第六話 しかし、調査は続いていた
いち早く国策として、積極的に調査に乗り出したところもある。そして、その情報は世界に共有されたのかな? 否 その国に秘匿された。
自由圏の国々も、遅れ馳せながら調査を進めることになった。
まず、ドローンを飛ばしての観察では、”膜に奥はなく、その先は見えない”という不思議な画像を持ち帰った。
次に、物を投げ込んでみた。生き物を投げ込んでみた。それらは、そのまま膜の後ろに現れた。
膜は障害でもなく、波打つこともなく、何の反応もなかった。
そう、どこにでも馬鹿げたことをする者がいる。ある国の軍隊が爆弾を投じたのだ。結果は素通りして何も反応がなかった。次は核弾頭をぶち込んだ。結果は『黒い膜』を通過して、すぐに爆発し、その地域が死滅した。馬鹿だ。ばかだ。バカだ。
ある組織がヘリコプターで近づき、人を膜に押し込んだ。
それは、劇的な反応をした。
そう、膜を通過せずに、見えなくなった。永遠に。
続いて、次々と押し込んで見たが、7割ほどが膜の向こう側に消えた。不思議だ。
予想しないことを誘発させないために、『黒い膜』は世界の管理下に置かれることになった。特に地上からの距離が近いところには、防護柵と監視員が置かれた。
『黒い膜』は移動せず静止しているので、その下に侵入防止策を2重に置かれた。例えば地上100メートルまでは、半径100メートルの防護柵、それ以上は監視カメラと排除装置が置かれた。
調査機関が設立された
A国大統領が『国際研究機関』に管理と調査を任せると公知したことにより、各国も追随した。そして、『未知のゲート管理研究所』と呼ばれ、世界で管理されることになった。
そして初代の所長にはB国から涸沢五郎が選ばれた。
涸沢五郎は、世間に『黒い膜』存在を知らしめた涸沢まゆみの夫である。
いや、発見者は自称カメラマンである自松英恵であるが、広めたのは自松の友人である涸沢まゆみだった。
もっとも間近に調査できるのは、イースタン島のモアイの横にある『黒い膜』だ。
世界から多くの研究者や報道機関が小さな島に押し寄せた。
涸沢が寝起きする研究所も併設されている。
現地は、てんやわんやで力押ししようとする輩が続出し、頭にきたチリル共和国が周辺を閉鎖した。それでも潜り込もうとするので、全員国外退去を言い渡すほどになった。
しかし、チリル共和国も自力で調査ができるわけもないので、『国際研究機関』から調査員を派遣してもらった。調査団は15名。団長は涸沢五郎がじきじき出向いてきた。
その調査結果は、インターネットを介して全世界に等しく伝えることとなった。
涸沢は思いつくままに調査を開始した。このような未知のものに対しては思い付きは大事だ。しかし、危険が伴うかもしれないので、慎重には慎重を重ねて事に当たっている。
私(涸沢)は、モアイの横の『黒い膜』の前に来ている。
『黒い膜』は半径50メートルのドームと、半径200メートルのドームの2重になっており、その中に収まっている。出入り口のドアは厳重に管理されており、涸沢でも生体認証など複数の認証システムをクリアしないと中には入れない。
私は、まず触ってみた。
縁と思われるところを擦っても縁を感じない。手を中心に向けて動かすと、『黒い膜』の方では、手の部分が切れて浮いたように見える。反対側からは、普通に手の全体が見える。
黒いものは質感が全くない。
黒いほうから、手を差し込むと反対側に通り抜ける。
さて、果物ナイフで突くと、裏側に切っ先が出てくる、拳を突っ込むと素通りする。木の枝を突っ込むと同じように素通りする。『黒い膜』は破れもせず元の状態に戻った。
「これこれ、佐伯君こちらへ」
「何ですか? 所長」
私は、研究員の佐伯君で実験することにした。
中へ引きずり込まれないように、佐伯君の腰にベルトと付けてもらい、それにロープを付けて、私が握っている。
「佐伯君、そこの膜に手を入れてくれんか?」
「あのー、これって、いやですよ!」
「まあまあ、ちゃんとロープは握っているので、もしかのときは引っ張って助けるよ」
「いやいや!」
と言い放つ佐伯君の手を無理やり掴んで、膜の中へ投じたのだ。
私の手は、通過すのに佐伯君の手は、消えた。
「「「おぉぉ・・」」」
いつの間にか他の研究員が集まっていた。
これ幸いに、次々と研究員を捕まえて、腕を膜の中へ。
結局、佐伯君のみが膜の向こうに消えることがわかった。
で、その法則は如何に?
犬や猫、馬なども同様に素通りしてしまった。
金属も色々テストをしてみた。鉄や銅などは素通りしたが、アルミニウムはゲートの向こうに消えた。
人はどうだろうかと、でも向こうの安全が保証されないテストは人道的に許されない。
涸沢は被験者をロープで結わえて、身体の一部を通してみたが、あまり褒められた行為ではない。
ある国では、強制的に人を潜らせようとしたそうだが、素通りしたと報告があった。しかし、同国の科学者からの漏れてくる噂では、『黒い膜』に消えたケースもあったそうだ。
もっとも、武器や火器などは素通りした。
電卓、スマホ、ノートパソコンなど電子機器も素通りした。
涸沢は、様々なテストを行い、方向性を探った。
研究員を集めて、ブレーンストーミングをやっても見た。
結果で、一番重要なのは悪意あるものではないということが、共通した認識となった。
ここは、国際研究機関の報告会である。
各国の研究者から、次々と報告があった。
『未知のゲート』の分布を見て欲しい。多くは都市に集中している。
さらに、経済の活性度が見えると言われる衛星から夜の輝きを重ねてみると、確かに文明の強弱によって分布している。『未知のゲート』を出現させた者は、我々の地球を見ており、文明を計測する手段を持っていると考えたい。『黒い膜』すなわち『未知のゲート』の向こうは我々と同等、それ以上の文明を持つ世界があると言えないだろうか?
『未知のゲート』を発見して、10ヶ月が過ぎたが、『未知のゲート』からの侵入や攻撃がない。高度な文明があるにも関わらず、侵略の意図はないと。
楽観的すぎるのだろうか?




