<71> カイトとレイガに騙された
僕は大急ぎで待ち合わせの場所に行った。実は僕の会社で待ち合わせだ。受付にはなぜか松井さんが座っていた。今日は、事情があってここにいるのだそうだ。ナンシーが松井さんの中に入っているらしい。
怪しい……。と思ったが、時間ぎりぎりなので、急いで集合場所に行った。一階の会議室だ。
みんなもう集まっていた。ファミルもいる。ここなら、どんな会話をしても他に漏れる心配はないので安心だ。目の前には大量のポテトチップスや、フライドチキン。飲み物が置いてある。ファミルは忙しそうに食べているが……その……大丈夫だろうか……ちょっと太りそうだ。
それから、なぜかこの会議室には、四台の隠しカメラが設置されている。撮影する……の? だって、あの隠しカメラはカイトが僕に開発を依頼したものだよね? ……ん? ……なんで自分の会社で開発した隠しカメラを会議室に設置してんの?
怪しい……けどまあ、……いいや、今は気にすまい。
レイガが彼の入るべき人物の中に入り、カイトが青木さんに入り、ファミルと僕を合せて四人だ。僕たちは、まず現状について確認した。
レイガからの報告で、霊の対抗手段を集める目処が立ったことがわかった。ところで、よく見るとレイガは眼鏡をかけているが、その眼鏡が隠しカメラだ。胸ポケットに入っているのも隠しカメラだ。レイガだけじゃなくて、よく見たらファミルのバックも隠しカメラ。カイトの服にも隠しカメラ。全部、僕の会社で開発したのを……なんで?
何か……企んでる?
まあ、まだ気にしないでおこう。
ファミルは時計を何度も見ながら食べたり飲んだりしている。時間がないのか?
レイガが説明を続けた。地上で十万人以上を仲間にして、霊も十万以上を仲間にすれば、全世界どこでも対応できる。
レイガは、かなり順調に話が進んでいると言った。
霊の連絡網を完璧にして、情報戦においては圧倒するようにする。ここまでにかかる期間は半年も必要ない計算だ。僕は思わず言った。
「半年? ……そんなに早く……、信じられない」
ファミルは、そもそも関心がない様子で、フライドチキンを一生懸命食べている。コーラ何杯のんだだろうか?あのお腹によく入るな。
レイガの報告に対して、カイトが心配して言った。
「レイガ、あまり無理しないで下さいね。一人で一人をスカウトするだけでも、目標を達成できるんですから」
「カイト、気を使ってくれるのはありがたいんだが、俺もそんなに気が長くはないんでね。できるだけ早く目標達成したいんだ」
「早くしたいという気持ちは同感です。それに太郎の新しい病院を作る活動も急ぎたいところですね」
それから僕が作ろうとしている医者の学校の話になった。優秀な医者を増やすための学校を作り、優秀であれば、授業料だけでなく生活費も出す。今までならお金がないからと医者になるのを諦めざるを得なかった人も、医者になる機会を得る。合格者のほとんどは、優秀ということで授業料免除となる予定だ。
既に、インターネットにより、全世界に医者を目指す人たちの募集を始めている。応募を希望している人にまずは電話で連絡し、話を聞く。どれだけの熱意と目的を持って医者になりたいと思っているのか。それが第一段階だ。そこをクリアした人に、現地で入学資格試験を受けてもらう。
さらに、その試験の合格した人の中からテレビ出演してもらう人を選ぶ。今、数人分の感動的なサクセスストーリが出来上がったところだ。
「ところで、さっきから気になっているんだけど、どうして隠しカメラが設置されているの?ぎりぎり隠しカメラになっているけど、結構ばればれな設置方法で。どういうこと?いや、それ全部ちょっと前にカイトが僕に開発を依頼した超高性能隠しカメラだよね。全部僕が見たことのある製品なんだけど」
それに対してレイガが答えた。
「あれ?言ってなかったっけ。これから俺たち襲われるんだよ。なあ、カイト。太郎に言ってなかったのか?」
「そういえば、大したことではないので、言い忘れていました」
僕は思った。絶対にわざとだろう。そして、ここが襲われて、それを今度テレビ放映で使うつもりだな?なんてことだ。受付に松井さんがいる時点で怪しいとは思ったけど騙された。僕は思いつく限り嫌味を言う。
「襲われるのが大したことないんだったら、世の中のほとんどは大したことないですね。本当に平和な世の中で結構です」
ファミルがここにいる理由はそれか。おそらく美味しいものたべさせてやると言ったら、大量のポテトチップスとフライドチキン、炭酸飲料を要求されたのだろう。
突然
バン!
とドアが開かれた。僕たちは今、何の武器も持っていない。相手は何十人いるかわからないが、強そうな人たちが大勢来ている。カイトが挨拶した。
「みなさん。ようこそ。お待ちしていました。ちょっと人数が多いようですが、立ってお話しすることになって申し訳ない。ここには椅子が4人分しかないのです。ところで、今日はどんな用事でいらっしゃったのですか?」
屈強な男たちを目の前にして、かなり余裕の態度をとるカイト。なぜ、僕たちは襲われようとしているんでしょうね。説明が欲しかったな。カイトさん。
相手のボスらしき人が言った。
「あいつらを縛り上げろ。」
彼らは僕たちをロープで縛り始めた。僕たちは今回無抵抗だ。いや、あっさりカイトが捕まったので、そういう作戦なのかなと察した。ファミルも満腹なのか、別に逆らうつもりはないと、素直に縛られている。ファミルはいっぱい食べて満足そうだ。
「お前ら、いやに素直だな。これから俺たちがお前らに何をしようとしているのか知っているのか?」
それに対して、カイトが答えた。
「俺たちを殺すつもりだろう?ぜひ、お手柔らかに頼む。もうこの部屋で殺してくれ。別の場所で殺しても死体の処理に困るだろう?ここなら、火葬場は近いし、手間がかからないぞ」
「なんか怪しいな。ここで殺すつもりだったが場所を変える。そこでお前たちを殺す」
「僕、ここの社長なんだけど、社員を怪我させたりしてないよね」
「大丈夫だ。というか、お待ちしておりました。どうぞこちらです。と親切にここを案内してくれたから、脅す必要もなかった。お前らも簡単に捕まってくれるし。協力的過ぎて怪しいな。何か企んでないか?」
抵抗すると思っていた相手が、全くの無抵抗であれば、不気味であろう。僕は完全に騙されたが、たぶんあなたたちも騙されている。これから何が起こるのか、僕は全く知らないのだ。
ファミルの雰囲気が変わった。ナンシーが入ったのかな?多分、受付にいたのはこの会社の社員の命を守るためだろう。その役目を終え、本来入るべき体に戻った。そんなところだろう。
ところで僕も捕まる必要があったの?
何の説明もなく巻き込まれただけなんですが。もう帰ってもいいかな?だめですか。そうですか。




