↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】悪役令嬢の役立たずスキルで、婚約破棄された王子様を拾いました  作者: ましろゆきな
第五部:新しい王家 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/49

第四十三話 戴冠

 戴冠式の朝、アレクシスは、静かに身支度を整えていた。


 かつて、王太子として当然のように受け入れていたはずの儀式だった。だが今、その重みは、以前とはまったく違うものとして、アレクシスの肩にのしかかっていた。


 控えの間に、リリアーナが姿を見せた。


「――緊張してる?」


「少しだけな」


 アレクシスは、正直に答えた。


「王太子として育てられた頃は、これほどの重みを、感じたことはなかった気がする」


「それは、きっと」


 リリアーナが、静かに続けた。


「あなたが、この国に生きる人たちの顔を、ちゃんと知ってしまったからよ」


 その言葉に、アレクシスは、小さく頷いた。


 その後、カイルとセドリックも、それぞれ、短い言葉を残しに訪れた。多くを語る必要はなかった。ただ、それぞれの立場から、静かな激励が、アレクシスのもとに届けられた。


 やがて、時が来た。


 荘厳な大広間に、王国中から集められた重臣、貴族たちが、居並んでいた。


 国王から、正式に王位が譲られる。長い儀式の言葉が、朗々と読み上げられていく。


 その形式的な響きの中で、アレクシスの脳裏には、市井で過ごした日々の記憶が、静かに重なっていった。


 荷運びの現場で流した汗。薪を割った手応え。「兄ちゃん」と呼ばれた、あの気安さ。名もない人々の、日々の暮らし。


 それらすべてが、今、この重い冠を受け取る自分の、確かな土台になっていた。


「――誓いの言葉を」


 その時が来た。アレクシスは、定められた宣誓の言葉に続けて、自分自身の言葉を、静かに付け加えた。


「俺は、王になるべきだから、この場に立っているわけではありません」


 その一言に、大広間が、わずかにざわめいた。


「この国で生きる、一人ひとりの暮らしを守るために、王でありたいと思います。地位のためではなく、この目で見てきた人々のために」


 その言葉には、これまでのどんな宣誓よりも、確かな重みがあった。


 居並ぶ人々の中に、アレクシスは、大切な顔ぶれを見つけていた。


 リリアーナ。カイル。セドリック。少し離れた場所に、セレナの姿もあった。マリアンヌと、セシリアも、それぞれの表情で、この瞬間を見守っていた。


 直接この場に招くことは叶わなかったが、アレクシスの脳裏には、あの町で世話になった、薬屋の店主や、宿の女将の顔も、確かに浮かんでいた。


 冠が、静かに、アレクシスの頭上に置かれた。


 その重みを、アレクシスは、しっかりと受け止めた。


 もう、逃げるべき重さではなかった。自分自身の意志で、選び取った重さだった。


 戴冠の儀は、静かに、しかし確かに、幕を閉じた。


 新しい王として、アレクシスは、これから歩む道への、静かな期待と共に、その第一歩を踏み出そうとしていた。


 けれど、リリアーナ自身も、まだ知らなかった。


 《価値鑑定》という力が、本当は何を見ているのかを。


 その答えを知るのは、もう少し先のことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。