<38> ジンのジレンマ
俺は天使なのだが、誰も天使だとは思っていない。天使だと思ってくれないのだ。ジンという存在を聞いたことのある人は多いと思う。妖魔とか魔人とか、アラジンと魔法のランプは有名だろう。他にもいろんな物語に登場している。そのジンはたくさんいると思われているが、全部俺なんだ。俺の声が聞こえるわずかな人たちが、長い歴史の中で語られた存在。それがジンであり俺だ。
誰か一人でも俺が天使だと信じて欲しい。ずっとそう思っていた。長いことそう思って生きてきた俺だが、とうとう俺が天使だと分かってくれた人に出会えた。
今のリサであり、転生前の名前は白神響子だ。
響子と初めて出会った時、信じられないことに響子は俺の声が聞こえるだけではなく、俺の姿も見えるという。そして言った。
「あなたは、……天使なんでしょう?」
俺は、長いこと天使として生きてきて、天使だと認識してくれる存在を探していた。ミカエルとかガブリエルなんか、誰が見ても天使だって認識してくれるのに、俺は妖魔? 魔人? ふざけんな。そうずっと長いこと思ってたんだ。
俺は、何千年もの間探していた存在に出会えた。気がついたら泣いてたね。
俺はそれからというもの、響子の近くにいた。響子のために何かしたいと思った。何千年も探していた俺のことを理解してくれる存在。俺は失いたくなかった。
でも、響子は先祖の罪により十二歳までしか生きられない。因果応報には逆らえない。一秒でも長くずっと、……ずっと一緒にいたかった。俺は悩んだ。神様に訴えた。もちろんだめだったが、何とか方法を探した。
十二歳になる日が近づくにつれ、俺は本当に焦った。響子には十二歳までしか生きられないことを言えない。響子と別れたくない。そしてあの事件が起こった。響子が死ぬ。予定より二日早く死ぬ。そんなの嫌だ。俺はとにかく俺の声を聞けるやつを探した。
そしたら、俺の声を聞けるやつが近くにいた。太郎だ。
しかも太郎は響子に恋心を抱いている。奇跡だ。まあ、神様が準備していてくれたのだろうが、それでも俺は興奮していた。何しろ響子を助けられるかもしれない。俺は俺に許される全てを使って神様に訴えた。太郎に奇跡のポイントを与えて欲しい。俺の今までの全ての善行のポイントを太郎に渡して欲しい。俺のポイントは百ポイントしかないが、それを太郎に渡して欲しいと願った。
ところが、神様は俺のポイントを渡すのではなく、太郎自身のポイントを千ポイント前払いすることを許可してくれた。つまり、俺のポイントではなく完全に太郎のポイントだ。
本当であれば、俺のポイントを渡して、それで響子を転生させたかった。そうすれば俺は何の負債もなく太郎にお願いできる。
でも、神様はそれを許可してくれなかった。これの意味するところは俺にはわからない。神様の考えは俺には深淵過ぎて理解できないが、それでもポイントを太郎が持つことに変わりない。
俺は太郎の恋心を利用した。だが、それしか方法がないのだから心を鬼にして太郎にお願いした。
ポイントを前借りするというのが許可されることは通常ない。それは確実に言える。でも、神様が俺を見て哀れに思い特別に許可してくれた。もちろんそれだけの理由ではないだろうが、俺は感謝したね。それで、俺は太郎に言った。
『もう、長くはもたない。なあ、あんた響子と同じクラスの田中太郎だよな。お願いがあるんだが、この子と俺は友達なんだ。だからこのまま死なせたくはない。あんたに特別な力となるポイントを割り振れるよう神様にお願いしてみるから、それで響子を転生させてほしい。お願いできるか?』
太郎は迷うことなく、響子を転生させることを承諾してくれた。そして信じられないことに太郎も俺のことを天使として受け入れてくれている。一応天使だなんて自分で言ったのにも関わらずだ。俺は、その後響子が誰かに崖から落とされたことを説明した。誰かはわかっている。しかしそれを教えることは許可されていないから、教えることはできない。教えて問題ない範囲で太郎に教えると、太郎は怒った。許せないと言った。
そして、異世界転移能力が欲しいと言った。
ポイントが全然足りない。その足りないポイントを、自分の記憶や人生を犠牲にしてでも手に入れたいというのだから、信じられない。俺は太郎に全面的に強力するつもりだ。でも、最低十五年間は太郎に協力できない。会うこともできない。太郎は自分の人生を犠牲にして、転生した響子に会えるよう願った。それだけでなく、この事件について納得のいく解決を願った。
その後の太郎の筆舌に尽くし難い十五年間を過ごした。俺は太郎の助けに入ることも存在を知られることも許されず、見守るしかできなかった。
そして願いは叶えられた。劣化版の異世界転移能力を得るに至った。
俺は、神様にお願いした。何が何でもこれだけは受け入れてくれないと俺は太郎に申し訳なくて会うことができない。俺の貯めたポイント二百ポイントを全部太郎にあげて欲しい。そうしないと、太郎が響子のために百ポイント使ってくれた恩を返せない。
神様は初めからそうするつもりだったようだ。俺のポイントを転移した太郎にあっさり渡してくれた。
拍子抜けしたが、これで堂々と太郎に会える。
太郎は俺のことを覚えていないけど、俺は忘れていないからな。そう思って、太郎に近づいたのだった。俺は思わずニヤニヤしてしまったが、どうせ太郎には俺の姿は見えない。




