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【完結】悪役令嬢の役立たずスキルで、婚約破棄された王子様を拾いました  作者: ましろゆきな
第五部:新しい王家 

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第四十七話 新しい王家の日常

 戴冠から、季節が一つ、巡ろうとしていた。


 アレクシスの日々は、儀礼と実務の両方に、忙しく彩られていた。重臣たちとの会議、地方からの陳情への対応。市井で見てきた暮らしの実感を、一つ一つ、具体的な政策へと落とし込んでいく作業は、決して容易ではなかった。


 それでも、その歩みは、確かなものだった。


 ある日の会議で、地方の代官から、税制の見直しを求める陳情が届いた。以前であれば、体裁だけを整えて、形式的に処理されていたであろう類のものだった。


「――この声を、無視するわけにはいかない」


 アレクシスは、その場で、詳細な調査を指示した。


「民の暮らしの実情と、噛み合っていない制度があるなら、正すべきだ」


 その一言に、居並ぶ重臣たちの間にも、これまでとは違う空気が生まれ始めていた。「役割を守る家」であることに固執してきた王家が、少しずつ、「人を守る家」へと、その姿を変えつつあった。


 同じ頃、リリアーナは、王宮の一角に設けられた、小さな部屋で過ごしていた。


 薬草の知識と、《価値鑑定》の力を活かし、王宮内外の医療や福祉に関わる、新しい仕組みづくりに携わっていた。身分に関わらず、必要な人に、必要な助けが届くようにするための、地道な取り組みだった。


「――リリアーナ様、この処方について、ご相談が」


 若い医師の一人が、書類を手に、リリアーナのもとを訪れる。


「――ここは、こう調整した方がいいと思うわ」


 リリアーナは、丁寧に、その相談に応じていく。かつて「役立たず」と呼ばれた力が、今、確かに、多くの人の役に立っていた。


 だが、その事実は、もはや、彼女の価値のすべてではなかった。役に立つから、価値がある。そうではなく、彼女自身が、自分の意志で、この場所にいることを選んでいる。その事実こそが、今のリリアーナを、静かに支えていた。


 その頃、セドリックは、王宮の書庫で、当時の廃太子事件に関する記録を、あらためて整理する作業に、自ら取り組んでいた。


 誰かに命じられたわけではない。過去の過ちを、正しく後世に残すこと。それが、自分にできる、一つの役割だと、セドリック自身が、見出したものだった。


 カイルは、王家の外側、伯爵家の立場から、実務的な形で、アレクシスを支え続けていた。政治の駆け引きに長けた彼の存在は、新しい王家にとって、欠かせない支柱の一つになっていた。


 その日の夕刻、アレクシスとリリアーナは、王宮の庭で、束の間の休息を取っていた。


「――今日は、いい天気だったな」


「うん。市井にいた頃を、思い出すわね」


 二人は、どちらからともなく、小さく笑い合った。


 特別な事件のない、穏やかな一日だった。だが、その穏やかさの中に、これまでの積み重ねが、確かに息づいていた。


 市井で得たものが、この王宮という場所でも、静かに、しかし確かに、根を下ろし始めていた。


 そして、その先には、アレクシスとリリアーナにとって、もう一つの、大きな節目が、静かに待っていた。

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