<65> カイトのテレビ放映計画とリサとのデート
少し前のことだが、カイトがテレビ放送を考えていると言った。何をするつもりなのかと聞いたら、まずは視聴率が取れるかどうかファミルとナンシーに活躍してもらって様子を見ると言っていた。
結果は、世界的なニュースとなり、予想を上回る大成功だ。
それでいよいよ、放送開始に乗り出すのだそうだ。僕にはカイトがやろうとしていることがまだ見えない。全世界から有能な医者を集めるためのTV放送も同時に行う。将来の名医となる医者の卵も募集する。魔法は最終手段であり、基本は技術力で治す。その技術に関しての情報は惜しげもなく開放する。
TV放映に関しての番組構成に関しての打ち合わせは、青木さんの中にカイトが入り、松井さんの中にキャサリンが入り、あとファミル(ナンシー)との三人で行うことになった。そちらは、もうお任せする。最終の打ち合わせまでは、僕は打ち合わせに入らないことになった。
今日は、リサとデートである。最近忙しくてリサと会話する時間が少し減っていたので、それを挽回しようと思っている。しかし、リサも僕も日本では有名人だったりするので、今日は日本ではなくルカナンでデートだ。
ユーナスでは、僕たちは無名ではないが、顔を知っている人はほとんどいない。TV放送とかないし、写真もない。絵画はあるが、僕たちの肖像画は世に出回っていない。だから、知っている人はあまりいないので大丈夫だ。
今、僕たちは喫茶店のような場所で、飲み物を飲みながら会話している。ここには自分たち以外にもお客がたくさんいるが、恋人同士がデートでよく使う場所だ。だから、リサと仲良くしていてもそれほど目立たない。この店は料金を多く払うと、景色の良い席を提供してくれるので、三十万Gの料金を払い、最高の席を用意してもらった。
「リサ、……今日も……か……かわいいね」
「た……太郎も……その……素敵ね」
お互いに、相手を褒めるのは慣れていない。とにかく恋人同士のデートなので、リサの隣に座って手をつないだ。デートだからね。リサが手を握り返した。体に電気が走ったような感覚を覚えた。リサの手が気持ちいい。
「カイトがTV放送を始める予定らしいんだけど、リサはカイトが何を考えているかわかる?」
「ん……それはよくわからないわね。ジンも必要最小限にしか教えてくれないし、ファミルが凶悪犯に襲われた事件と関係しているようだけど。それにしても、本当は襲われたふりだったけど、ニュースでは意識不明の重体から奇跡的に一命を取り止めたことになっていたわね。……あれ、完全な情報操作だったけど、問題にならないの?」
「救急車は本物ではなくてTV撮影用だし、完全に最初から全部仕組まれたものだったらしいね。事件があったら、血を流して大怪我する演技するから撮影よろしくってスタッフに言っていたんだって」
「犯人はあれからどうなったの?」
「殺人未遂ではあるけど、本人が反省しているのが認められたのと、刺された本人が許すと言っている関係上、比較的軽い罪で済むらしい。大怪我をしている演技をしながらファミル(ナンシー)が一度犯人に面会に行っているんだ。犯人も憑き物が落ちた純粋な目をしていて、犯人に入っていた悪霊も、今は良い霊に変わって霊界でアル・カポネの対抗勢力の集団の一員になっているんだって」
「そんな集団を作ってるの?」
「現在、会員は十名。前回僕たちが助けた元悪霊もそこにいる。この前のニュースを見て協力したいという霊が他に七人、それとレイガがその集団の会長で合計十名なんだって。」
「まだ、少ないけどこれから増えそうね」
「あ……カイトがテレビでやろうとしていることが、ちょっとわかったかも」
リサの説明によれば、(ジンから聞いたそうだが)TV放送というのは、そうとうな数の霊も見ているそうで、もし悪霊が人間の中に入っている状態でTVを見て感動し、心を入れ替えれば悪霊としての活動はできなくなるので、その状態の霊を見つけてスカウトし、集団に加えれば会員の拡大になるそうだ。
僕もちょっとわかってきたかもしれない。つまり、一人を救う活動を全世界に放映して、多くの人を感動させる。それで、TVを見ていた人の中に悪霊がいて、改心できたらスカウトする。今の会員十名が十人をスカウトすると二十名となるが、次の放送で二十名が二十人をスカウトすると四十名。四十名が八十名……十回で約一万名と増えたとして、会員拡大が二十四回の放送で約一億人ぐらいになる計算だ。
しかも、これは少なく見積もっての計算だ。前回おそらくレイガともう一人の元悪霊がスカウトして今結果的に十名いるのだから、一人が一人だけスカウトするというのは、低く見積もっての計算だ。
だから、カイトは、二十四回の放送でアル・カポネの集団を超える数の集団を作り、対抗するのと、地上でも、元悪人をスカウトして、全世界に配置させ、いつでもどこでも対抗できるようにするつもりだろう。
心理学でも役割理論というのがあると聞いたことがある。悪人も、善なる役割を与えれば、善人としての活動を行うことが期待される。だから、元悪人をスカウトして、善なる役割を与えることが世の中から悪人を減らすことにつながる。
だから、ファミル(ナンシー)は面会に行ったんだな。スカウトのために。なるほど、だんだん見えてきた。そういうことか。
「リサ、ありがとう。ようやくわかってきたよ。これからカイトが何をしようとしているのか」
「元は、私のことを調べてのことだったよね。……太郎?……その……思うんだけど……完全にカイトに利用されてない?それに……お金も太郎が出したんだよね」
心配そうに僕を見るリサ。すみませんがとても可愛いです。光を反射する黒髪も、その目も……。リサが自分の恋人でよかった。自分の恋人でなかったら、僕がリサのストーカーになって、いづれは犯罪者になってた可能性もゼロではない。
「僕は利用されてるかもしれないけど、僕の目的に反しているわけではないし、五百億円程度しか払っていないから、全然問題ないよ」
「その……五百億円程度ってのが、よくわからないけど、太郎にとっては大金ではないという意味なのよね」
「リサのためなら、一兆円でも惜しくはないと思う」
「ひぁぇ? ……ごめん。びっくりして変な声がでて……。……え? ……1兆円? 桁が多すぎて何言ってるかよくわからない……」
「でも、まあ本心だから。リサのためなら、そのぐらい犠牲にすら感じないよ」
僕は本当にそう思っている。
リサは、僕の隣に座っていたが、もっと近づいて僕にくっつくと、リサの頭を僕の肩に乗せたのだった。気持ちいいけど、僕には刺激が強すぎる。リサのいい匂いとの相乗効果でしばらく興奮状態に陥る。リサの髪の毛が僕の肌を刺激してくすぐったい。リサも気持ちよさそうにしているので、これはこれで……いい? ……いいよね?
今日は人生で最高の日だ!
と僕は心の中で思ったのだった。




