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<68> ファミルは変装してまた襲われる【前編】

 前回は、全く無傷であったが、正直なところ、もう少し手ごたえのある相手が欲しい。ちょっとぐらいダメージを受けないと回復魔法も役に立たない。そんな話をしたら、では、今度は誘拐されてみようかと言われた。相手は二百人はいて、人殺しを悪いとも思わないようなテロリスト集団だから、やりがいがあるんじゃないかな? カイトはそう言っていた。


 とりあえず、今、手足を縛られて車に乗せられ移動中だ。変装してある人物に成りすまし、誘拐されたふりをする。テロ集団の中には自分の仲間が潜んでおり、準備は万全である。そして、その仲間はカメラを隠し持ち誘拐の様子をしっかりと撮影している。後でテレビ放送するためだ。


 誘拐の目的は、資金調達。テロリストが活動するための資金を身代金として要求するため、有名なアメリカの大富豪であるカルロス・ジェームズの娘のエレンにそっくりな姿になっている。


 身長が同じくらいだったので、凄腕の専門のスタッフにより髪を染め、ヘアスタイルを変えて、メイクで仕上げてもらったらそっくりになった。まるで別人だ。


 要求金額は3億ドル。タロウなら簡単に払える金額だ。


 実は、その大富豪の娘エレンは、今、父親であるカルロスと一緒にいる。カルロスとエレンには事情をすべて説明した。テロリストにエレンが狙われていることを伝え、そのテロリストを潰すために協力して欲しいことや、身代金に関しては、こちらで準備するので、娘さんが事件解決まで自宅で待機することをお願いした。


 ファミルが身代わりになることを説明すると、カルロスは快く協力することに同意してくれた。実は私のファンだったそうだ。だから私がサインをカルロスにプレゼントすることで話は簡単にまとまった。色紙へのサインはカルロスの見ている前で書いて、私が直接プレゼントした。カルロスは大喜びであった。娘のエレンは多少呆れていたが、仕方がないだろう。


 そして、誘拐された父親としての演技が必要となるので、その演技を担当するのがアレクサンドロス三世だそうだ。私は良く知らないけれど有名なのかな、その人。


 それで、私の今の状況だが、手足を縛られただけだから、銃で撃たれても避けられるし、撃たれる場所が体なら、例の服を着ているから致命傷になることはない。今回もちょっと刺激がたりない。ナンシー、後は頼んでいいかな?


『そうね。この程度なら私でも対処できるわね。じゃあ、任せて』


 私は、ナンシーに任せた。もし、危なくなったら私に代わればよい。テロリストの中には、女もいた。男だけではないんだね。さて、ナンシーは今回どう対処するのかな?テロリストの一人が私に目隠しをしたあと足のロープを解いた。そして、車が止まった。


「さあ、こっちに来るんだ。さっさと歩け」


 ナンシーは黙って歩いた。見えないから恐る恐る歩く演技が必要なのだろう。ゆっくり歩くので、男が手を引っ張って歩かせた。ナンシーは引かれるままに歩いた。そしてある部屋に入りつき飛ばされた。


「そこでおとなしくしてろ!」


 そう言われた後、ドアを閉められた。部屋は真っ暗だった。私はナンシーに話しかけた。


『ナンシー、これから報告に行くのはナンシーが行ったほうがいいよね?』


「そうだね。じゃあ、また代わろうか。ちょっとカイトのところに行ってくる」


 私は、私の体に戻った。目隠しで何も見えないが、遠くの声を聞いてみた。声が聞こえた。


「いよいよ、身代金の要求だな。電話したら、きっと金ならいくらでも出す。娘を助けてくれって言うと思うぞ」


 騙されてるとも知らずに、ずいぶん余裕だな。テロリストたちは。まあ、たぶん私の携帯電話を使って電話しようとするんだろうな。打ち合わせ通りであれば。それで、エレンの父親には驚いた演技をしてもらう。カルロスの中に演技の上手なアレクサンドロス三世が入っている。カルロスとアレクサンドロス三世は相性が良いらしく、まるで自分の体のようだと言っていた。


 カルロスは、アレクサンドロス三世が自分の中に入ることに対して感動していた。歴史上の有名人が自分の中に入って活躍するなんて、すごい体験だと。


 ここまでは、打ち合わせ通りだ。順調すぎて面白くない。ちょっと予定外のことでもおきてくれないかな?


 こんなことを考えているうちにナンシーが帰ってきた。


『打ち合わせした内容と若干予定が変更になるわ。ちょっと死にそうな目にあうけど、ファミルがんばってみる?』


 ようやく回復魔法を使うチャンス到来か?いや、そこまでは期待しないほうが良いか。でもちょっとは面白くなりそうだ。私は言った。


「ちょっと刺激が欲しいと思っていたところなの。演技が必要なところになったら、代わってね」


 そうして、私たちは全世界に放映されるための準備を、テロリスト集団を騙して行うのであった。

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