで生きてるんだ?」
「爆発が小さかったのかな? 全然なんともないよ」
そこでカイトがワザとらしく言った。
「一人だけ死んでしまったようだ。骨になってやがる。いいやつだった。かわいそうに……」
「どうして、一人しか死んでねえんだよ。おかしいだろう? 仕方がない。相手は三人だ、みんなでやっつけるぞ。」
五十人対三人? これから、ファミルが頑張るのかな? え? ファミルがやるまでもない? ナンシーで充分だって? そうですか。まあ、僕も格闘技の訓練はしてるし、問題ないだろうな。カイトって強いんだっけ? でも青木さんの体だからなあ。五十人の男たちが少しずつ近づいて来た。これから戦いが始まるのか。
僕は大きく深呼吸して、それから戦うための構えを取った。敵の中に一人、監視カメラを設置してる人がいる。
あの人……レイガ? ……が中に入ってる。多分。




