第二十話 心残りはないか?
大宮ケイコには、AIの小型ロボット『ナナ』が腰にしがみ付いている。というか、腰のホルダーに装着されている。
彼女が外科医として成功しているのは、この『ナナ』の助言が大きい。ナナは、世界の医療情報にアクセスでき最善のオペを組み立てることができる。それを具現化するのは大宮の技術力である。
ケイコとナナは一心同体の関係にあって、多くの難題を二人で解決してきた。
しかし、あの向こうには連れてゆけないかもしれない。いや、電子機器は拒絶されると報告が多数ある。
(どうせ、振り落とされてよく知らない人に拾われるよりは、後輩に任せよう)
と、大宮は後輩を呼んで、ナナの引継ぎを行った。
「先輩、本当に『黒い膜』の向こうに行かれるのですか?」
「ああ、こちらでやるべきことはやり終えた。新しい世界で可能性を追求したいんだ。ナナのことを頼む」
一方、イチローはというと、家族そろって明るく会話が進んでいる。
一番難関と思われていた母親が、諸手を挙げて賛成したことで家族内の憂いが払拭された。
「見知らぬ土地に行くのだから、身体だけは大切にね。生水は飲まないようにね・・・・・」といろいろご指導ご鞭撻をいただいた。うん、硬い。
「お兄ちゃん、また会えるよね・・・」
「ああ、きっと会えるよ。根拠は無いけれど、約束はしよう」
大宮ケイコの手をしっかり握っているココロちゃんに聞いてみた。
「ココロちゃん、これから皆で遠くに行くのだけれども、何かモヤっとすることないかな?。遊びに行きたかったところとか、食べたかったものとか?」
「うーん、ケイコが一緒なら・・・問題ないよ!」
サトシはどうかな?
「僕は、どうでもいいや! ここにいても楽しいことはないし、このままだと2年後には寿命が尽きるらしいから」
「そうか。お父さんやお母さんに,やってほしいことはないかな?」
「無いよ」
(サトシは天才級で、子供ながら人生を達観したような表情を隠さない子だ。執着が無いということだろうか、諦めではないことを祈ろう)
ユウは?
「まあ、そうね。友達にお別れは言いたいわ。きっとびっくりすると思うけれど、付いてくるとは言わないと思う。適当?。あっ、そうそう、高校二年の時、告ってきたのが居たわ。彼は良い人だったから、挨拶はしておこうかな」
「家族にメッセージは?」
「不要ね。崩壊しているから」
イチローは、このプロジェクトに前のめりだったよね。両親の理解もあったと聞いているが。
「妹が。いやいやシスコンではないよ。寂しそうな顔をするので、ちょっと胸がチクッとするかな」
「再び会えるかどうかはわからないし、絶対は無いよ。必要な希望はプラスの方向だよ」
「うん、そうだね」
そういう俺は、『老人の余生は自由』だって。
(ごまかしておこう)




