第四話【 害虫駆除と、深夜の飼育時間 】
俺は残りのワインを飲み干し、
ふっと息を吐く。
「やれやれ、せっかくの
ヒュッゲな夜を邪魔しやがって」
俺の快適なスローライフと、
可愛いペット(女社長)を脅かす奴は、
誰であれ容赦なく叩き潰すまでだ。
翌朝──『吉沢不動産』本社ビル、
VIP応接室。
「いやあ、吉沢社長。英断ですよ。
これで御社のプライム市場での立場も、
明日の株価も守られたわけだ」
下品な笑みを浮かべ、
革張りのソファで深く脚を組むのは
『週刊新流』の記者・東条だ。
テーブルの上には、
彼が持ち込んだノートPCと、
内部告発者から入手したと主張する
「耐震偽装の告発ファイル」が
開かれている。
「……本当に、
このデータを消してくれれば、
記事は揉み消してくれるのね?」
デスク越しに、
吉沢美幸が青ざめた顔で訊ねる。
女優顔負けの必死な演技だ。
「もちろんですとも。
五千万円の『情報提供料』が
指定口座に入金され次第、
このUSBのデータも破棄します。
まあ、お互いビジネスですから──」
「そこまでだ、東条さん」
応接室の扉を静かに開け、俺は歩み出た。
手には、
先ほど出力したばかりの
厚い書類バインダーを抱えている。
「あ? なんだお前、秘書か?
今、社長と大事な話をしてるんだ。
失せろ」
「営業秘密の不正取得罪、
および恐喝未遂罪の構成要件が
完璧に成立しました。
ご協力ありがとうございます」
俺はニコリと微笑み、
タブレット端末の画面を
東条に突きつけた。
そこに表示されているのは、
この応接室の防犯カメラ映像と、
東条が
「五千万円で記事を揉み消す」と
要求した一連の音声波形データだ。
リアルタイムで
クラウドへ自動保存されている。
「な……ッ!?
てめえ、録音してやがったのか!?」
「それだけではありません。
あなたが『本物の証拠』と称して
提示しているそのデータですが……
ファイル構造と作成日時を
解析させていただきました。
それ、我が社の元社員が
腹いせに作成した
『ただの捏造数値』ですよ」
「は……? なに言って……」
「本物の耐震構造データは、
厳重な暗号化のもと、
社内の
最高セキュリティサーバにのみ
存在します。
あなたが持っているのは、
元社員が外部へ売ろうとして捏造した
偽文書だ。
つまりあなたは、
ガセネタをもとに
東証プライム上場企業を
恐喝したことになる」
東条の顔から一気に血の気が引いていく。
「くっ……ふざけるな!
警察を呼ぶ気か!?
タダじゃ済まさんぞ、
お前らの不正を全部──」
「どうぞ、
警察でも弁護士でもお呼びください。
ただし、あなたが今ここで
『自首』に応じない場合、
この音声データと恐喝の証拠を
そのまま警視庁捜査二課へ提出します。
……どうしますか?」
東条はガタガタと震え出し、
逃げるようにノートPCを引っつかんで
応接室から飛び出していった。
静まり返る応接室。
ガチャリと扉が閉まった瞬間──
美幸が
感極まったようなため息を漏らした。
「あぁ……すごい……っ。
あんなに威張っていた記者が、
一瞬で
ゴミみたいに追い払われるなんて……!」
美幸は震える手で自分の胸を抱きしめ、
うっとりと俺を見つめてくる。
「ご主人様……私、
またあなたに救われてしまったわ……っ。
私をこんなにも完璧に支配して、
守ってくれるなんて……っ!」
「勘違いするな、美幸」
俺は胸ポケットからメガネを外し、
静かに冷ややかな声を落とした。
「俺が守ったのは、お前ではなく
『俺の快適な生活』だ。
無能な飼い犬が
余計なハエを惹きつけたせいで、
俺の貴重な朝の時間が
二十分も潰れたんだぞ?」
「ひっ……! ご、ごめんなさい……っ!」
美幸は歓喜に顔を歪めながら、
その場でバサリと膝をついた。
高級スーツの膝を絨毯に擦り付け、
見上げてくる。
「お前には後で、たっぷり
『反省の補習』を受けてもらう。……
今日の夜、
社長室の鍵を閉めて待っていろ」
「はい……っ! 喜んで……ご主人様……っ!」
東証プライム企業のトップを
完全に膝下に屈服させ、
俺は軽やかに足取りを進める。
害虫は駆除した。
今夜もまた、
極上のヒュッゲな時間が待っている。
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午後九時。
静まり返った本社ビルの最上階。
俺は社長室の重厚なドアをノックし、
カードキーで解錠して足を踏み入れた。
室内は間接照明だけが仄暗く照らしている。
デスクの脇では、吉沢美幸が膝をつき、……。
明日、18:10 に第5話を投稿します。




