<37> ルカナンに萌えの文明開化
リサとタロウが家に来てからもう何カ月になるかな。リサの父親として、タロウとの接し方を心配していたが、タロウとはそんな心配をする必要がなかった。なにしろ、この絵だ。この絵を描いて画商に持っていたら、今まで描いた絵の十倍の値がついた。そして、もっと描いてくれと注文が殺到した。
もちろん、この絵に対して酷評する人も多い。しかし、それ以上に需要のある絵なので、新しい分野の一つとして認めざるを得ない状況となっている。
タロウより、この絵は私が考えたことにして欲しいと希望されており、そのことに対してはむしろ感謝している。それに、今までも貧しかったわけではないが、今描いている絵が過去に私が描いた絵の十倍の価値となるのは嬉しい誤算だ。
私の今後のスタイルはこの絵で行く。萌文化の始まりだ。
それにしても、私の絵を模倣する者が少なくない。まだ、それほどレベルの高い作品は出ていないので、現時点では問題ないが、難易度はそれほど高くない絵なので、おそらく値崩れする日もそう遠くないだろう。そうなったらそうなったで、悲観的に考える必要はないだろう。今が十倍の価値があるだけで、これは一時的なものと考えよう。自分が本当に考えて描いたものなら怒りもするが、元々これはタロウの絵だ。だから、この絵が世の中に浸透することに、余計な欲望を持つと罰が当たると思う。
だから、模倣する人には寛容であろう。むしろ、この絵を模倣することを推奨するのはどうだろう。新しい文化として定着させるのだ。それに値崩れしても需要はいくらでもある。私の描く絵にはオリジナルとしての付加価値もある。だから、心配せずに模倣を推奨しよう。
そうと決まったら、萌絵大会を開こう。よい作品をみんなで投票して選ぶ。それを全世界に報告するのだ。そうすると、ルカナンだけでなく、世界中に萌文化が浸透する。タロウの世界では既に常識の萌文化を、遅れながらにも、この世界に広めよう。
そうと決まったら、タロウに相談だ。このようなことをタロウに言わずに勝手にやるわけにはいかない。タロウは何と言うだろうか。きっと賛成してくれるに違いない。
気分が高揚した私は叫んだ。
「世界よ! 括目せよ。今こそ萌えの文明開化の始まりだ」
妻に怒られた。……ごめんなさい。もう変なことは叫びません。そして、次にタロウが来るのを楽しみにするのであった。




