第二十四話 『黒い膜』から新しい世界へ
前を行くイチローの肩越しに、灰色の道が見える。左右には白い霧のようだ。幼子が、道を逸れてみようとしたら、柔らかい何かに押し戻されたようだ。
「何か、柔らかい壁にぶつかったみたい」
「おいおい、あぶねーよ」
小さな子供は予想外の行動をするものだ。
10分ほど歩くと、前方に白いドアが見えた。イチローが前に出てドアの前に立つと、左右に自動で開いた。全員がドアを通って、前に出ると、
「「「うわー!」」」
目の前に緑の草原が広がっていた。
清々しい草原の匂いが、そよ風に乗って我々の鼻孔をくすぐる。
来たよ! 最善の結果を迎えることができた。
うれしい。
我々は、しばらく呆然と立ち尽くした。
そして、最初の一歩をイチローが進めた。ユウ、大宮くんと手を引かれたココロ、サトシ。最後に僕が荷車を曳いて草原に足を進めた。カレンもおとなしく従っている。
一度、皆を集めて異常の有無を確かめる。大宮くんが幼子の手を握っている。
とにかく、即死は免れたようだ。やはり、悪意は無かった。
そこは広い草原だった。南北はわからないが、前方の遠くに海らしき青いところが見える。後ろにはブッシュとその先には森がある。そして見上げるほどの大きな山々が迫っている。
真上に太陽がある。といっても眩しいので、ちらっと見ると3つあるようだ。時間を置いて再度見てみると位置が変わっている。巴に回っているようだ。一つは白く、2つ目は黄色、3つ目は青く光っている。
右のほうに目を向けると、大きな白い球体が見える。地球で見かける昼間の月のようなもの。あぁ、あれはきっとこの星の月なんだ。
空は青い。白い雲が流れてゆくのも、地球と変わりない。そうだ、ほとんど地球の環境そのものと言える。
万歳だ。
さて、引いてきたリヤカーの中身を大まかに確認する。大丈夫だ。積んだそのものがあるようだ。
『黑い膜』を通過できなかったものはなさそうだ。
それと、カレン。ユウに引かれて一緒に潜ってこれた。
子供たちは大人しく座って空を眺めていた。イチローとユウは右へ左へとうろうろしている。
20分ほど、周囲に見惚れた時を見計らって、
「おーい。皆集まって!」俺は皆に声をかけた。
「幸い即死することもなく、新たな地にたどり着くことができた」
「「「おぉぉ」」」
「ワン、ワン」
急いては事を仕損じる。
「とりあえず、お茶にしようか?」
荷車から、テーブルと椅子、コップ、ヤカン、コンロ、茶葉などを取り出して、お茶会の準備をする。
茶葉は『ほうじ茶』。子供が居るからね。
(クッキーもあるからねと、ココロちゃんが荷物の中から取り出した)
皆、それぞれ自分のカップを持って、ほうじ茶を満たし椅子に座った。
カレンにも水とジャーキーを一つ与えた。
「そこでだ、俺の使命は皆と一緒に『黒い膜』を潜行することだった。今こうやって、新しい世界に着いた訳で、俺の使命は終わった。だから、皆自由だ」
(夢は手繰り寄せて手にするものだ。手に入らないものは夢ではなく単に妄想だ。夢に淡い幻想を抱く、それは妄想そのものではないか。我々は、今日ここに夢を手繰り寄せることができた。はて?、では我々が選ばれた理由はなんだったの?)




