第二話【 社長室の『おしおき』と、甘い蜜 】
「ひっ……! ご、ごめんなさい……っ!」
俺の声が一変した瞬間、美幸の体が歓喜で跳ねた。
東証プライム上場企業のトップが、
ただの秘書課長の足元で、無様に喘ぎ始める。
さあ、今日の「ヒュッゲ(快適)」な勤務時間の始まりだ。
「返事が遅いぞ、美幸」
俺は革靴の先で、彼女の顎をクイと押し上げた。
上質なメイクが施された整った顔が持ち上がり、
濡れた瞳が俺を真っ直ぐに見つめ返す。
プライム上場企業のトップとして、
テレビや経済誌で持て囃されているカリスマ経営者の姿はここにはない。
「申し訳……ございません、ご主人様……っ!」
「お前が国土交通省の監査にビクついているせいで、
現場の社員が無駄な残業を強いられているんだ。
自分の無能さを自覚しろ」
「はい……っ! 私は愚かで、強欲で、無能な女です……っ!
だから、もっと……もっと酷い言葉で、私を咎めてください……!」
美幸はうっとりと瞳を閉じ、俺の靴先に頬を擦り寄せてくる。
その頬は赤く染まり、荒い息が俺の足元を濡らしていた。
(本当に、救いようのないドMだな)
俺は冷ややかに鼻で笑った。
前世、俺を過労死寸前まで追い詰めた時の彼女は、
冷酷無比で血も涙もない「悪魔」に見えた。
だが、弱みを握り、
裏の性癖を突いて立場を逆転させてみれば、
ただの哀れなペットに過ぎない。
俺は美幸の胸元をぐっと掴み上げ、ソファへと押し倒した。
「ひゃいっ……!?」
「いいか、美幸。
お前がどんなに強がり、不正で金を稼ごうが、
俺の許可なしに何もできない。
お前の命綱──あの耐震偽装の決定的なデータと
裏金台帳のパスワードを知っているのは俺だけだ。
俺がそれを一通、警察にメールするだけで、お前の人生は終わる」
美幸の体にピクッと戦慄が走る。
恐怖と、それ以上に膨れ上がる異常な快楽。
彼女はドレスの胸元を自ら乱しながら、狂おしそうに首を振った。
「嫌……っ! 警察は嫌……でも、
ご主人様にすべてを握られていると思うと……
頭が、おかしくなりそう……っ!」
「なら、大人しく俺の言いなりになれ。……
今月の俺の『特別経営指導手当』だが、
税込みで三百万上乗せしておけ。
断る権利はお前にはない」
「はい……っ! 今すぐ、経理に処理させます……!
だから、捨てないで……私を、ずっとお叱りください……っ!」
美幸はソファに顔を埋め、歓喜の悲鳴を上げた。
──十五分後。
「ふぅ……」
俺はネクタイを締め直し、胸ポケットにメガネを戻した。
顔つきをいつもの「従順で無害な秘書課長」へと切り替える。
ソファの上では、
すっかり「おしおき」を満喫した美幸が、
乱れた髪を直しながら幸福感に満ちた表情でため息をついていた。
「……すっきりしたわ。ありがとう、秘書課長」
「滅相もございません、吉沢社長。
すべては会社の発展と、社長のメンタルヘルスのためでございます」
俺はビジネスライクな笑顔を浮かべ、受話器を上げて社長室のロックを解除した。
ブラインドを開けると、眩しい太陽の光が室内に差し込む。
「では社長、私は本日、直帰とさせていただきます。
先ほど申請いたしました『特別手当』の承認と、経理への回覧をお願いいたします」
「ええ、分かったわ。……明日も、よろしく頼むわね」
美幸は社長の顔に戻り、満足気な笑みを浮かべて書類にサインを出した。
「失礼いたします」
社長室をあとにした俺は、そのままエレベーターに乗り込む。
今日の勤務時間はこれで終了だ。定時どころか、昼過ぎには退社である。
そのままタクシーを拾い、
会社が全額経費で用意してくれた港区の高級タワーマンションへ向かう。
前世では狭いワンルームでカップ麺をすすり、
午前様まで働いて命を落とした。
だが今や、
高給を取り、社長を裏で飼い慣らし、
極上の居心地を満喫する日々だ。
「さて……
今夜は取り寄せた高級ワインでも開けて、
ゆっくり映画でも見るか」
スマホに、経理部から
「特別手当の承認が完了しました」との通知が入る。
俺は小さく口角を上げ、午後の穏やかな街並みを眺めた。
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高級タワーマンションのベランダで、
バルセロナ産の赤ワインを傾ける。
眼下に広がる夜景を眺めながら、
俺は極上の時間を噛みしめていた。
手元には、経理から振り込まれた……。
明日、18:10 に、第3話を投稿します。




