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<69> ファミルは変装してまた襲われる【後編】

 犯人から連絡があり、カルロスが電話に出た。カルロスが受け答えをするのではなく、中にいるアレクサンドロス三世が対応する。娘は誘拐した、命を助けて欲しければ現金で三億ドル用意しろ。と、お決まりの文句だ。それに対しての答えは次の通りだった。


「ふざけるな、娘を誘拐して三億ドルだと?娘の価値が三億ドル程度だというのか?話にならん。ちゃんと考えてもう一度電話して来い」


 めちゃくちゃである。これにはテロリストたちも困惑した。たったの三億ドルと言われるのは想定外である。これで、次どう対応すればいいのか全くわからなくなった。もっと多くの要求をするように誘拐された側から要求が入るなど、誰が予想できるだろうか。


 テロリストたちは、要求金額について話し合った。これが、三億ドルなんて払えないと要求されたなら、娘の命がないと脅すところだったが、金額を増やせというなら、話が違ってくる。話し合った結果、百億ドルを要求することになった。


 そして、これが全世界にニュースとなって放送された。テロリストによる過去最高の要求額百億ドル。日本円にすれば一兆円である。そしてニュースとなって激怒したのはテロリストたちだ。自分たちの要求は最初三億ドルだった。その金額を変えたのはカルロスによる要求があったからだ。それなのに、あたかも自分たちが最初から百億ドルを要求したかのように放映されている。


 極秘に三億ドルを手に入れて、娘を始末する予定だったのが大きく変わってしまった。予定通りとならないことは想定内だが、これは想定外だ。テロリストたちは、娘をどう扱ってよいのかわからなくなっていた。そんな時に、撮影をこっそり行っていたスパイのダグラスは、ナンシーを通して作戦変更を知り、大声で決められたセリフを言った。


「こうなったら、娘を始末するしかない。娘が暴れでもしてこの場所が見つかったら俺たちは終わりだ」


 すると、他のテロリストたちも同意し始めた。


「確かに、娘の命を助けるメリットは俺たちにはない。どうせ元々殺すつもりだったんだ。今すぐ殺したほうが……」


「馬鹿野郎、娘の無事を確認できたら払うと交渉された時に不利になる。まだ殺すのは早い」


「そんな事を言っている場合か。何かあってからでは遅いんだぞ」


 殺したほうがよいという意見と、まだ殺すべきではないという意見に分かれた。そして、殺したほうがよいという意見が多数派だった。スパイのダグラスが情報操作に努めたからだ。結局、娘を殺すことになった。


 娘を目隠しをしたまま部屋から出す。そして、テロリストの一人が銃で撃った。


「パン」


 と乾いた音がした。娘の胸に当たるが、ダメージを受けている様子がない。不思議に思いつつも、


「パン、パン」


 と、続けて銃で撃った。


 体に当たっている。確かに当たっているのだが、ダメージを受けている様子がない。


「どうなってやがる……、血も全然出てないじゃないか……」


 テロリストたちは、何が起こっているのか理解できていない。何しろ、銃で撃った相手が何の痛みも感じていないまま平然としているからだ。テロリストの一人が頭を狙って撃った。目が見えていないはずなのに、それを目隠しをしている布にだけ当たるようにして避けた。布が取れて、ファミルは目が見えるようになった。実は、ナンシーがどのくらい避けたらいいか絶妙な指示を出したのである。


 さらに他の一人が銃で撃つ。今度は、手を縛っているロープに当たるように軽く移動した。ロープが切れて、体の自由を取り戻したファミルはもう無敵だ。


「みんな、私を殺したいなら、全員でかかってこないと無理だよ」


 テロリストたちは驚愕している。そして全員武装し、最大の攻撃力を持ってファミルを撃った。無数の銃声が響き渡る。


「ババババババ……」「パンパン」「ドン、ドン」「パパパパ……」


 一人に対して一斉射撃という異常な状況に、ファミルは笑みを浮かべていた。ようやく本気を出せる。いくつかの銃弾は避けきれずに少し血が出ている。しかし、かする程度で大きな怪我はしていない。


「甘い甘い、こんなんじゃ私は殺せないよ」


 と、楽しそうな声で叫びながら弾丸を避ける。その様子にテロリストは恐怖を覚え始める。これは夢だ……悪夢だと。


 そして、一人また一人と仲間が倒されていく。弾丸を避けながら攻撃しているのである。自分たちは人間を相手にしているのではなく、悪魔を相手にしているのでなないかと疑わずにはいられない。何しろ、普通の女の子だと思っていた相手が、笑いながら銃弾を避け、攻撃された相手は一撃で沈む。ありえなさすぎる光景だ。


 もちろん、撮影しているダグラスは、ファミルのことをよく知っているので、作戦通り?で気にせず撮影を続けている。テロリストが全滅したところで、男は全員裸にして(パンツまでは取らずに)武器を取り上げた。全員気を失っている。ちなみに女のテロリストは武器だけ取り上げ、服は着せたままだ。


 ファミルは、あとはナンシーに任せたと言って意識を渡す。ナンシーはその後、テロリストたちが意識を取り戻すのを待つ。一人、また一人と意識を取り戻していく。テロリストたちは、もう逆らう気力は残っていなかった。


 意識を取り戻した相手に対し、ナンシーは恐怖の笑顔を見せる。今日から私の師匠がお前たちのボスだ。そう言って、逆らう気があるか確認しながら、様子を見る。逆らう者がいればお仕置きだ。二百人いたが、お仕置きが必要なのは三人だけだった。三人は、みんなが見ている前で悲惨な目にあい、見ている者達も、絶対服従を誓ったのだった。


 服従を誓った相手に対し、次に行うのは教育である。私はエレンだが、私の師匠のファミル様はもっと強い。私がどう足掻いてもかすり傷ひとつ与えられない。と説明した。そしてボスがファミル様であると教え込んだ。恐怖の時間を過ごし、何度も何度も記憶に刷り込んだ。


 エレンにすら全く敵わないのに、その師匠のファミル様ってエレンより……強い? こ……恐い……。


「あなたたちのボスは誰だ」


「はい、ファミル様です」


「声が小さい! もっと大きな声で! ボスは誰だ!」


「はあああい! ファアアミイイル様でええすうううぅ!」


 喉の限界を超える程の声で叫ばされた。教育完了である。その後服を着ることを許し、全員を移動させた。新しい職場にである。


 その後、テレビ放送により、テロリストは改心し、新しい職場で働くことになったと放映された。百億ドルを要求したテロリストたちが、どうして改心するに至ったか、その経緯については言葉を濁すもテロリストたちが全員エレンにより改心し、今はファミル様に忠誠を誓っていると言うのだ。


「ファミル様の下で働かせてもらって幸せです。何があったかって?そんなの……ちょっと言えませんが、ファミル様はすばらしい方です。人生が変わりました」


 インタビューに応じた一人がそんなことを言っていた。もう、悪いことをしようと考える者はいない。役割を与えて、自分のなすべきことをしようとがんばっている。半分はあの時の恐怖が原因ではあるが、今はやりがいのある仕事が与えられて、みな忙しそうに働いている。


 仕事内容は、全世界で起こる問題に対して霊に体を貸すことである。人が増えた分、対応できる地域も増えて、相性の良い霊と協力をして問題解消に力を入れている。悪人が改心する姿を直接見ることになるので、結構これが楽しいのだ。しかも、内容によってはテレビで放映される。だから、テレビ局の人たちとも一緒に仕事をすることが多い。給料も良いためテロリストに戻りたいと思う人は一人もいなかった。


 この、前代未聞の百億ドル身代金要求から、テロリストが改心し、無事娘のエレンも父親のところに帰り、テロリストが嬉々として新しい職場で働くまでの姿が、カイトの番組で放映された。


 改心した理由が、それまでのニュースでは明かされていなかったが、カイトの番組ではエレンと元テロリストの人達に協力してもらい、エレンの人柄に感動して心を入れ替えた彼らの様子を撮影し、それを放送した。


 さすがに事実を伝えるわけにはいかない。エレンに成りすましたファミルが笑いながら征圧した様子を見せられても、誰にも信じてもらえないだろう。


 感動的な内容になり、視聴率は三十%を超えたのだった。また、人材が増えて、さまざまなニュースが手に入りやすくなり、カイトの番組で、どの事件を番組で採用するか、番組スタッフが悩むのであった。


 話は変わるが、この事件を期に夢を実現した人物がいる。今回誘拐されたことになっているエレンである。恵まれた容姿と演技力があり、実は女優を目指していた。誰にも打ち明けずに努力していたがこの事件を期にテレビ出演の依頼が殺到し、演技力を認められドラマ出演の機会を得たのだった。

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