第二十一話 実際に『黒い膜』を触ってみることにした。
ここは、日本の南500キロメートルにある洋上施設。周囲10キロメートルの浮き島だ。
3000メートルの滑走路や研究者用の住居、要人や観光客用にホテルが建っている。
東の端には、直径300メートルの円柱が伸びて、上空100メートルにある『黒い膜』に達している。
円柱の中にはエレベータが10基ほど稼働している。また頂上にはヘリポートや研究棟がある。
そして、『黒い膜』は空間に固定されている。浮島は波や潮の影響で左右上下に動く。その差を測定には超音波を使っている。『黒い膜』は光や電磁波は『黒い膜』に吸収されるため、反射からその動きを知ることができない。25kHzから30kHzの超音波は反射する。
今日も、観光客がわんさかやってくる。そう、観光だよ。
『黒い膜』をぐるっと半径200メートルで観覧通路がある。およそ5分で一周するようになっている。
『黒い膜』の側には、観光客が不用意に近づけないように丈夫な柵がある。
この5分のために、本土から飛行機でやってくる。費用は一人20万円。高いかって? まあ、見るだけで20万は高いよね。
それでも、3か月経った今でも大盛況だ。
今、タイムズのメンバー6人は、『黒い膜』の前に立っている。
不用意に取り込まれないように全員命綱を付けた。
『黒い膜』は直径5メートルほどで、表面は真っ黒で反射光もなく、どこが表面かもわからない。
膜と言うものの、表面がぱたぱたと揺らいでおらず、黒い硬質な感じがする。
反対側に回ると、命綱を付けたメンバーの5人、警護の人と、その後ろの空と海が見える。
すなわち、『黒い膜』の反対は透明で、手をかざしても膜の存在はうかがえない。
「さあ、触ってみようか」と言って、俺は『黒い膜』に手を伸ばした。
大宮君とココロちゃんが手を伸ばす。
イチロー、ユウ、サトシも手を伸ばした。
それぞれの手が、『黒い膜』に切られたように見えた。切られた実感はない。
全員潜行できる。
「やわらかったね」
「手がなくなったのかと、ちょっとびっくりしたよ」
「同じ空気を肌に感じたわ」
「頭を入れてみたけど、真っ暗で何も見えなかったよ」
「そうそう、ぶーーんって、小さな音が聞こえたよ」
「空気があって、清々しい感じがしたわ」
ここは、『黒い膜』の横にある、観測室。
前回は見るだけだったけれど、今回はちょっと冒険をしてみた。頭を少しづつ入れてみた。
引っ張られるような感じがしたら、そこで止まることで、中を覗いてみた。
手に受ける感触は、暖かく空を掴むようであり、顔を入れても息ができた。何も違和感や恐怖を感じることはなかった。
続いて、犬のカレンの手を握って、『黒い膜』の反応を見た。
合格だ。俺の手と一緒にカレンの足が『黒い膜』の向こうに入った。
ココロもサトシも大喜びだ。これで、周囲の警戒やちょっとした防御力を手に入れることができた。
10日後には、全身で潜る本番のスケジュールだ。それまでに、疑念や恐怖を少しでも緩和しておきたい。
きっと、あの『黒い膜』の先には、青い空と緑の地がある。そう信じたい。




