<66> 目の見えない女性に会う【前編】
僕とリサは、大田慶介副社長の恋する相手に会いに行った。中島ゆりさんだ。
知り合いの妹、中島ゆりさんについて大田副社長から詳細を聞いた。さすがは好きな人のことだけあって、細かく把握している。一歩間違えばストーカーだ。
「リサ、たしかこの家で間違いないよね」
「うん。間違いない。目が見えなくなってから、今、仕事はしてないのよね」
「そうだったね。この時間から、出かけることが多いんだって。毎日外を歩く訓練をしてるみたい」
それから、僕とリサはその人が出かけるのを待った。表札を見ると中島と書いてある。30分ぐらい待ったところでドアが開き、若い女性が白い杖にサングラスの姿で出てきた。その女性が杖をつきながら歩き始めた。
僕たちは、目が見えない彼女についていく。目が見えないから、隠れる必要はないのに、なぜか隠れるように行動してしまう。
「やはり美人ね。思ったとおり」
「そ……そう? いや……リサのほうが美人だけどね」
「本当かしら。まあ、いいわ。太郎が他の女の人を褒めるのはあまり気分がよくないから」
「…………」
あぶない……。うっかりそうだねって言いそうになった。意外とリサは独占欲強いから、他の女性を褒めるのは厳禁なんだよな。それにしても、美人ではある。悲観的な感じでもなく、現状を受け入れ、克服していこうとしているように見える。そうだ。あの人なら、魔法が使えるようになるんじゃないかな。
「ね、リサ。思ったんだけど。あの人って、現状を悲観したり、相手を恨んだりしてないよね」
「そうね。それがどうしたの?」
「つまり、異世界につれて行ったら、魔法の適正があるんじゃないかと思って」
「信じてくれるかしら」
「そこで、大田副社長の出番だ。知り合いから言われたら、信用してもらえるんじゃないかな?」
「なるほどね。それはそうかも。それでも信じてくれないかもだけど」
僕は、確かに信用してもらえないかもと思った。まあ、常識的に言って異世界?なにそれって感じだよな。目が見えれば異世界であることがわかるが、目が見えないとそれもわからない。困った。
目の見えない女性、中島さんが歩いている時に、3人の男性がニヤニヤしながら近づいていった。何か企んでいるのかな?これは助けなきゃ。
「リサ……あれ、危ないんじゃない?」
「そうね。行ってみましょう」
思った通り、わざと男たちは中島さんにぶつかった。倒れそうになる中島さんを僕とリサでキャッチ。リサは怒鳴った。
「あなたたち、危ないじゃない。どうして目が見えないとわかっている人にぶつかったの?」
男たちは、リサと僕を見て、弱そうと思ったに違いない。思ったとおり威嚇してきた。
「俺たちに何か文句でもあんのかよ。ぶつかったのはお互い様ってやつだろ? ふざけたこと言って痛い目を見たいのか?」
「殴りたければどうぞご自由に。あ、顔はやめてね。この辺なら殴るなり刺すなりどうぞ」
「この女、頭おかしいんじゃねえの? 刺すなりどうぞって……」
リサは、冗談で言っているわけではなく、特殊防弾チョッキを着ているので、刺されてもダメージを受けることはないだろう。
「僕も、別に顔でなければ、蹴るなり銃で撃つなりどうぞ。でも、この女の人には何もしないでね」
リサにばかり言わせておくわけにもいかないので、僕も発言した。リサと僕はお互いに、いや私に、いや僕にと、殴られたり蹴られたり刺されたり撃たれたりする権利を主張した。それにしても、こんなタイミングで襲われるというのは、作為的なものを感じるのだが……まさか……ジンが何かしたかも。
相手が僕めがけて蹴ってきた。遅い。ファミルの蹴りを見ているからだと思うが、すごく遅い。反射でよけてしまった。
「ごめん。あまりに遅くて避けちゃった。こんどはちゃんと受けるから、まじめにやってね」
「なんだと、このやろう!」
すごい怒らせちゃったかな?でも本当に遅くて。3人が僕に殴りかかってきたけど、あくびが出るくらい遅い。これじゃ、避けちゃうよ。ごめん。無理。
「避けないって言ったけど、やっぱりごめん。遅すぎて、つい反射でよけちゃうんだ。これじゃ全然だめだね」
「くそう……じゃ、女のほうをやるぞ」
と言って、今度はリサを殴ろうとし始めたが、リサもあまりに遅くて、殴られる気にならないようだ。
「ごめん。服が汚れちゃうから、つい避けちゃう。それにしても、遅い攻撃ね」
僕とリサが遅いと連発するので、男たちもショックを受けているようだ。覚えてろよとか、よくわからないセリフを言って、どこかに行ってしまった。僕は中島さんに決まり文句を言った。
「お嬢さん。お怪我はありませんか?」
「はい、……あ、あなたたちは?」
「私たちは、そうね、太郎……大田さんに電話してみて」
「わかった。電話してみる」
僕は、大田副社長に電話した。そしてつながった。
「田中です。実は中島ゆりさんが襲われそうになったところを、たまたまなんだけど、ちょうど助けたんで、連絡したんだけど、今いいかな?」
「中島ゆりさんが襲われた?」
「とにかく、ゆりさんと代わるね」
僕は、中島ゆりさんに電話を渡した。彼女は、電話を渡されて驚いているようだった。
「ゆりさん、大田です。大丈夫でしたか?」
「大田さんって慶介さんですね? お久しぶりです。驚きました。助けてくれた人って慶介さんの知り合いの人だったんですね」
「うん。田中さんが社長なんだ」
「あら、社長さんなんですか? 社長の田中さんって……あの有名な?」
「そうだけど、でも本当に大丈夫だった?」
「はい。倒れそうになった時に支えてもらったんで平気です」
「それはよかった……。いや、社長から電話だと思って出たけど、今、会議中でね。また、こちらから電話していいかな?」
「はい。電話待ってますね。それではまた」
忙しい中でも、僕の電話なら出てくれるから助かる。でも会議中だったんだ。忙しいのに、やはり好きな人との電話は会議より優先されるよね。
さて、ここからどうやって異世界への案内をしようかな? 僕はリサを見て、どうしようと目で訴えた。
「まずはどこか、お店に入ってゆっくり中島ゆりさんと話をしよう。」
「そうだね。中島さん? 僕たち中島さんに頼みたいことがあるんだけど、ちょっといいですか?」
「食事は太郎がなんでも全部おごってくれるから、高いの選んでいいよ。好きなお店があれば、言ってみて。予算はたぶん三十万円ぐらいなら現金で払えるよね。」
「四百万円ぐらいなら大丈夫だけど?」
「それはおかしいから。逆に恐いから」
「あのぉ……三十万円でも恐いんですけど……」
「ごめんなさい。最近、金銭感覚おかしいかも。太郎のせいですけど。つまり、金額は気にせずに奢らせて下さいということで、……どうかな? ……一緒に食事してくれるかな」
リサが聞いてみたら、中島さんはハンバーガーを食べたいということだったので、希望にあう店に入ったのだった。視覚を失ってから、味覚に変化があり、以前あまり好きではなかったハンバーガーが今は好物なのだそうだ。少し落ち着いてから、僕たちは目的の話をし始めた。




