第四十一話 セドリックとの本当の和解
あの庭園に、アレクシスは再び、弟を誘っていた。
王家としての決着がついた後、政治の場ではなく、ただの兄弟として話がしたかった。手入れのまばらな庭は、あの日と変わらず、そこにあった。だが、そこに流れる空気は、あの時とは、何かが違っていた。
「――話が、あるとのことでしたが」
セドリックが、静かに切り出した。
アレクシスは、しばらく、言葉を選んでいた。長い沈黙の後、ようやく、口を開いた。
「――俺は、お前を、大切にしていた」
その一言から、始めた。
「弟として、ずっと、大事に思ってきたつもりだった。だが」
アレクシスは、そこで、一度、深く息を吸った。
「お前自身を、見ていたわけじゃなかった」
その言葉に、セドリックの表情が、大きく揺れた。
「『優秀な兄』として、『弟を守る兄』として、お前に接してきた。だが、それは、俺が演じていた役割に過ぎなかったのかもしれない。お前が、本当は何を望み、何に苦しんでいたのか。俺は、ちゃんと、見ようとしてこなかった」
アレクシスの声は、静かだったが、深い後悔が滲んでいた。
「今更、謝っても、遅いかもしれない。それでも、伝えておきたかった」
セドリックは、しばらく、何も言えずにいた。
長年、胸の奥に押し込めてきた感情が、一気に込み上げてくるのが分かった。目の縁に、涙が滲む。だが、それは、単純な安堵の涙ではなかった。
救われた、という感覚とは、少し違っていた。むしろ、長い間、誰にも見てもらえなかった何かが、ようやく、認められたことへの、複雑な涙だった。
「――兄上」
セドリックの声は、震えていた。
「俺は、兄上に、認められたかったわけじゃ、なかったのかもしれません」
その言葉は、セドリック自身にとっても、新しい発見だった。
「認められたかった、と思っていました。でも、本当に欲しかったのは、そういうことじゃなかった気がします」
「――では、何が」
「分かりません」
セドリックは、正直に、そう答えた。
「まだ、はっきりとは、分からないんです。ただ」
少しの沈黙の後、セドリックは、静かに続けた。
「俺自身が、何をしたいのか。それを、初めて、自分で考えてみたいと、思っています」
その言葉には、これまでのセドリックにはなかった、静かな強さがあった。
誰かに認められるためではなく、誰かの期待に応えるためでもなく、ただ、自分自身の意志で、これから何を選ぶのか。その問いに、初めて、自分の足で向き合おうとしていた。
アレクシスは、その言葉を、深く受け止めた。
「――それでいい」
静かに、そう答えた。
「答えを、急ぐ必要はない。俺も、同じように、時間をかけて、自分自身を見つけてきた」
二人の間に、これまでとは違う、対等な空気が、静かに生まれていた。
兄と弟としてではなく、一人の人間同士として、初めて向き合えたような、そんな時間だった。
完全な解決ではなかった。まだ、多くのことが、これから先に残されていた。
それでも、庭園に吹く風は、どこか、あの日よりも、澄んでいるように感じられた。
二人は、それぞれの役割から、また一つ、静かに降り始めていた。




